第43話「悪役令嬢ト北方ノ山村」
「……で、わざわざこんな北の方まで来たわけだが……」
俺様達はギルドマスターからの依頼を受けて向かっているのはダルガニア帝国でも北方の山地だった。
そこに住む人達の間から『巨大な箱のような魔物が出る』という報告が来ており、確認の為に訪れたのだ。
遠方の地とはいえ、徒歩でも馬車でもなくデコトラでの移動なので乗ってる方は極めて楽だろうけどな。
車内は多少揺れるとはいうものの、ほぼ屋敷の室内と同じ感覚で過ごせるので寝ていれば到着するようなものだ。
「レイハー、そのクッキーちょうだーい」
「……ほれ。だから探索には己の脚で向かわぬと気合が入らぬというのに」
リアは実際
隣のレイハも最初はたるんでいると小言を言っていたのだが、なにしろ馬車と違って部屋の中なので調子が狂うのか、諦めて自分もお茶を飲んだりしていた。
2人共特にやる事も無いので、ケイトさんの蔵書の小説を読んだりしている。また変な本読んで無いだろうな……。
ともあれ、ちょっとした女子会のような状態での旅は快適そのもので、二日目の朝には目的地に到着だ。
「楽で良いじゃない、レイハだって馬車とか使うでしょ? どう違うの?」
「あれはあれで、乗ると色々と苦労もあるのじゃぞ、狭いわ寝る余裕も無いわそれ以前に物凄い揺れで寝るどころじゃないわで。旅がこんな楽で良いのだろうか」
「レイハ様、冒険者は身体が財産でございましょう。痛めつければ良い冒険者になれるわけでないかと思います。お茶をもう一杯いかが?」
レイハの前にティーポットを差し出すメイドのケイトさんは基本的にお仕事が好きなのか、お世話をする人が増えて喜んでいるようだ。
また、リアが冒険者として色々と依頼をこなし、きちんと給料を支払っているのも大きいだろう。
「……もらう。しかし野営もほぼ貴族の部屋みたいな所でベッドに寝て泊まって。何ならジャバウォックがこれを運転するから昼夜問わず走って次の日の朝には目的地に着くとか、色々と感覚がおかしゅうなるわ。普通一週間はかかるぞこの旅程」
「早く着くのは良い事だろう? 移動なんて実質無駄な時間なんだし、さっと行ってさっと帰ってくるのは依頼者の為にもなると俺様は思うけど」
「あー、もう何も言わんわ。ギルドマスターからも『肩の力を抜け』とか言われとるしの」
「今向かってる村の人達って、デコトラに畑でも荒らされて困ってるのかしら?」
リアさん何言ってんの……。野生動物じゃあるまいし、野生のデコトラでもいるのかね? 何だよ野生のデコトラって、自分で言っててデコトラの概念がおかしくなってきているのを感じる。
「のうジャバウォック、お主の前世とやらでも、デコトラというのはこういう所に住み着くのか?」
「あのさぁレイハさんも? デコトラを動物みたいに思わないでよ。デコトラって要は豪華な馬車みたいなもんだから普通は自分の意思で動いたりしないんだって」
とはいえこの世界に送り込まれてくるデコトラって、多分あの神がやってるんなら大体は俺様と同じような自分の意思を持ってるんだろうなぁ。友好的だと良いけど。
「この間の遺跡もじゃが、お主等デコトラは怪しすぎるぞ、いったい何の為にこの世界へと送り込まれておるんじゃ。過去には戦争まで起こっておるし」
「俺様の方が聞きたいよそれ。俺様の場合はリアを助けろって事で送り込まれたんだろうけど」
「それもどうも眉唾じゃの。そのデコトラ神というのはかなり迷惑な神のようじゃし、わざわざリアを助けようと送り込むか?まずリア自身が色々と恵まれた者じゃろうに」
「いやでも、あんな無茶苦茶な国の生活なんて酷だぞ。それを……」
リアはテネブラエでほぼ両親から精神的DVやパワハラ漬けで育ったのだ。そして貴族社会もそれに輪をかけて酷い権謀術数や嫌がらせだらけで、あそこで生きていては絶対に幸せになんてなれなかった。恵まれているとはとても言えないだろう。
「うんまぁ、テネブラエ貴族社会の悪辣さはウチも聞いておるがな、それでも代わって欲しいという貧しい者も多いとは思うぞ。つまりは個人的な気持ちの問題なのじゃよ。そういう事に神が動くかのぅと」
言われてみたらあの神が貴族の女の子の為に何かするかなぁって気にはなってきた。あいつ何のために俺様をこの世界に遣わしたんだろ。
「まぁたしかに、俺様も助けろと言われただけで、リアをどうしろと言われたわけじゃないんだけどな……」
「良いじゃない、私はあんな国から解放されて良かったし、なるようになるってー」
肝心のリアが軽い……。
「で、そのデコトラもどきってどういう事をしてるんだ? 俺様のように畑を荒らしたり作物を根こそぎ食べたりしてるのか?」
「お主も少々ヤケになっておるな。おちょくったのは悪かったがお主を見ておればそういう事をせぬとはわかるというに。
ここで目撃されとるのは、魔獣を襲って食ったりしているという事らしい。また、居合わせた猟師も巻き添えで負傷したりしておるという話だ」
「魔獣を……?
ともあれ、俺様達は依頼のあった村へと向かう事にした。途中で馬車に偽装するけどな。デコトラで問題になってる所にデコトラで乗り付けるわけにもいくまい。
リアはというと、こんな所でも普通にドレスだぜ。もうレイハも何も言わなくなってるけどやっぱ変だよなぁ。どこに行くのにもドレスなんだもの。
「あれが報告のあった村じゃな。とはいえ直接的な被害が出とるわけではないようじゃが。とりあえず依頼者の村長に話を聞きに行くとしよう」
「んじゃケイト、馬車で待っててね」
さすがのリアもメイドを連れて行ったら冒険者とは見られないと思ったのかも知れないが、ドレス姿なら同じじゃないかな……。
「ねぇレイハ、こういう場合はどうしたら良いの?」
「今回は冒険者ギルドに依頼が来ているからの、まずは村長に話を聞けばよい。とはいえさすがに村長の家の場所は誰かに聞かねばならぬだろうが」
雑談しながら村の中に入る2人を見て、村人たちは奇異の目で見ていた。そりゃそうだわな、和服と巫女服を混ぜたような東方人の格好のレイハはギリ冒険者と見えるかも知れんけど、リアは思い切り貴族のお嬢様だもの。
どういう組み合わせなのだと、明らかに反応と対応に困っていた。
「じゃぁそこの貴方。ねぇねぇ、村長の家ってどこなのかしら?」
「は? え? 俺?」
物怖じしないリアがいきなり村人に道を尋ねていた、聞かれた村人は思い切り困ってるな。
「こらリア、お主が何者かわからんからこちらも困っておろう、ウチらは冒険者じゃ。
村長が冒険者ギルドに依頼を出したであろ?まずは調査に来たのじゃが、村長の家に取り次いでもらえんか?冒険者リーリアとレイハの名前で連絡が来とるはずじゃが」
「ぼ、冒険者? いやたしかに依頼出したとは聞いたけど……。あんたら本当に冒険者か? その格好で?」
「まぁこやつは気にするでない。冒険者にはいろいろな者がいるのじゃ」
俺様はレイハの格好にも似たような感想持ってると思うんだよなー。
「は、はぁ。少し待ってて下さい」
いきなり連れて行かないのは懸命だな。どう見てもこの2人じゃ冒険者には見えんよなぁ。
威圧感のある感じじゃないだろうから、いつぞやみたいに、いきなり村から排除みたいな事にはならんだろうけど。
「ねぇレイハ、この村って小さな方なの?」
「まぁこの地域では普通じゃろ。都から遥か遠くという程の距離でも無いし、とはいえ街道沿いというわけでもないから、閉鎖的な事もありえる。リア、また余計な事をするでないぞ」
「こないだは本当に何もしてないんだけどなぁ」
待ってる間に雑談をしている2人に村の子供が近づいてきた。
「ねぇお姉ちゃん、どこかの貴族の人?」
「え? 私? 違うわよ、私は冒険者のリーリア」
「……でもドレス着てるのに?」
少年、君の感性が正しい。普通は立場とか空気読んで格好とか変えるものなんだけど、この子全く気にしないんだもの……。
「冒険者だっていろんな格好の人がいるわ。ドレス着て戦う冒険者だっているのよ?」
「へぇ、そうなんだ……」
「いや信じるな信じるな、こんな格好しとる冒険者なんてこやつだけじゃぞ」
だからレイハさん、あなたの格好もあんまり人の事言えないからね?
「だよなー。お姉ちゃん強いの? D級かE級冒険者?」
「ううん、C級よ。こっちのレイハはB級だから、どんな魔物でも退治してみせるわ」
「……そう」
「おいテッド!冒険者の人たちに余計な手間を取らせるな。家の手伝いはしたのか?あ、すいません、村長に確認が取れましたのでご案内します」
次回、第44話「悪役令嬢、村長ト面会ス」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます