第10話 リベンジ! 轟VS優

 はからずも不正者を成敗したじん

 近い未来、彼はすぐるたちの前へ立ちはだかることになる。

 しかし、それはまたのちのお話。




 ――時はさかのぼり、ごうが不正者相手に勝利を収めたその翌日。

 彼は再び元のカードショップを訪れた。

 その顔つきにいつもの獰猛どうもうみは無く、ただ静かに険しい表情を浮かべている。


 いつになく真剣な彼。

 標的は決定済み。

 り立てられる想いから、その目はおのずとすぐるを探し出し、とらえた。

 花織はまだ来ておらず、ただ一人、目を閉じてたたずんでいる。

 それを視認するやいなや、ごうはそのテーブルへとまっすぐに向かう。

 そして、対面に着くなり鋭くにらんだ。


「よぉ……。この間は世話になったな」


 開口一番、挨拶あいさつ代わりに喧嘩けんかを売るごう

 その声にすぐるはゆっくりと目を開いた。


「……何か用か?」


 あいも変わらず、いつものぶっきらぼうな返答。

 対するごうは、普段なら感情的になるところを抑えみ、ゆっくりと口を開く。


「宣言通り、リベンジに戻ってきた。ひまなら相手してもらうぜ」

「……そうか」


 たった一言の返事ののち、デッキをシャッフルし出すすぐる

 対戦の申し出に応じたことを察し、ごうもデッキを取り出しシャッフルする。

 その間、一言も発さない両者。

 静かに淡々とシャッフルするすぐる

 緊張のあまり、ぎこちない手つきのごう


 先にシャッフルを終えたすぐるは、デッキを山札の位置に置き、ごうへと視線を向け……。


「先攻と後攻、好きな方を選べ」


 抑揚よくようの薄い声で、そう命じた。

 前回同様、ハンデを突き付けられたごう

 以前の彼なら、怒りに身を任せていたことだろう。

 しかし、またしてもそれを抑えみ……。


「先攻をもらう」


 静かにそう宣言し、すぐるも軽くうなづいた。


 こうして始まったリベンジマッチ。

 ごうの初手は耕作。

 自分のライフを1つ犠牲ぎせいにし、無属性の魔力を得るカード。

 対し、すぐるが使用したのは幼きエスパー。

 その効果により、手札にサボタージュを加えた。

 ここまでは前回のバトルと同じ流れ。


 しかし、2ターン目を境に全く違う展開へと進んでゆく。

 ごうが手札から選んだのは……。


「ヒメカゼスズメを召喚しょうかん


 消費魔力1のレプリカ、ヒメカゼスズメ。

 そのカードを見たすぐるは二度うなづく。


 たった1枚見ただけでも、ごうがしっかり反省してきたことは明らか。

 弱点だった打ち消しのカウンターへ強く出られる低コストカード。

 その採用は、前回の敗因をきちんと踏まえている。


 二日で成長をげたごう

 だが、そう簡単にすぐるは倒せない。


 引き続き、ごうはダンシングアップルを召喚しょうかんし攻勢に立とうとする。

 しかし、すぐるも低コストのカードで応戦。

 ごうの新たな戦略に対しても、すぐる瞬時しゅんじに順応してゆく。

 高コストのカードはカウンターの餌食えじきとし、ならばと大量召喚しょうかんした低コスト軍団には全体除去を浴びせる。


 的確な対応により、追い詰められてゆくごう

 隙を突いてなんとか召喚しょうかんしたレッドドラゴンにも、すぐるは回答を用意していた。

 その対策の1枚が今、無情にもゆっくりと降臨する。


「アルファ博士を召喚しょうかん

「ッ!」


 宣言と共に出された切り札!

 レアリティは最高プラチナ

 光沢をまとい描かれているのは、目があらぬ方向へ向いたマッドサイエンティスト!

 絶句するごうへと、その強力な効果がおそいかかる!!


「まず、捨て札のサボタージュと水神の怒りを手札に戻す」


 すぐるが選んだのは、ここまでの進行でごうを苦しめた2種類のカード。

 前者はレプリカの召喚しょうかんを打ち消し、後者は敵全体に1ダメージを与える。

 それら2枚が再びすぐるの手札に加わり、ごうはみるみる蒼褪あおざめてゆく。


 しかも、これで終わりではない。

 アルファ博士の効果にはまだ続きがある。

 すぐるはさらに山札を確認し、コンフュージョンを手札に加えた。


 そして、本当の悲劇はこの後に訪れる。

 迎えたごうのターン。

 サベージの効果を持つレッドドラゴンは強制的に攻撃しなければならない。

 その攻撃に対し、すぐるはアルファ博士の持つ効果の一つ、ガーディアンで応じるべくカードに手をばした。


「アルファ博士でガードし、ガード時効果発動。アルファ博士を手札に戻す」

「うぐぅ!」


 わかっていたこととはいえ、あまりの痛手にうめきをらすごう

 アルファ博士のガード時効果は、場のレプリカを手札に戻すというもの。

 本来は敵を戻すために使用する効果。

 だが、すぐるはそれをアルファ博士自身に対し使うことで、召喚しょうかん時の効果を使い回そうと目論もくろんでいる。

 当然、その都度つどコストがかかるのだが、それをとがめる余裕などごうには残されていなかった。

 彼にはもう、勝つすべがない。


 程なくして決着し、ごうは悔しさのあまりテーブルをたたき……。


何故なぜだ……? どうして勝てない!?」


 そうさけんだのち、再度テーブルをたたいた。

 その向かい側で、すぐるはただ黙っている。

 いくら待っても一向に話す気配はなく、とうとうごうしびれを切らした。


「何とか言えよ! 情けねえだろ? なあ! この間みたいにさあ! 勝てるとでも思っていたのかだの、カードゲームの基本がわかってねえだの、言えばいいだろうが!」


 顔を真っ赤にし、一気に感情を爆発させるごう

 対し、すぐる溜息ためいきいた。


「あのな? オレはそもそもあおるスタイルじゃない。この間はお前がえらそうなことを言っていたから、らしめてやっただけだ」


 返されたその言葉に、ごうはわなわなとこぶしを震わせる。

 数秒後、かわいた笑いをらし……。


「ああそうかよ……」


 と、震える声でつぶやき、走り去ってしまった。


 その背を目で追うすぐる

 すると、すぐそこで見ていた花織へと気が付いた。

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