第46話「悪役令嬢、『デコトラ』ヲ討伐ス」
グロロロ……。
俺様達の眼前の木々の中から山道に出て来たのは、全長10m程のデコトラというよりは四角い鉄の箱のようだった。
金属なのか陶製なのかよくわからない材質でできており青緑色の光沢を放っている。表面にはよくわからない模様が光って浮かび上がり、タイヤはついているがゴム製でもなく車体と同様の素材のようだ。
だがデコトラというにはどうも違和感がある。以前迷宮で見た疑似デコトラは石製とはいえ細部まで作り込まれた感じはあった。
しかし目の前のものは、うまく言えないがどこか違う。後ろ半分も四角い荷台があるが機能的には感じず、ただ形を真似ただけのように見える。
「前に見たのと違うねぇ」
「現れおったか……、しかしデコトラというのとはちと違うの?」
「二人共そう思うか、無理やり見た目だけを真似たようにしか見えないんだよな」
だが、俺様達が呑気にしていられたのもそこまでだった。突然目の前のデコトラ?がエンジンのような音をさせながら山道をこちらへ向かって来る。
「あぶねっ!」
俺様はすぐさまその場から跳び退いたが、向こうは木々を薙ぎ倒しながら車体をすべらせて180°ターンし、またこちらに突っ込んでくるつもりなのか体勢を立て直していた。
「ちょっとまずいかな? 逃げた方が良いか?」
「ウチらの任務は調査じゃからの、向こうが逃がしてくれるならそれでも良いが」
「やっちゃえー! じゃばばー!」
バラバラだな俺様達のパーティは、リアさん現状わかってる?
「よし、逃げよう」
まずは眼の前の襲って来る相手からとりあえず逃げなければならない。こんな山道で下手にぶつかられたら山のふもとまで転がり落ちかねないからだ。
「えー! 逃げるのー?」
「いやリア、この場合賢明じゃぞ。ウチらは別にあやつを始末しろとまでは言われとらんからな」
逃げて逃げて逃げて走るが、正直言うと俺様はそこまで四つ脚で走るのが上手いわけじゃない。タイヤで走るよりは遅いからな。
対して向こうは周辺の環境破壊なぞおかまいなしにぶつかる木や岩を薙ぎ倒して進んでくる。
そして、俺様が走っている道なき道もいつまでも続いているわけじゃない。ついには目の前に大きな岩が立ちふさがった。
「おいジャバウォック! 前!」
「わかってる! こうなったら反撃だ!」
俺様は走るのを止めると、向かってくるデコトラ?の方に身体を向けた。あの勢いで来るならそうそう逃げられないだろう、レーザーかミサイルをブチ込んでやる。
だが、その命令は実行される事は無かった。なんで?
【ご案内します。相手の外装の強度に対しての攻撃力が不足しています。また、あの敵に対して攻撃を仕掛けるのは最小限にすべきです。
あれは古代文明か何かのゴーレムの一種でしょう。観測した生物や機械の機能を模倣し、より強くなっていくものと思われます】
「へ? ならミサイル撃ったらミサイル撃つ事を覚えるわけ?」
【ご案内します。あくまで可能性ですが、推奨はいたしません】
「威力が足りないなら、あのでっかい剣は? 一撃でやっつけちゃえば良いだけでしょ? こないだの迷宮とおなじようにしたら良いんじゃないの?」
【ご案内します。ヴォーパルソードの抜剣申請も却下させていただきます。対象内部からデコトラ因子の反応がありませんので効果は期待できません】
え? デコトラじゃないの? というかデコトラかどうかを判定する基準があるんだ……。
「おいおいおいおいおい、相手がデコトラだの違うのと言っておれんぞ! 前! 前じゃ!」
気付いたらデコトラ?はかなりの勢いでこちらへと迫っていた。なら最後のプランだ、俺様は横ステップで自ら谷の方へと車体を投じ、相手を避けた。自爆しろ!
大きな衝突音と共に岩が砕ける音がしたが、こちらもそれを気にしている余裕はない。俺様は山の斜面を走るようにして駆け下りている。うおー!怖ぇー!
前から来る木を避け、岩を避け、なんとか止まろうとするがなかなかそうもいかない。【ガイドさん】!サポートお願いできない?
【ご案内します。四つ足歩行の制御は不得意です。ご自分でなんとかしてください】
断られたー!?
「来おったぞ! 追ってくる」
レイハの言う通り、後ろからデコトラ?が追ってきていた。こちらとは違ってタイヤなのだが、もはや強引に斜面を滑り落ちてきてくる。
前も後ろも大騒ぎだなおい!やべえ!降りていった先は谷川みたいになってる!俺様はかろうじて両側の岩肌に爪を立てながら降りていくのがやっとだ。
その時後ろから崩れるような音がした。
「ジャバウォック! 避けろ! あのデコトラ、沢に突っ込んでバランスを崩しおった! こっちに落ちてくるぞ!」
「見境なしかよ! 何考えてんだ!避けろといってもどっちに逃げろっての!」
【ご案内します。私の指示通りに避けてください。3…2…1…左に跳んでください!】
【ガイドさん】はデコトラ?の落下を計算してくれたのか、俺様が向かうべき方向を指示してくれた。その瞬間、足の下をデコトラ?が滑り落ちていく。
岩肌に胴体をぶつけ、木で方向が変わりながらもみくちゃになって落ちていくが、ああはなりたくないよなぁ。
「呑気な事を言うとる場合か? こっちのデコトラもまだ無事とは言えんぞ。まだまだ下は……無い!」
突然、眼の前が開けた。眼の前は180°の視界が森や山だ。沢みたいになっていた所が途切れ、崖になっていて俺様達はそこから飛び降りた形だ。この高さはまずくない?
【ご案内します。極めて危険な高度です、早急に安全を確保して下さい】
そりゃ確保したいけどさぁ!宙を舞ってる時に言われてもさぁ!落ちるー!
次回、第47話「レイハト黒イ魔力」
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