Vtuber

「なんせ私は業界No.1のVtuber事務所『ゔいのじ』の社長ですから」


足立 透真が言い放ったその言葉に俺は驚きを隠せなかった。


「え!?あの大手Vtuber事務所を運営されているんですか!」


ゔいのじとは、多くのVtuberが所属している業界大手の事務所だ。

俺もVtuberが好きで、大学生になり1人で生活をするようになってから規則正しく起きるため、朝早く起きていたのだが、することがなく、そこでハマったのがVtuberだ。

朝に配信を行っているVtuberも多く、ゆったりご飯を食べながらVtuberの配信を見るのが毎朝の楽しみになっていた。


その中で推しが何人か出来てきたのだが、その推しの所属しているグループがゔいのじというグループに所属している。

そのため、ゔいのじについては結構知っているし、毎日お世話になっている。


その社長さんがなんで凛音と関わりがあるんだ?

本当に理解が出来ない。



ゔいのじについて足立さんに多くを聞きたかったが、俺には使命があってここにいるのだ。


「足立さん、小瀬川 凛音とはどんな関係なのですか?」


すると少し恥じらうような仕草をして、彼は嘆いた。

「お恥ずかしい話ですが、よろしいでしょうか?」

「問題ないですよ」


俺がそういうと、少し深呼吸をして話し始めた。


「私がVtuber事務所を開設した理由は、Vtuberという職業に魅力を感じたからです。でも、自分では行うことは難しいので、自分が運営する側になればいいのではないかと思い、数年前に会社を設立しました」


彼は思い出すように語る。

「軌道に乗り、私自身凄く嬉しかったです。ですが、ある日を境にVtuberの魅力があまり感じられなくなってしまって。そこから現実の女性と交際を始めたのですが、年齢もあり、交際も長くは続きませんでした。そこでレンタル彼女という仕事をされている小瀬川さんを知ったんです」


凛音と知り合った経緯については理解できた。

しかし気になることがある。

なぜこの病院に来ることを健が許したのか、だ。

普通の利用客だったら健が関係を絶つと思う。


ただレンタルした人という訳では無いようだ。


「小瀬川さんとレンタル彼女としてですが仲良くさせてもらっている時に、職業について話す機会があったのです。そこで思い切って『Vtuberの事務所の運営をしている』と伝えました。すると小瀬川さんは言ったんです」



「『私、実はVtuberになりたい』と」


全く理解できない。

凛音がVtuberになりたい?

そんな話は今まで一切聞いたことがなかった。第一、Vtuberについて話を交わしたことすらないにも関わらず、凛音がなぜVtuberを目指しているのかがわからなかった。


「それ、小瀬川は本気で言っていました?」

俺は半信半疑で足立さんに問いかけてみると、「私も最初はお世辞だと思いましたよ」と前置きした上で、

「でも彼女は本気だったんです。でもVtuber事務所の件について本気でやりたいようで、事務所以外で少しだけ話させてもらいました。そして事務所の話が進んでいたのは3日前の話です。正式に会社に連れて行き、契約してもらおうと思っていたんですよ」


そして1番俺が理解できないことは、



レンタル彼女、そしてVtuberをやりたい目的は何なのか?


元々レンタル彼女をやっている理由もわからないし、Vtuberをしたいと言っていることも恐らく凛音の本心なんだろう。高校の時まで一切そのようなことには興味がなかった凛音がなんで...。

ヒントだけでも掴めれればという気持ちで、足立さんの話を聞く。


「ただ、会社を見た彼女は唖然としていて、終始落ち着かない様子でした。そして契約のサインもし、帰る間際に事件は起きました」


彼は急に深刻そうな顔をする。

ここで横で話を聞いていた健が割り込んでくる。


「実は、緊張のあまりふらついた彼女は足をつまずき、机の角に頭を衝突させてしまったんだ。そのせいで今、入院している」


信じられない・・・。

凛音が机の角に頭をぶつけてしまった。俺はその事実を呑み込むのに少し時間がかかった。彼女も自分の目標の為に、色々頑張ったのだろう。そして契約をし、緊張が少し緩まった時にぶつけてしまったのだろう。



「そして涼、君に報告するべきことがあるんだ」

健が深刻な顔をして嘆いた。



これ以上悪いことが増えないでくれ



足立さんと健によって、願った俺の祈りも叶うことない願望として、儚く散る。


2人は声を揃えて告げた。




「「小瀬川 凛音は、記憶を失った」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る