第42話「悪役令嬢ト初メテノ依頼」


「話はわかった、あの遺跡も改めて調査が要るようだな。しかしだ、どうして最初の迷宮から大騒ぎになるんだよお前さん達は」

俺様達は迷宮を抜けた後、ギルドマスターに報告に来ていた。

渋い顔をするのに返す言葉も無いのだが、そもそもこの依頼を持ってきたのはギルドマスターだろうが、というのは言わないでおいた。これも世渡りの知恵よ。


「えー、でもあの迷宮に行けって言ったの、ギルドマスターじゃないの」

リアさんんんんんん!? そこは空気読んでね? 怖いもの無しなのか単なる世間知らずなのか、報告の書類を見ているギルドマスターは苦笑くらいで済ませてくれたけど。

「そう言われるとつらい所だな。それにしてもお前さん達どんな迷宮の突破の仕方をしたんだ。踏破ルートが無茶苦茶だぞ」

「え、そんな事までわかるの?」

「登録証の中にある情報を印刷すれば、冒険者の資質としてどの罠に引っかかったとか、どういうルートで進んで行ったとかの情報も出てくるからな。

 お前さんのは見た事も無い道順になってるぞ、なんだこの第二フロアでの渦巻みたいな通り道は。おまけに次の瞬間には第三フロアに到達しておる。いったい何をやった?」

まさか迷宮の中を通ったルートまで把握されているとは思わず、俺様とリアは顔を見合わせ、レイハは『言わんこっちゃない』という顔をしていた。


「……デコトラ持ってる奴にまともな迷宮探索を指示したのがまずかったようだな。ごく普通の迷宮探索を覚えてもらいたかったんだが」

俺様からリアが迷宮を通るのが面倒くさくなって、ドリルで壁をぶちやぶり、第二フロアでは竜巻きのようにして天井に穴を開けて上に上がったというのを聞いて、さすがのギルドマスターも呆れ顔になっていた。

「じゃばばの力を使ったら、罠も何もかもがわかっちゃうんだもの、訓練する必要あるの?」

「探索能力は問題無いのか。戦闘能力も今のC級だとランク詐欺と言われかねんな。通常ボスの100体分だぞこのボスの強さは」

「倒してしまったから別にそれは良いじゃない。何度だって勝ってみせるわ」

ドヤ顔のリアに、レイハが明らかに『お主は特に何もしとらんかったじゃろ』と言いたげな顔をしている。

まぁなぁ、迷宮探索は俺様の能力で、ボス討伐もほぼ俺様の能力だったわけで、何一つ訓練になってない気がする。恐らく真面目に修行して剣術の腕とかを磨いたレイハにとっては不本意極まり無いだろうな。


「まぁ、良いだろう。そういう冒険者が一人くらいいてもいいさ」

「ギルドマスター!?」

「まぁ落ち着けレイハ、剣の腕を磨き、精神の修練を真面目にしてきたお前さんにしたら、この迷宮探索もボス討伐も無茶苦茶に思えるだろうな。なら聞くぞレイハ、修練・訓練・修行といったものは何の為のものだ?」

「それは、修行を通して自らの技を鍛え上げ、それにふさわしい精神を身に着け……」

「まぁ理想はそうだな。だが修行で力を持った者が皆、高潔な精神を持っているか?逆に手に入れた力におぼれて弱者を見下す者もいるのではないか? そんな事では修行しないほうがマシだろうよ」

よくある話だよなぁ。ストイックに減量・練習してるボクサーもいれば、逆に一般人に暴力をふるう事を何とも思ってない輩もいる。人それぞれって事だろうけど、最後の『修行しないほうがマシ』というのにレイハが激昂した。


「ではウチの今までの修行には何の意味も無いというのか!」

「落ち着けレイハ、儂が言っているのは技術を取得する為の修行と精神の修練は同じものである、と勘違いしておる者が多いという事だ。力というものはむしろ手に入れてからこそが真の修行の始まりだというのに」

「手に入れてからが……、始まり?」

「そうだ、剣術にしろ格闘術にしろ、究極的にはいかに効率よく人を殺すかという事だろう。人殺しの技術を極めれば人格者になれるのか? 手に入れる過程でそれを扱うにふさわしい心が自動的に磨かれるなら誰も苦労せんよ」

なるほど、おっさんの言いたい事はなんとなくわかる。目的があって修行して強くなっても、それはあくまでも目的を達成しただけという事か。

「修行で力を得て人格者になったように見えたとしてもだ、その実態は力を得た事で余裕ができて他者を見下しているだけかも知れんぞ。人殺しの技術を極めるわ他者を見下すわじゃ救いようが無いだろう」

レイハは思う所があるのか黙ってしまった。そんなレイハにギルドマスターは言葉を続ける。


「レイハ、お前は技術的には申し分ないが、どうも少々生真面目過ぎる所がある、もう少し肩の力を抜く事を覚えろ。そういう意味でリーリア嬢からは良い影響があると思っているのだが」

「え? 私と?」

うわ、いきなりこっちに話を振られた。何故かレイハに対する説教が始まったけど、そういえばこれはリアの迷宮探索の活動報告だし、リアの訓練の話だった。

「そうだ、このお嬢ちゃんはある日突然”デコトラ”の力を手に入れてしまった。が、今のところその力を私利私欲の為に使おうとはしとらんな?

 形式的にでも冒険者としての身分を手に入れ、依頼をこなす事で認められようとしておる

 いきなり巨大な力を手に入れるのはズルチートだと言うものもいるだろうな。だがその力をどう使うかを考え、悩むのもまた一つの修行だ。

 レイハ。お前だって修行の為剣を振っている時に、いちいちこの剣を何のために使うかなどと考えはすまい?

 力を手に入れた後に悩み、考えねば力というものは単なる暴力にしかならんのだよ。あんなにつらい修行をしたからこそ、自分の心は、理性は大丈夫だというのが一番危険だ。

 お前さんは技量的にはもうA級に近い所にいるがな、恐らくは天賦の才ゆえ技術の習得は早かったのだろうが、それでもまだ心が追いついておらん。リーリアとの旅は良い刺激になると思うぞ」



「なんつーか、ギルドマスターってのも大変だな。まるで学校の先生か何かだ」

俺様は素直にギルドマスターを尊敬した、あれやこれや様々な事に気を配っていて教育者の一面もあるように思えたからだ。

「冒険者ってのは結局は己の腕だけで食っていく事を選んだ者たちだからな、ゴロツキやチンピラと変わらん者が多い。

 そんな奴らを受け入れて仕事を斡旋し、時に鍛える事で真っ当な道を歩いてもらおうというのが根底にある。でないと山賊や強盗といった道に外れる者が増える一方だからな」

冒険者ギルドってうまく言えんけど学校や職業訓練所的なものと、警察的な治安維持の役割も持ってんのね。

「才に恵まれた者、例えば魔法だな。魔法が使える者は国でも貴重な人材となるので公的な仕事に就けたりもするが、やはり数は少ない。誰も彼もが田畑を耕すにしても土地というものは有限だ。

 結局は職や仕事にあぶれる者が出てくる、こういう所はどうしても必要なのだよ」


「とはいえ、リーリア嬢のスキルや戦闘力が高すぎるのはこの迷宮探索で良くわかった。もう少しなんとかしないといかんなぁ」

「もっと強い敵とかがいる迷宮を紹介してくれるの?」

リアさん目をキラキラさせているけど、戦うのは基本俺様だからね? リアの修行の為だからね?

「それも悩ましい所なんだよな。能力はあっても、とにかくありとあらゆる訓練が足りていない。丁度良いから『デコトラ』に関する探索を依頼するか」

「『デコトラ』だって? 例のデコトラ聖女とかいうのを探すのか?」

「いやそれとは別だ。どうも北の方で『デコトラ』のような鉄の魔物が出たらしい。普通の冒険者では危険すぎるので調査に行ってくれ。討伐どうのじゃなく、あくまで調査だぞ。」


次回、第43話「悪役令嬢ト北方ノ山村」

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