第44話「悪役令嬢、村長ト面会ス」


「ようこそお越しくださいました冒険者様がた。私が村長です」

俺様達が面会した村長は意外に若く体格もがっちりしており、よくイメージされている老人とは全然違った。今も現役で猟師か木こりでもやってそうな雰囲気だ。

こういう地域では体力なんかも長としての資質に含まれるのかね?

村長の家といってもその辺の民家同様で、豪華な家具があるとかでも無い。


「ウチはB級冒険者のレイハ、こやつはC級冒険者のリーリアじゃ。依頼を受けてとりあえずの調査に来た。鉄の箱のような魔物と言われても意味がわからぬからな」

「私がリーリアよ、どんな魔物でも討伐してみせるわ。で、どんな魔物なの?」

「こらリーリア、今回はあくまで調査じゃぞ。まずは何が起こっているかを見極めてからじゃ」

「ええー」

レイハとリアの会話に村長は困り顔だ。正直俺様も困ってる。


「は、はぁ。村人からも言われましたが、その、本当に冒険者なので?」

「こやつが変わった奴なのは認める。格好の事を言ったらウチもそう変わらんそうだが。ほれリア、登録証見せてやれ」

冒険者の登録証はいわゆるホログラムのように顔を印刷してあるので偽造が難しい上に、冒険者を偽るのも違法なのだ。

下手になりすますと場合によっては冒険者から命を狙われる事もあるとか。村長もリアの登録証を見て一応は信じたようだ。

「で、ではお二人が冒険者様だという事でお話しさせていただきます」

完全には信じてもらえていないようだな……。


「事の発端は、この近くの山中で猟をしていた者が、見慣れない魔物と遭遇した事から始まったのです。その魔物というのが金属製の鹿のような魔物でして」

「鹿じゃと?箱のようなという事ではなかったのか?」

「一番最初はそうだったのです。その魔物は目撃されるごとに姿が変わり、どんどん強い魔物へと姿を変えてゆくのです。時に狼、熊といった魔物に似た姿になり、最終的に鉄の箱のような魔物に変わりまして」

「姿を変える、と判断するのは早計ではないか?それら目撃されたものは別々に存在していて、山の中に鉄製の魔物が山程いる、という事では無かろうな?調査に行ったらそやつら全部からまとめて襲われたくはないぞ?」

言われて見ればそうだ。たまたま似た素材でできた魔物なだけで、それぞれは別々に存在していたとしたら、一度に会いたくはないなぁ。


「は、いえたしかにそう考えた事はありませんでしたが……。ですが何人もの猟師が皆同じ時期に同じ姿の魔物を目撃しておるのです、それ以外には出会った事がないので一体ではないか、と」

「ふむ、その猟師にも話を聞いておいたほうが良いじゃろうな。で、被害は無いのか?」

「野山を徘徊し、より強い魔物に襲いかかり、その姿を奪うようですな。その時々で姿が違うのはそのせいだと。ただ最終的に走る鉄の箱になったのはまるでわけがわからんのですが」

「それが依頼にもあった話じゃな。いったいどのような姿をしておるのじゃ?」


村長は口では説明しにくいと思ったのか、机の上に板のようなものを持ってきて木炭で図を描き出した。

「何と申しますか、馬車から馬を外して、長い箱を後ろに引かせたような姿をしておりまして、全身に妙な飾りが付いていたり、箱の側面に絵のようなものが描かれていたりと、この説明だけではよくわからないでしょうが……」

いや、とってもよくわかる。わかり過ぎるくらいに。俺様もリアやレイハもその絵を見て反応に困るしかなかった。どう見てもあれだ。


「ですが明らかに普通の魔物とは比べ物にならない程の力を持っておりまして。それに速さもですな、付いている車輪が馬車のというよりはまるで樽で、その太い車輪で走り回るものですから山が荒れていく一方で困っておるのです」

「ふむぅ……、聞いただけでは想像もつかんの、やはり姿を見てみない事には。出会ったという猟師を紹介してもらえんか?」

レイハは思いっきりしらばっくれてたのだが無理もない。



「デコトラ、っぽいねぇ」

「ウチが話半分に聞いてもデコトラじゃな。しかも野生の」

「野生って言うな、何してんのこの世界に来たお仲間は……」

薄々思っていたが、話を聞いてみてもやはりデコトラだった。しかし最初は獣の姿だったというのが気になる。俺様のデコトライガーみたいに擬態していたのが徐々に正体を表した感じなのか?

それに単独で山の中にいる、というのもよくわからない。中に誰か乗っているならその人も目撃されていないとおかしいのだが。

「とはいえ、ちょっと前のお前さん達も魔獣を狩って自給自足でDPデコトラポイントを稼ぎながら食いつないでおったんじゃろ? DPが枯渇寸前でよくわからん行動を取っておるのかも知れんし」


次は村長から教えてもらった猟師から事情を聞かないとな。山の中で猟師小屋にでも住んでると思ったのだが、あれはやむを得ず山中に泊まらないといけなかったり、緊急避難的に使う場所なのだそうで、猟師自身は普通に村内に住んでるそうだ。家の側には畑まである。

「猟師の人って、山の中で炭とか作ってる印象あったけど。普通に畑仕事とかもするのね」

「お主のそれ、炭焼小屋とかといろいろ混じってないか……?」

リアの感想も俺様と似たようなものだったらしい。とはいえこの世界は技術の分布がいびつで、テネブラエの近くでは魔法大国のグランロッシュ王国の影響で魔石具というものを使って火を起こす事が多いのに対し、この辺りでは普通に木炭や薪で火を焚くというのはレイハの言だ。



「いや、たしかに”あいつ”は一体だけだ。俺はあいつと何度も遭っているからわかる。あいつは姿を変えていても行動がよく似ていた。そういう癖というものには個性が出てくるんだ」

意外にも猟師の人は初対面のリアやレイハを見ても侮ったり疑ったりする事が無かった。なんだろうかね? 猟師なんてやってたら本能的に相手の力量とか見抜けるんだろうか?

例の魔物の件についても家の中に通してくれて、すぐ話を聞かせてくれた。


「やはり最初は小さな獣、そして日を追うごとにどんどん巨大な獣へと変えていったという事じゃな?」

「ああ、あいつは最初から鉄か何かの金属でできてはいたが、それでもまだ、どこかで見た事のある獣の見た目ではあったんだ。だがある日、あいつは見た事も無い姿に変わり果ててしまって、」

「対処に困って冒険者ギルドに依頼した、という所か、それ移行も被害は広がる一方だという事なのじゃな?」

「いやそれが、その姿になって以降は何も被害と呼べるものが無いんだよ」

「? どういう事じゃ?」

「あいつはどうも強い物を見たら襲いかかってその姿を奪うようでな。襲われた猟師仲間も猟銃を向けたとたんに襲われたんだ。

しかし至近距離で猟銃を撃ったらその弾丸が跳ね返されて全く効果が無くてな、途端に興味が無くなったように無視されてどこかへ行ってしまったそうだ」

「なんじゃ? 強さを見切ったら興味を無くして、強い生き物がいなくなったら大人しくなったというのか? 何なんじゃその生態は」

「目的が良く見えないねぇ」

活動が止まって被害が止まってるというのなら良いのだが、徘徊するのは変わらないそうで、その為に山の中が荒れてしまっているというのが今回の依頼対象だった。


「ふむ、だからこその調査だ。一通り話を聞いてみても、事前に聞いていた事が多少詳細になっただけで、やはり山に行ってこの目で確認してみないとわからぬな」

「俺もついて行くべきか? 山なら案内できるが」

「いや、あっちが我々を認識した時、どんな行動を取るかわからぬ。ウチら2人だけで行くとしよう」

まぁ実際はデコトラの俺様を見られたらまずいだけなんだけどね。とか言ってると、家に誰か入ってきた。

「ただいまー。あれ? さっきの冒険者の? すげー! ウチに来てくれてたんだ!」

「こらテッド! お前手伝いもしないで! また遊び歩いてたのか!」

「良いじゃん、ねぇ冒険のお話聞かせてよー」

しかしおねだりする子の頭を、父親なのか猟師は思い切りぐーで殴った。いたそー。

殴られた少女は頭を抑えて涙目で父親を見上げるが、父親は怒ったままだ。

「痛ってー! 良いじゃんかちょっとくらい」

「手伝いもしない奴が何を言ってやがる!この方達は今仕事中なんだから邪魔するな。それに今から山に調べに行ってもらう所だからな」


「山って、冒険者が?あの鉄のを討伐に行くの?」

「討伐までは依頼されておらんな。今回は調べに行くだけじゃが、襲われたらその可能性もある」

「そんな、何もそこまで」

「何がじゃ? お主の村人にも被害が出ておろう、放置しておく事はできん」

「そうなんだけどさ……」

「なんだ? お主何か知っておるのか?」

「ねぇ、もしも何か知ってるなら私達に教えてくれない?」

「知らない! 何も知らないよ!」

しかし、子供はリアやレイハの質問から逃げるように家から出ていってしまった。

「あ! おい! 畑の手伝い! ……仕方無いなあいつは」


なんか凄い思わせぶりというか、もう知ってるだろな感じだったけど、本当に知らないのかな?

無理に聞いても仕方ないので俺様達は村を後にし、さっそくデコトラ探しに向かった。


次回、「悪役令嬢、デコトラヲ捜索ス」

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