第45話「悪役令嬢、デコトラヲ捜索ス」


「冒険者って山にも登るのねぇ」

「時も場所も場合も選べない、それが冒険者の依頼というものじゃ。現地に行けば『ようこそ』と獲物が待っていてくれるわけでは無いからの」


今の俺様達は『デコトラ』探索のために山の中を歩いている。とはいえ道なんてほとんど無い。獣道みたいな道無き道を剣で木の枝等を払いながら進んでいるのだ。

メイドのケイトさんは村で待機中だ、いくら何でもメイド服で登山はできない。じゃぁ元貴族令嬢のリアはというと、既にデコトラアーマーを装着済みで、道なき道を行くのはそれほど苦にもならない状態だ。

地道極まる行為だが『デコトラ』が現れる場所は一定しているわけではない、探し回るしか無いのだ。俺様達は山から山へと探し回る。

時には山道を歩くだけではなく崖まで登らないといけなかったが、【ガイドさん】が『スキル:重力制御』を転用して『リアの半径5m範囲の地面の重力がとにかく下方向』という状態にしてくれたので、その崖を垂直に歩いて登っている。


「非常識にも程があるぞこの登山は!」

「えー、良いじゃんレイハ、楽で」

「お嬢様育ちのリアを苦労させるわけにはいかんからなぁ」

【ご案内いたします。レイハ様、表示されている輪から出そうになっております。重力という名の愛に囚われ、崖下の地面に抱擁されたいのならお止めいたしませんが」

「むやみに詩的な言い回しをせんでも言う事を聞くがな……。見てて酔いそうじゃわこの景色は」

まぁ山が真横に突っ立っている風景というのはかなりシュールだわな。その状態で歩いたり岩から岩へと飛び移るのはレイハでなくても文句は言いたいだろうが仕方ないのだ。

とはいえ、見つかるのは痕跡だけだった。タイヤの跡しか見つからず、眼下に見えるのはなぎ倒された木々や砕かれた岩だけだった。


「うーん、見つからないねぇ」

「こういう探索自体はウチも得意というわけでは無いからの、実質狩りのようなものじゃからそう簡単なものではないぞ」

「レイハはどう思う? デコトラがこの辺で野生化か何かしてると思う?」

「それにしては行動が妙ではある。デコトラであるからには、リアのように誰かを主としておるはずじゃろ? 噂の『デコトラ聖女』のように人の世に混じって生きる方がまだそれらしいぞ」

「だからデコトラは野生動物じゃないって……」


かれこれ数時間は歩き回っただろうか、それなりに高い山の山頂まで登り、俯瞰ふかんするようにあたりを見回してもそれらしい動きは無かった。デコトラなんて大きなものが動けば目立たないはずが無いんだが。

この状態にはさすがのレイハも考える所があるらしく、腕組みしながら当たりを渋い顔で見回している。

「うーむ。これを延々続けるのも無理があるのぉ。別にそれでもかまわんが効率が悪すぎる、せめて相手をこの目で確認だけはしたいんじゃが」

「出てくる場所が決まってるというわけじゃないものねぇ。何日もこれだとちょっと嫌だわ」

「俺様の方は自分のタイヤで走れないから山の中はあんまり好きじゃないのよね……。

 【ガイドさん】、見つける為の何か良い方法とか無いか? 『スキル:存在感知』だとやっぱり野生動物とかが多くてよくわからんのよ」

【ご案内いたします。相手は”強い生物”に反応するのでしょう?】



「あはははははははは! おーっほっほっほっほっほ!」

「リアー!? 他に!手は!無いのかー!?」

リアは山中を獣のように駆け巡っていた。俺様は強い敵が欲しいなら用意してしまえと、以前の疑似デコトラと戦った時の形態、デコトラケンタウロス(仮名)になっているのだ。

身体の制御をリアに渡したらデコトラを運転した時のようなテンションになって暴走し、レイハはその背中にしがみついている状態だ。

下半身が四つ足の獣であれば安定感抜群な上に、俺様はある程度体重を変更できる。身軽になった体躯は軽々と崖を駆け上り、駆け下る。

これで機動力はかなり上がった。俺様達は自らの存在を誇示しつつ探索範囲も格段に上がったので山から山へ痕跡らしきものを探して回る。

丁度良いので俺様もリアのお腹部分からデコトライガーの顔を出して咆哮しておこう。


「がおー!」「おーっほっほっほっほっほ!」

「がおー!」「おーっほっほっほっほっほ!」

「がおー!」「おーっほっほっほっほっほ!」

崖の上に立ち、リアの高笑いと、俺様の咆哮が辺りにこだまし、やまびこが帰って来る。

「……別の意味で騒ぎになりそうな気がするのぉ」


「うーん、出てこないねぇ」

「一応効果はあるぞ。弱い生き物がどこかに行ったので、存在感知に引っかかるのが少なくなった」

「……それウチらが猟場を荒らしてるのではないか?」

夕方近くになり日も傾いてきた。そろそろ限界なので俺様達は本日の探索と終了し、下山する事にした、今日もよく働いたぜ。



「あ、あのー、冒険者様がた、大丈夫でしたか? その、山から奇声や咆哮が聞こえ、何かとんでもない物が争っているのではという声が上がっておるのですが」

村に戻ってきたら村長が血相を変えて出迎えてきた。やべ、声ってこんな遠くまで通るのね、加減しないといけなかったか。

「あ、あー、あれね?大丈夫じゃない? 私達が近づいたらどこかへ行ったし」

「……ウチはノーコメントじゃ」

「はぁ……、どうかお気をつけ下さい。冒険者様がたが帰らず、更に妙な怪物まで出てくるとあっては、この地域の評判に……」

「そ、そうねー、気をつけるわ」

「マジで頼むぞ、リア。」

一日目はこんな感じで暮れたのだった。


そして二日目。

「がおー!」「おーっほっほっほっほっほ!」

「お主らは自重するという事を知らんのかー!」

だってこれ楽しいんだもの。


三日目、そろそろマズい気がするなぁ。

「……お嬢様、毎日毎日一体何をやらかしてくれやがっておられるのですか」

朝、ケイトさんが珍しく俺様達に少々渋い顔でリアに苦情を申し立てて来た。

うん、これはもう気づかれているパターンですね? そこには鬼メイド長さんが降臨なされていた。さすがのリアもケイトさんの顔を直視できず目をそらす。

どうも村で待っている間に色々あったらしい。一応昨晩は探し回って疲れているだろうと気を遣ってくれて今日にしてくれたようだ。


「妙な奇声や獣の吠える声が山中に響き渡っているのですが、お嬢様達が山に入るようになってからだと、村人の間に不安が広がりまくっているのでございますよ」

よっぽど色々と聞かれたみたいだ。あの冒険者達は大丈夫なのか、変なものを呼び出したりしていないのかと色々聞かれたらしい。

「それだけならまだ良いのですが、心配になって山に入った村人の何人もが、異形の魔物を見たそうなのです。

 獣のような下半身に、腕だけがムキムキの鎧武者の上半身が乗っており、獣のような吠え声と女性の高笑いはその魔物が出しているのだと。

 そしてその背中には黒髪の女性が跨っているとの事ですが……。心当たり、ありますよね?」

最後の黒髪の女性のくだりはレイハを見ておっしゃっておられます。怖い。

声だけではなく思い切り目撃されていたようだ。二日にわたりあれだけ騒げばそうもなるか。もしかしたらやりすぎたかも知れん。

「いや、どう考えてもやり過ぎじゃろ」

「な、何のことかしら~?」

「ともあれ、あまり騒ぎにならないようにして下さいませ。お嬢様の冒険者としての今後の評判にも関わるでしょうから」

「「はい……」」



「……だからといって、これは無いのではないか?」

「そうか? 良いアイデアだと思ったんだが、何か問題あるか?」

「大有りじゃ! ぶっちゃけキモいわこれ!」

今の俺様は、あの怪物の姿はまずいと判断し、小型のマイクロバスくらいのデコトラになっている。

さらに、山道を走る為に獣型の四本足を追加したのだ、安定感あって良いと思うんだがなぁ。

「バケモンから更によく判らん物体に変化しただけじゃろこれ……」

「ねーじゃばばー、運転しちゃだめー?」

「だーめーでーすー! リアはお願いだから座っててね? 仕方ないだろレイハ、あのデコトラケンタウロスの姿を目撃された以上変更するしか無いんだし」

「ちぇー」

リアは不満なのかクラクションを鳴らしている、まぁこれくらいは見逃してもらおう。

「またバケモンが増えたと言われる気がする……」

レイハは助手席でちょっと頭を抱えている。いつも苦労をかけるぜ。

「ほぼお主の能力のせいじゃろー!」

お客様、八つ当たりでダッシュボードを蹴るのはおやめ下さい。

そうやって山道を探し回った結果、それが功を奏したようだ。


グロロロ……。


「ねぇ、じゃばば、レイハ、あれ……。」

「うむ、現れおったな、あの姿、やはりデコトラか……?」

デコトラの姿やクラクションの音に反応したのか……?


次回、第46話「悪役令嬢、『デコトラ』ヲ討伐ス」

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