第47話「レイハト黒イ魔力」
拝啓、前世のオーナー様、いかがお過ごしですか。貴男と共に駆けた日々が懐かしく思い出されます。
あんな事やこんな事ありましたよね。嬉しかった事、面白かった事、いつになっても忘れないものです。
俺様は今、空を飛んでいます、まぁ正確には自由落下中なのですが。おそらきれい。ですが挑戦というのは人生のいつでも良いんだという貴男の言葉が今になって
「ジャバウォック! 人生の走馬灯を見とる場合か! お主が何もせなんだらウチら落ちるだけじゃぞ!」
「うわぁー、山が綺麗に見えるねぇ」
【ご案内します。さっさと起きてください、この高度で落下すれば大破して全滅は免れません。落下予測地点は岩肌が露出しておりますので特に注意が必要です】
わざわざご分析ありがとうございます! 言われなくてもわかるけどね!
「さ、さささささささささすがにこの高さからは、まずいよなぁ?」
「落ち着けジャバウォック! まだ落下には時間がある! なんとか新しいスキルでも武装でも取得できんのか!」
そうだ! 俺様を改造すれば空くらいは飛べるよな! いつだったかそんな事言われた覚えあるし! 【ガイドさん】!
【ご案内します。保有
「で、DPの前借りとかできない? 後で返すから! 絶対返すから!」「それクズが金借りる時の言い訳じゃぞ……」
【ご案内します。ご利用は計画的にと最初に申し上げましたが?】「そこを何とか! お願い!」【ダメだっつってんだろ】
「バカな事を言うとる場合か! 地面はもうすぐそこじゃぞ!」
車内の俺様達はもう大騒ぎだ。だがリアだけは落ちていく先の地面をじっと見つめて何か考えていた。
「ジャバウォック! こないだのダミーをこの真下に出して! 早く! 1つで良いから!」
「へ? 盾にするの? いっしょに落ちたら意味無くない?「早く!」はい!」
「【ガイドさん】! 下の地面に向けてデコトラミサイル! 場所は任せるわ!」
【了解いたしました。カウントダウンは省略いたします。発射】
珍しく叫ぶリアの剣幕に押されて、俺様は慌てて自分の下にダミーの俺様を出し、【ガイドさん】はリアの意図を一瞬で汲み取り、即座にミサイルを発射した。
俺様達が落ちようとしているその先にミサイルは着弾して爆発を起こす。そこへ俺様達は落下していくが、間にあるダミーがまともにその爆発を受け止めてくれた。
その反動で落下する勢いは相殺され、さらには破壊されたダミーを潰しながら着地した事で俺様達は命拾いをした。
「ふ、ふぇ~、助かった。……おいおい、先に落ちた方の俺様のダミー、バラバラだぞ。よく無事だったな」
「あやうく死ぬ所じゃったな。やむを得んとはいえ、あんなのはもうごめんじゃわ。それにしてもリア、ここぞという時は肝が座っておるな。礼を言う、命拾いした」
「えへへ~。褒めて褒めて」
だが、俺様達が見事に着地したのとは対照的に、デコトラ?の方はそうはいかなかった。山の方から転がり落ちるように落下してきて、崖下の岩肌に激突した。
「あっちも転がり落ちてきたのか。ってボロボロだな」
デコトラ?はギギ……、とかガガ……とかいう音を立てながら動こうとしているが、そもそも身体が大きく歪んでいるのできちんと動けないようだ。だが、その身体に変化があった。
なんと、タイヤ部分がバラけて、俺様と同じような足となった。身体の方も破損している部分がどんどん切り離されていく。程なくデコトラ?は俺様と同じような姿となった。
「おいジャバウォック、お主の姿を真似たという事は強敵と認識したようじゃぞ、また襲ってくる。猟師の話からすると自分が相手より強いかを試すようじゃからな」
「ええー、戦わないといけないのかー?」
元々戦うために山に入ったわけじゃないんだが仕方ない。とはいえ、かなり村に近いんだよなぁここ。
あまり暴れまわってあっちに被害出てもまずい。ここはデコトラを解除してデコトラアーマーで行くか!
「レイハ、リア、降りてくれ。あいつは今はまだレーザーとかミサイルも撃てないはずだ。肉弾戦で始末した方が良いと思うぞ」
「ウチもそれに乗った。デコトラのままだといずれは武装を使わんといけなくなりそうじゃからな」
「よーし、それじゃ私も戦うよー!」
【ご案内いたします。主様の剣を殺傷モードにいたしました。】
第2ラウンド開始といった所か。だが、今の俺様達にしてみれば脚付きデコトラ?の攻撃は物足りないものだった。
いつぞやの冒険者試験とは逆の立場だなぁ。というのも相手は速度や突進力こそ凄いものの、その動きは単調だからだ。
俺様とリアもレイハも問題なく攻撃を見切ることができ、避けることはたやすかった。
「なんだか、がむしゃらに走ってるだけに見えるねぇ」
「リア、足場はあまり良くない。むやみにジャンプした方が不利じゃぞ、落ち着いて仕留めろ」
レイハは腰の小刀を抜き放ち、魔式刀を練り上げ始めていた。
んじゃ俺様はレーザーもミサイルも使いたくないので、リアの背中から腕を生やして打撃特化にする事にした。
相手がマイクロバスサイズになっているのが幸いだ、大きすぎず小さすぎず、殴るには十分な大きさだからだ。
「リア! 攻撃は俺様に任せろ! 接近戦だ!」
「うん!」
「常々思うが、お主らのそれ、見た目なんとかならんか……」
俺様がぶん殴ると表面には凹みが生じた。見た目以上にヤワいなこいつ。
【ご案内します。先ほど破損した部分を切り離していたようですが、その為に構成する物質の密度が下がっており、機能と強度に低下が認められます】
崖からいっしょに落ちたのも無駄じゃなかったって事か! 今なら殴るだけでいけそうだ! 俺様はデコトラ?の背中に乗り、装甲の隙間に指を差し込んで無理やり引っぺがした。
内部にメカ的なものは見えず。層になっている部分が剥がせただけのようだ。
だがそれで十分!背中に乗られたのを嫌がってか相手は何とか振りほどこうとするが、逆にその力を利用して相手を構成する装甲を引き剥がしていく。
「良いぞジャバウォック! その調子で相手の目方を減らしていけ! しかしこうしてみると、生物というよりは何かの植物じゃなまるで、どこかに核となる部分がありそうなものじゃが」
だが、俺様がデコトラ?と揉み合っているとそこに一人の少年がやってきた。
「やめて! ギギをいじめないで!」
「おい小僧! 危ないぞ!」
「そいつは暴れてたんじゃない!僕を守るために強くなろうとしてただけなんだ!」
ギ、ギギ……。
デコトラ?はレイハに静止されている少年の姿を認めると、ほんの僅かだが大人しくなったようだ。
「小僧、たしか猟師の所のテッド、だったか? ギギというのはこのゴーレムの事か?」
レイハは少年にそう尋ね、少年はコクリと頷いた。
「僕が山で遊んでる時、山中で狼の群れに襲われたんだ。逃げて逃げて逃げたらどこかの割れ目みたいな所に落ちちゃって、そこが古代遺跡で、
そしたら、その遺跡の奥に”この子”がいて、慌てて後ろに回り込んだら何だかわからないけど動き始めてたんだ。そしたら突然狼の姿になって追い払ってくれて」
「模倣型の護衛用ゴーレムだったのかのぅ。お主を主として認めたようじゃな」
「さすがに村には連れて帰れないから、元いた場所で静かにしてて、って言ったら大人しくなってさ。でも会いたくなって何度も遺跡に遊びに行ったんだ」
「おい、こんな山の中じゃ危険じゃろ、よく無事だったな」
「うん、何度も他の獣や魔物に襲われそうになって、その度にこの子は強くなってくれて、じゃぁ山で一番強くなってくれ、って命令しちゃって」
「それで暴れまわっておったと言う事か。取り消せよそんな命令」
「ちゃんと命令したよ!山で強くなるのは良いけど、必要以上に暴れちゃだめだ、って。でもある日突然四角い姿になって様子がおかしくなって、僕も危ないから山には行っちゃいけないと言われたからその後どうなってるかわからなかったんだ」
「気づいたらデコトラにまで進化しておったという事か……」
「ねぇじゃばば、ちょっとその腕使って良い?」
リアはレイハとテッドとかいう少年の話を黙って聞いていたが、何か見て思いついたらしい。
「んん? 話聞かなくて良いの? というか自由だねリアさん」
「ちょっと、ここ、気になるものが……」
「えい」
突然、リアがデコトラ?改めギギの背中の亀裂に巨大な方の腕を差し入れ、真っ二つに割っちゃった。
「おいいいい! リア! 何してんのぉ!?」
「ここから変な黒い煙みたいなの出てるんだもの、どうなってるかなって」
一応生き物ではないとはいえ、何のためらいもなく割るなよ! さすがにレイハに捕まってる少年も暴れ始めた。
「ギギいいいい!?」
「リアあああ!? お主情緒無いのか!? 今わりと良い話的な流れじゃったろが……、いやあれは!?」
ギギが暴れた事で構成する物質にさらに亀裂が入り、何かの核のようなものが露出した。緑がかった青白い光を放つそれは、脈動するように血管のようなものを伸ばしていた。
俺様はその形状に見覚えがあった。迷宮の奥にあったダンジョンコアと似たような感じだったからだ。やはりこれも古代デコトラ文明の遺産的なものだったのか。だが、そのコアが突然黒く染まった。
発光しているにも関わらず。内部から吹き出る黒い煙のようなもので輝きが覆い隠されてしまうのだ。
「何だよこれ、見た事無い感じになってるぞ。おいレイハ、これ……、レイハ?」
突如、レイハが見たことも無いような凶悪な笑顔になっていた。
「く、く、くくくくくく。ようやく見つけた、見つけたぞ!闇の魔力を!」
次回、第48話「レイハト『巫術』」
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