【18】 孤児院を作ります。


「うわーーーーーー!!」

「ぎぇう@えjて」


 背後から、男たちの悲鳴が聞こえる。


 武装した男たちが入って来てすぐ、私は懐にいつも持ち歩いてる黒く大きなクマのぬいぐるみ――ネロを起こした。


 また、念のために人形化して着いてきてもらってたニャン教授も起こして、子どもたちの護衛を頼んだ。



「こっちだよー。お風呂の匂いもするから絶対こっち~」

「了解」

「オレも行く!!」


 サメっちとロニーと一緒に走る。


 まさか、少女の服を神父自ら脱がそうとしてないだろうな……!!



「ここだーーーーーーーー!!」

 サメっちがバーン! と扉を開ける。


 ――そこには。


 ボコボコに殴られた神父と、ちょっとワンピースが脱げそうになっている桃色の髪の少女がいた。

 部屋には白く小さな花が舞い散り、自分の手を見て、あんぐりしている。――少女の手が魔力変質してる。


 魔力を持つものは、魔力を腕などにまとわせて強化することができる。

 ダメージから身を守ったり、相手に危害を加える場合などにも使用したりする。


 見た所、初めて力を使った、みたいな顔してる。

 というか、多分そうだ。

 聖属性は覚醒した時に、白く小さな花が舞い散ると聞く。

 恐らく危機におちいって身を守るためにとっさに使ったんだろう。


 ……つまり、この子は希少な聖属性だ。

 属性によって、わずかに発動した魔力の色が違うが、色もその色だ。


「リリィ!!」

「……っ。ロニー!!」


 抱き合う少年少女……うーん、尊い。


「僕、出番なかったね~~」

「ううん、サメっちの鼻がなかったらここまでこれなかったよ。ありがとうね……あと、悪いんだけどひとっ走りして、治安局のだれかをさらっ……連れてきて」


「いいよぉ~。現場を見せるんだね~」

「うん」


 私は教会内でロープを見つけて、犯人共をみんなぐるぐる巻にしておいた。


「姉さん、ありがとう。……リリィは攫われたばっかだけど、他のやつらはもう、手遅れだと思ってたんだ」


 縛るのを手伝ってくれたロニーがそう言ってきた。


「そっか、家族が見つかってよかったよ……あ、そうだ。もうすぐ治安局の人が来ると思うけど私のことは、できたらあまり話さないで。……とくに、仮面をつける前の顔の話とか」


「……あ、うん、おっけ」


 そこにリリィちゃんも来た。


「お姉さんが、助けてくれたの聞いた、ありがとう」


 にこ、と微笑む。

 うお……超可愛い。

 これはそりゃ目の色変えて探すし、奴隷商にも目を付けられるわ……。

 しかし、桃色の髪に緑の瞳……お母様と同じ色合いに加えて聖属性か……。


 この子がもしお母様に見つかったら、ひどい目に遭わされそうだ……。

 守ってあげたいな……。


「あ、そうだこれ」

「アニー!!」


 リリィは、私が拾ったあの人形を抱きしめて微笑んだ。

 アニー、良かったね。

 君のご主人は無事だったよ。



 ……私はふと、思った。

 この子たちを安全に暮らしていけるようにできないかな? と。


 よし、あとで別棟に帰ったら考えよう。


 サメっちが治安局のおじさんを連れてきた。

 おじさんは正気を失ったかのようなSAN値直葬顔さんちちょくそう(謎)だったけど、あとはロニー達にまかせて私達は退散した。




 翌日、この事は号外で街で新聞(ニュース)が配られていた。


 ニュースによると、犯人たちは――


 ……サメが、成人男性のサメが! あああ!!!

 ……クマが、黒いクマが来る!! あああ!!

 ……二足歩行の! 猫が! 猫が! あああ!!!


 ――などと訳の分からない供述をくりかえし――発狂していたそうだ。


 ……失敬な。

 私の可愛いぬいぐるみたちを化け物のように言うんじゃないわよ。


 私は街から持ち帰ったそのニュースをグシャ、とすると噴水広場のゴミ箱に捨てた。




 私は昨晩自分の予算から、こっそり土地を買うことにした。

 調べたら売りにも出ていたし、買いたい人が他にいなかったので高くはなかった。

  

 あの貧民街一帯を予算が許せる範囲で買った。

 買う際に偽造の住民票とか作ったりもしたけど、そこは割愛させてもらう。


 こうして子どもたちが安心して住める私設孤児院を作る準備を整えていく。

 孤児院は早急に建ててもらえるように、業者に依頼し、一ヶ月後には住めるようにしてもらった。


 他にも何かしら施設を作ろう。

 治安の良い地域を作りたい。


「姉さん、本当にここに俺たち、住んでいいのか?」


 ロニーと、その服のすそをぎゅ、と握ってるリリィがおずおずと聞いてくる。


「もちろん、その為に建てたんだから」


 子どもたちはとても喜んでくれた。


 しかし、子供たちだけで住まわせるわけにもいかないし、私も常駐は今のところむずかしい。

 なので、一体人形を常駐させる事にした。

 人形屋でリアルなメイド人形を見つけてたので購入し、その子に魔力を込め、できるだけ人間に見えるように仕立て、孤児達の面倒と護衛をするように命令した。


  だいたいこんなものかな、と思ったところで子供たちに勉強も必要だと気がついた。


 ――よし、これからは、この子達に勉強を教えよう。

 いずれは教師を雇えたらいいけど、しばらくは私がやればいいや。


 ちょっとテストしたら識字率しきじりつがやばかった。

 とりあえず、文字と簡単な算数を教えてあげよう。


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