わたしメリーさん、異世界に転移する

「人間に昇華する速度?」


それが私を危険視した理由?私は数十年生きてきたが霊が人間に昇華するなんて話は初めて聞いた。

霊が人間になるなんて話はすぐ噂になって私も知っているはずだ。

もし人間に昇華したらその例の記憶は消えるのだろうか…。それならば説明がつく、私たちが人間に昇華するのと同時にその霊のことは皆記憶からなくなり、その霊は人間として生活を送る。


「残念ながらあなたが考えている仮説は全く違うわよ」


私が思考していると、私の前にいた神と名乗る女がそう言ってきた。


「霊が人間に昇華したって記憶は消えたりしないわ」


「じゃあなんで私が聞いたことがないの」


「当たり前でしょう?人間に昇華した霊は皆、すぐ死んだのだから」


「は…?どういうこと?」


この女が言ったことは理解できる。しかし、そんな都合のいい話があるだろうか。

人間になったらすぐに死ぬ、まるで誰がか意図的に殺しているのではないか。それを疑うレベルである。


「あなたが疑うのは結構だけれどこれは事実よ、人間に昇華した霊はすぐに亡くなる。空中を歩いているときに人間になりそのまま落下、あなたみたいに道路を歩いている途中に人間になり轢かれる。

死に方は色々だけど皆このようにして死んでいるわ」


胡散臭い、しかしこの女には妙な説得力があった。

おそらくだが、これは事実だろう。だがそれでも私が殺された理由にしては弱い。私が人間になるのが速いから殺した?絶対にそれ以外に理由がある。

だが、その理由は私にはわからない。


「理由を知りたかしら」


先ほどからずっと思考を読まれている。だが、そんなことはどうでもいい。

私が殺される理由が知れるなら安いものだ。


「もちろん知りたい。だから早く教えて」


「もう、そうせかさないの。じゃ、結論から言うわね。

このままだとあなたは大量の人を殺す‶殺人鬼"になっていたからよ、それも過去最大のね。

犠牲者が1億人以上、殺害方法はナイフでの刺殺。これがあらゆる場所で一斉に起こったわ、あなたの力によってね」


「私の…力?」


私には分身は作り出せないし、1億人の人も殺せない。せいぜい殺せて数百人だ。

その何百倍以上?そんなことできるはずがない。


「それができるのよ。あなたの力があればね」


力…。先ほどもこの女は言っていた、私の力だと…。だがそんな力なんて私には存在しない。


「そう、あなたにはそんな力は元々なかった。しかし人間になることでその力を得たのよ。あなたがしようとしていたことを遂行するためにね」


私がしようとしていたこと…。まさか、人殺し?確かに霊になってからは人しか殺していない。なぜなら私の人形を捨てるのは必ず人間だからだ。

だからと言って1億人以上の人を殺す意味がない、私が殺すのはあくまで私を捨てた者のみだ。

もしかして、人間になることで見境なく人を殺したのだろうか。


ありえなくはない。この自称神によると私が人間になることで強大な力を手に入れたらしい。

その力が原因で私は『暴走』したのではないのか。


「あなたが考えている通りよ、あなたは人間になることで力を手に入れたけれどその力を制御できずに暴走していたわ。これは存在する未来のなかで一番多い選択肢だったわ。私は私の管理する世界を守るためにあなたを殺したわ」


「そういうことね、やっと理解したわ」


「理解してくれたようで感謝するわ」


そう言うと自称神は頭を下げてきた。神って普通は頭を下げるんじゃなくて下げさせるんじゃないっけ。まあいいか。


「で、私はどうなるの?」


次に気になるのはこれだ。地球で死んだ私は強制的に成仏させられでもするのだろうか。それとも地獄に送られて馬車馬のように働かせられるのだろうか。どっちにしろ嫌だなぁ。


「あなたは私が管理する違う世界に転移させてもらいます。私の都合であなたを殺しているのでこれくらいは配慮しなくてはいけませんからね」


おぉ、この自称神はとても立派な神らしい。この神が上司ならさぞかしいいだろうな。


「さて、あなたに行ってもらう世界はよくある魔法が使える世界です」


普通魔法はないんだけどね。神の視点から見たら魔法なんてありふれているのか。

魔法の世界かぁ…。結構楽しみだな、魔法は誰もが一度は憧れるものだからね。


「あなたには人間の姿を与えるのでその姿で過ごしてください。今持っている力はそのまま使えるので安心してください」


ふむ、それならよかった。また一から力をつけるとなると途方もない時間がかかってしまうからね。

それにしても人間の姿か、せっかくならできなかったこともやりたい。


「そういえば、私が元々得るはずだった力はどうなるんだ?」


「その力はあなたが向こうの世界で強くなれば徐々に解放されます。一気に力を与えてしまえば暴走してしまうのでそうさせてもらいます」


ほほう、それはいいことを聞いた。そしたら一刻も早く強くなりその力を得たいところだ。力があればできることが広がるからね、どれだけあってもよい。


「さて、そろそろ時間もいいところなので向こうの世界に送りますね。送る場所は森になってます、あなたが転移したら近くにバッグがあると思うのでそれを使ってください。中を見ればわかると思います」


「結構親切なんだね」


「これでも神なので」


やっぱり自称神様はすごいらしい。こんな神様がたくさんいるのか…。それはそれで怖いな。


「あ、言い忘れていましたがあなたには呪力という向こうの世界にはない力があります。呪力は呪いを使うときに必要なので忘れないでくださいね」


「魔法があるのに呪いなんて使うのか?」


「それはあなた次第ですね。おっと、そろそろ時間も押してきましたのであなたを転移させます。それでは良き異世界生活を、ご武運を祈ります」


自称神様が何かを呟くと私の体は透け始めた、それと同時に私の意識も薄れ始めてきた。

宙に浮く感覚を感じながら私は意識を失った。

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