【19】 男の生足悪夢とは。

 

 それにしても――リリィは、本当にお母様に似ている。


 といっても、顔は似てないんだけど。

 容姿レベルはやはり高いし、その色合いが全く一緒だし、聖属性も持っている。


 お母様も聖属性だった。

 若い頃は聖女だったらしいけれど、結婚してからは力が衰えて、普通の聖属性になっている。


 国としては聖女のままであって欲しかったらしいけれど、当時、王子だったお父様がどうしても結婚したいと、彼女をめとってしまった。


 聖女は、結婚するとその力を失う。


 

 ちなみに本来聖女が行う、王都に魔物が入ってこないようにする結界が途絶えたままである。

 でも、それを警備する魔物警備の仕事もあるわけだし、それに限っては聖女は別にいなくてもいいだろ感はある。


 ……もしかしたら、リリィは次の聖女、なのかも。


 聖女が力を失ってしばらくすると、次の聖女が現れる、という伝承があり、歴史も振り返るとそうなってることが多い。


 ……ひょっとしてお母様が内密にこっそり産んだ……? とも思ったけど、顔が似てないし、血筋は無関係そうだ。


 それに、こんなとこに捨てて孤児にする必要がない。


 あの人は縦横無尽じゅうおうむじんだ。フリーダムだ。なんでもかんでもツルの一声だ。

 たとえ浮気してできた子であろうと、厚顔無恥こうがんむちに堂々と城で産むだろう。


 その例がお兄様だ。

 皇太子である私の兄は、多分お父様の子じゃない。


 小さい頃はお母様に似ていたけど……最近、前ミリウス辺境伯にそっくりだなって……。


 お母様が前ミリウス辺境伯を私の婚約者にしたのも、飽きただけじゃなく、きっとそれが理由で排除目的もあったんだと思う。


 バレたらバレたで気にはしないし、周りも皆、許すだろうけれど、それでもそういう面倒な出来事を起こらないようにしたいんだろう。

 臭いものにはフタってね。


 はるか昔から様々なスキルやパッシブ・属性が混ぜ込まれ作り込まれた王家の血筋は兄で途絶えるな。





「ねえねえ、お姉ちゃん、ワークできたよー」


 リリィが手をあげてはーいってした。


「わ、リリィはやい!」

「ちくしょー」


「はいはい、出来た子からオヤツにしていいからねー」


「わーい!」


 リリィがオヤツのドーナツとミルクをトレイにセッティングして、先に食べてたロニーの横に座りに行った。

 おこちゃまの癖に、二人の間に流れる空気が甘い!  たまに見つめ合ってる!

 おまいら早く結婚しry。

 ……これは聖女になってちやほやされる人生より、このままの方が幸せだろう。

 花嫁修行させてやりたい。



 私は他に授業のカリキュラムを組んだ。

 いくつかの職業の家庭教師を雇って、子どもたちが将来やれそうな職業を探したり、アルバイトに行かせてみたり、と。


 ……そのうちなんとか、更なる費用を得て、学校も作りたいし、買った土地の中にお店の誘致ゆうちもしてみたりしたいけど、離縁する予定だから継続費用考えると、手は広げられない。


 孤児院継続の費用は、しばらくは頂いてる予算や手持ちの宝石やらでなんとかはなる。

 けれど。

 離縁する時に、孤児院のことだけは旦那様にお願いすることだけは考えておこう。



 *****



「ふー」

 孤児院で、なかなか寝ない子を寝かしつけていたら、別棟に帰るのが遅くなってしまった。

 暗い夜空をサメっちに乗って帰りながら考える。


 もう、孤児院のほうに住んじゃおうかな。

 別棟だってホントに誰も来ないし。

 約束だからパーティは行くつもりだけど、このままだとパーティはやっぱり来なくて良いって言われるかもしれないし。


「……」

 

「旦那様どうしてるかな……あ」


 思わず口に手を当てる。


「リコ……?」


 サメっちが何か気にするかのように私の名前を呼ぶ。 


「あ、ふと思い出しただけ。気にしないで」


「ちょっと、旦那様の部屋、覗いてこっか!」


「え、ちょっと! サメっち!! 駄目だって!」


 サメっちが主人わたしに指示をあおがないで行き先変えた!!

 私は慌てて仮面を付けた。


「ちょっと覗くだけだよ~」

「だからって、起きてたらどうするのよ!」

「さすがにこんな時間寝てるって~」

「でも、今回は、見回りにも見つかるかもしれないし!!」


 旦那様の部屋のバルコニーが見えて来た。


 あれ――旦那様の部屋のバルコニーが見えてきた、と思ったら。

 旦那様がバルコニーにいる!


 うわ!! こっち見た!! 目が合ってしまった!!!


 バルコニーで物思いにふけってる感じの旦那様だったが、こちらを認めて口をあんぐりと開けるまで、ものの数秒だった。



「おまえら!!!」


 だ、旦那様の顔が! 普段、無表情な旦那様の顔が、鬼のような形相に!!


「ほらあ!! ……ちょっと、サメっち……!」

「ごめん……!! 急いで離れる!! しっかり捕まって~!」


 私達は空中できびすを返し、猛スピードで本棟から離れようとした、しかし!


 ――前方に、まるい闇の球体が現れた。


「こ、これわぁ!!!」


 サメっちが悲鳴をあげた。


「なんだこれー!!」


 私は泣いた。そして。



『逃がすか!!』



 ――という声が闇の球体から響いたかと思ったら、旦那様がその中から飛び出してきて、サメっちにの頭の上に乗り移った!!


 そうだ! 旦那様、闇を使ったテレポートできるんだった!!

 やばああああああああああ!!!


「わあ! わああああ!!」


 私は混乱して慌てふためいたが、ここは空の上で逃げ場などない。


「この変態泥棒が! やっと見つけたぞ……!!」


 旦那様!? お言葉が!!

 てか!!


「変態ってなんですか!! 失礼ではないですか!?」

「どう見ても変態だろう!! このサメの中はおっさんじゃないのか!?」


 旦那様お言葉ぁーーー!?


「ひどいぉ!? 僕は変態じゃないし、おっさんでもないぉ!?」


「声はどうやって可愛くしているんだ! オレは騙されないぞ!! 数日、男の生足悪夢にうなされた責任と奪った食料のぶん、罪を償ってもらうからな!!!」

 

 男の生足悪夢ってどんな夢見たんですかぁ!!!

 そんなに血管切れそうな顔になるほど嫌な夢を見られたんですかぁ!?

 生足魅惑のサーメイドですかね?! 可愛いじゃないですか!?

 悪夢になる余地ないじゃないですか!


「可愛いのは声だけじゃないです!!」

「可愛い談義をしにきたんじゃない!!」


 ガッ!! と旦那様に片腕を取られた。


「はうあ!!」


「お前がこの海洋魔物を使役してる術者だな!! 顔を見せてもらうぞ!!」

「ああああああ!? 勘弁してください!? 仮面取ると死にます!!」


 おもに私の社会的な人生が!


「知るかーーーーーー!!」


 バッ!!!


 っと、私から仮面を奪い取る旦那様。仮面は闇夜の森へ落ちていった。


「……あ……」


 旦那様は口をあんぐりと開けて固まった。


「……あ……」


 私は間抜けヅラだった。



「……えっ。姫、さま?」


 旦那様は私を指さした。


「はうあうあ」


 私は声にならない意味不明の単語を発した。


「嘘だろ……」


 旦那様はサメっちの上に手を付いてうつむいた。


「いや、たしかに声は似てたし……そうか、泥棒が入った日はあなたが来た日で……」


「……たぶん、ひと違いをなさっているのでは?」


 私は恐る恐る、ダメ元でそう発言した。


「そんな訳ないだろ!? どう見てもあなた、アプリコット姫じゃないですか!!! ふざけてるんですか!!」


「ふぇ、ふぇー……」


 お、怒られた!! 動揺していて私も変な声しかでない。


「ふぇー、じゃありません。……どういう事か、説明、してもらえますね……」


「ひゃ、ひゃい……」


 暗闇に光る旦那様のじと目が怖い!!

 ああああああ!! なんかとりあえず!! ごめんなさいいいいいい!!


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