1章 最終話 そして冒険者は・・・

「そして冒険者は、もうすぐ来ると思う」

環琉ちゃんは告げた。


「川を跳ぶの?」

「昨晩は跳べなかったと思うから、今晩は跳ぶと思う」


そう言うと環琉ちゃんは、リュックサックからカメラを撮りだした。

「だから決定的チャンスを、撮れる場所に移動しよう」


ぼくは軽トラで周辺を走って、川の反対側の良い撮影場所に軽トラを停めた。

ちょうど着地ポイントが見える場所だ。


そこで、エンジンを止めて、ぼくらは公園の棒が置いてある場所を、見つめた。

深夜3時を回ったころに、ぼくを睡魔が襲った。


・・・何だろう・・・何か良い香りがする・・・懐かしい安心する香りだ・・・


「めぐるくん起きて!」

その声と頬と叩く痛みでぼくは目を覚ました。


あっここはもなかちゃんのふとももの上だ!

ぼくは素早く起き上がり

「ごめん」

と。


「見て見て見て、棒を持った人が」

もなかちゃんが指し示す川辺に、5メートルの棒が聳えていた。

「跳ぶ!」

環琉ちゃんが小さく叫んだ。


その人は川に向かって走り、棒を川底に着きつけて、半円を描くように跳んだ。

軽トラの車内を、カメラのフラッシュの光で、満たした。


「フラッシュしたら、バレルじゃん!」

ぼくの声にも環琉ちゃんはお構いなしだ。


棒を持った人が、こちら側の川辺に着地して、両手を上げ歓喜の表情を浮かべていた。

車内でも、もなかちゃんが「やったー!成功だぁ!」と声を上げ、車内は歓喜に満ちた。


「あれ、なんかこっちに来るよ」

カメラを撮り終え、満足したであろう環琉ちゃんは告げた。


5メートルの棒をまるで槍のように構えて人影が、軽トラに近づいて来た。

きっとフラッシュに気づいたんだ。


「逃げる?」

ぼくの問いに、もなかちゃんが、

「いや大丈夫」


夜空に聳える5メートルのその槍に、ぼくは戦国時代の長槍を想った。


爺の孫娘と恩人を守らないと!


ぼくはその5メートルの槍で、攻撃される前に、何か言い訳をしようと軽トラから出た。


「あの人、この前見たよ」

「あれは演劇部の部長じゃない」

ぼくの背後で声がした。


「あれ~ファントム?こんな所で何してるの?」

ぼくの事を【ファントム】と呼ぶと言う事は、間違いなく演劇部の部長だ。


演劇部の部長は、ぼくの背後の環琉ちゃんともなかちゃんを確認すると、

「いちゃこらしてた?」


「こんな夜中の車の中で、男女がする事と言ったら♪」←もなかちゃん

「何もしてないです!」←環琉ちゃん


「もなかちゃん、誤解を生むから!」←ファントム


演劇部の部長は、ぼくらをみて微笑んだ。

冒険を成功させた演劇の部長の顔は、晴れ晴れとしていた。

これが冒険者の顔なのだろう。





        1章 完






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めぐるめく日常 ~環琉くんと環琉ちゃん~ 健野屋文乃(たけのやふみの) @ituki-siso

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