第36話 戦うより現場に向かう方が疲れる
奏月ちゃんの可愛さに胸を打たれていると携帯が鳴った。
発信源を確認すると非通知だった。
ミミィは声を出せない場面ではこうやって携帯に電話をして『セカイの敵』を倒しに行けと命令するのだ。
昔、カバンの中に身一つで居ながらどうやって連絡を入れるのか不思議に思って尋ねたら「直接電波に干渉できるんだミィ」と言っていた。
時折垣間見る機械じみた一面に気になる所がない訳では無いが、深く考えても無駄なため、これ以上詮索する様なことはしない。
「ごめん、バイト先から連絡。少し席を外すね」
私はそう言ってすぐに部屋を出た。ただ電話をするだけなのに家の外に出るのは不自然なため、廊下で電話をしている風を装う。少し時間を置いて物音を立てないようにして外へ出た。あまり遠くじゃありませんように。
「もしもしミミィ?マジで一番連絡して欲しくないタイミングだった」
「ミコト、北に300メートル先の神社でセカイの敵出現だミィ。すぐそこだミィ。」
「無視かよ。はいはい。わかりましたよ。」
とにかく早く家に戻りたいがため走って現場に向かう。いつもと違う踵の高い靴に普段は着ない膝丈のスカートが足に絡まって
「あ〜走りにくい…!」
イライラしながら現場に向かう。指定された神社の前に着くととんでもない段数の階段があった。境内はこの上らしい。私は思わず立ち止まってしまった。これをすぐそこと表したミミィに殺意が芽生える。
「ミコト、さっさと登るミィ。」
…。その耳引き継ぎってやろうか。あまりにも簡単に言うものだから私の怒りは最高潮だった。早く戻らねばという焦りも相まって私の心はぐちゃぐちゃだ。
「あー!!!!!」
私は自棄になって階段を駆け上る。倒さねば帰れないのだ。致し方ない。今日の服装は私の手持ちの中で一番動きにくい服装だ。パンプスに上品に見える体のラインに沿ったシルエットの襟付きワンピース。風通しが悪く熱がこもる。暑い死ぬ。
やっとの思いで全て階段を駆け上った時、私は満身創痍だった。暑さと疲労で朦朧とする意識の中隠れられそうな場所を見つけて変身する。
整わない息のまま私は『セカイの敵』の場所を探す。フラフラする。これ多分熱中症じゃないの?
「ミミィ、セカイの敵どこに居んの。もう無理。」
私は息も絶え絶えでミミィに尋ねる。
「今回は池の中に沈んでるタイプミィ」
見つかるかそんなやつ。早く言えよ。そう思ったが口に出す元気も無く、私は池を探し始めた。
少し奥へ行ったところに池を見つける。手前にはしめ縄と
「いるんでしょ。出てこいよ」
呼びかけても反応がないので池の中に直接ビームを放ってみる。
池の水が跳ねても嫌なので威力が分散しない様に丁寧に撃ってみた。
ビームのおかげで暗かった水底が一瞬明るなり、セカイの敵と思われる影が見えた。水中から唸る様な声がかすかに聞こえる。
「これ、手応えイマイチなんだけど倒せてる?」
「消滅が確認できたミィ。」
息が整ってきた私は人気のない神社でよかった。と思えるくらいまで意識が回復してきた。
だって急に息の荒いコスプレ女が境内の中をうろついていたら通報必死だ。
私は辺りに人が居ないのを確認して変身を解き、境内を出ようと出口の鳥居の方に向かう。
先ほど駆け上って意識を飛ばしかけた神社特有の一段一段の幅の広い石の階段が目に入る。
私、こっから走って帰るのか。汗でべちゃべちゃなの、皆になんて説明しよう。
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