第35話 これがおばバカってやつ?
奏斗くんの車に揺られて5分ほど。私たちは実家に到着した。
我が実家ながらそれなりに立派な門構え。手入れの行き届いた広めな庭。豪邸とは言えないが一軒家としては十分に立派な部類に入るだろう。
部分的に改築が始まっておりこれから父母と奏斗くん夫婦が住む二世帯住宅になる。
私は1年半ぶりの帰省だ。正直この夏も姪が生まれていなければ何かしらの理由をつけて帰ってくる事は無かった。進路も決まっておらず、学校を中退していることにいつ勘づかれるか分からない状況でどんな顔して顔を合わせればいいのか分からない。
今日も葉月さんと姪っ子の顔を見たら早々に退散するつもりだ。赤ちゃんもいるし通例の様にみんなで食事にでも行こうかとはならないはずだ。
奏斗くんが鍵を開けて扉を開ける。兄2人に続いて私も扉を潜る。
家に踏み入れた瞬間、ふわりと懐かしい香りがした。懐かしくはあるが決して落ち着く香りでは無い。
過半数の人は実家というのは戻ってくると安心できたり、一息つけたりできるような場所であるのだろうが私にとっては違う。
これ以上家族に呆れられないように、失望されないように焦り、身の丈に合わない服を着せられているような息苦しさを感じる。そんな場所だ。
家族が嫌な人たちでは無いことがわかっているため尚更息苦しいのだ。家族は誰も悪くない。
奏斗くんが「ただだいま」と居間に聞こえるくらいの声で言う。するとパタパタとスリッパで駆けるような音がして居間の扉が開いた。
「お帰りなさい!ミコトちゃん久しぶりね!理人もお帰りなさい。暑かったでしょう?早く中に入って。」
母そう言いながら私たちの荷物を受け取る。相変わらずだ。
「ミコトちゃん、ちょっと痩せたんじゃない?ちゃんとご飯食べてるの?」
「全然痩せてないよ。ちゃんと食べてるよ。」
むしろ少し太ったくらいだ。ただ、やつれはしたかもしれない。バイトも、魔法少女関連でも責任が増えたのだ。心労がすごい。
「あ、そのお洋服着てくれているのね。ママの見立て通りとてもよく似合っているわ。」
母が矢継ぎ早に会話を振ってくる。今日は母とお喋りをしにきた訳では無いのだ。これ以上母と会話を続けていると墓穴を掘ってしまいそうだ。
「ママ、それより葉月さんと赤ちゃんに会わせてよ。」
「あ、そうね。今はリビングにベビーベットを置いているの。ウイルスが怖いから手を洗ってきて。」
「あ、わかった。」
私たち3人は言われた通り洗面所に行き手を洗う。その時「母さんはミコトの心配をずっとしてたんだ。ちょっとくらいは話に相手になってやってくれ。」と理人くんが珍しくこそりと言った。
「うん…。」
私は歯切れの悪い返事をしつつ、手を洗い終え3人揃ってリビングへ向かう。すると赤ちゃんを抱えている葉月さんが居た。
「わぁ〜暑い中。お疲れ様。2人とも会いにきてくれて嬉しいよ。」
穏やかな顔で微笑みながら葉月さんが迎えてくれた。
「今ちょうどご機嫌さんなの。顔を見てあげて。」
そう言いながらベビーベットに赤ちゃんを寝かせる。
理人くんと私はベビーベットを覗き込んだ。ふくふくとした顔の目がぱっちりとした綺麗な赤ちゃんだ。奏斗くんと葉月さんの良いところをちょうど良く合わせた可愛いらしい顔で機嫌が良さそうに手をゆっくりと上下させている。
「名前は?」と理人くんが尋ねた。
「
「可愛い名前だね。奏月ちゃーん。理人おじちゃんだよ〜。」
理人くんは優しく笑いながら話しかける。
「ほらミコもなんか言いなよ。」
「え、あ、うん。奏月ちゃーん。えっと。大きくなれよ〜。」
「はは。なんかどっかの親戚のおじさんが言いそうなセリフだな。」
私がなんと言えば良いか分からず、しどろもどろになっているのを見て理人くんは笑った。
「ね、ミコトちゃん。奏月の前に指を出してみて。」
葉月さんがそう言いながら私の手を奏月ちゃんの前に持って言った。すると奏月ちゃんが私の人差し指をはしっと掴んだ。
「わ!」
「ふふ。可愛いでしょ。赤ちゃんの反射だけど。こんなにちっちゃい手なのに意外と力あるよね。」
自分の中の庇護欲が湧いくるのがわかる。あまりの可愛さに胸が苦しい。
正直なところ子供はあまり好きな質ではない。バイト先に子供が生まれて可愛いねと言いはすれど、どうとも思ったことは無いのだ。
ただこの子は違う。この子の未来は何に変えても私が守らねば。邪悪な妖精や異形の化け物からこの子を絶対遠ざける。
私は強く心に誓った。
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