第25話 SEEDの目覚めと覚醒の時


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 イベント開始から鉱山を中心に開拓を続けスキルと装備を整えてきた本命チームのメンバーたちは生産職のアイリスの力を使い既にアルタナメタル装備一式で武装していた。攻撃力と防御力に長けた装備で序盤では頼りになる装備ランキング上位に入る物で身を固めるなど定石どおりの展開で後数分後に解禁されるPVEに備える。


 アルテミス山脈から聞こえるモンスターの遠吠えがプレイヤーたちを威嚇する。


 昨日までいなかったモンスターが一気に現れる瞬間に合わせ緊張感が多くのプレイヤーの危機感を煽る。今日からは寝る時もモンスターの奇襲に備えたりとまさにサバイバル状態。体力の配分からポイントまで気を配る必要がある。神経の張り巡らせだけで言えば昨日までの比ではない。


「どうするつもり?」


「なにが?」


 神々の挑戦と呼ばれる世界大会で優勝争いをした朱音の隣に立ちアリスが声を掛ける。


「うわさ……よ」


 その言葉に朱音はタバコに火を付けて空を見る。

 アルテミス山脈の麓からあがる煙は消える。

 同じように今日から多くのプレイヤーが消えていくだろう。

 途中リタイアである。 『YOUR FANTASY MEMORY』と『World phantom』の二つのゲームの合同イベント。たしかに可能な限りプレイヤー同士のハンディキャップを失くしたイベントで最初は盛り上がりを見せた。だけど朱音たちのように序盤から使い勝手が良く汎用性の高い装備を手に入れたグループは此処に来るまで見かけた限り殆どいなかった。つまり効率……プレイングスキルの差がやはり大きく出ている。


「通称神災戦隊……彼らは全員エリカの制作した初級テスタ装備らしいわ。終焉の神災者だけが涙桜シリーズとAGIに特化した装備らしいけど序盤からコケてる。これだと私たちの敵は――」


 言葉を遮るように朱音が口を開く。


「わからない?」


「なにを?」


「提示板で誰一人まだ諦めていない。どころか皆が期待しているのよ、ダーリンの活躍を。それに本当にあんたたち全員気づかないの?」


 今の朱音に油断などない。

 既に最大レベルの警戒心を周囲に張り巡らせている。

 それはモンスターの奇襲を恐れてじゃない。

 PVPがまだできない今日から一週間でもし紅たちが自分達が追いつけないぐらいのポイントを荒稼ぎした場合勝負の目がその時点で積むことだ。

 装備の差。

 アイテムの差。

 そんなものは過去一度も紅に通用したことがないのは少し考えれば誰でもわかる。(興味がある方は『とりあえずカッコいいのとモテそうなので弓使いでスタートしたいと思います』をお読みください。作品フォロワー2200人超です)


「なにが言いたいのですか?」


 アイリスが姉であるアリスを護るように棘のある言葉を投げかける。

 碧はその様子を静かに見守る。


「ふふっ、さぁ~ね。さっきから黙ってる碧は気づいたかしら?」


「えぇ」


 碧の言葉は短い。

 だけど言葉に乗った警戒心にアイリスとアリスがようやく朱音の言いたいことを理解する。


「既にこのイベントは彼の思惑通りに動いていますね。どころか彼を中心にイベントが動いているようにも見えます」


 そうだ。

 イベント攻略と言う観点から見た場合朱音たちが一番有利にイベントを進めているはずなのに昨日までにイベント参加者と観戦者用の提示板の多くは神災戦隊のことで持ち切りだったことだ。そして多くの者が期待している事実から朱音と碧だけは彼を知り理解する者として正しくこの状況を理解していた。


「初日に見せた持ち込みスキルの切り札神災竜。それを駆使し四日目までは真面目にスキル集めをしていたみたいですが、五日目からは里美たちの装備品の素材集めと彼の遊び報告ばかり。彼一人なら気にする必要はない。だけど……」


「そう。知能に長けた里美ちゃんとエリカちゃんが向こうにいる以上全て計画通りだとするならそろそろ来そうじゃない?」


「ですね」


 鼻で笑う碧。


「――紅様ぁ、紅様ぁ、紅様ぁの時間がやってきたぁ!!!」


 突如聞こえてくるリズムに乗った音楽。


「――ここで俺様がイベントを盛り上げないと運営ちゃんが泣いちゃうよ!」


『んなわけあるかぁーーーーー!!!』


 天の声によるツッコミが聞こえたが無視して超ノリノリなメドレーは続く。


「――ここから始まるぅ俺様全力シリーズと妄想シリーズの演舞で女の子のハートを魅了するZE☆彡 ZE ZE ZE 全力シリーズ乱舞をご覧あれぇ~」


 大音量。その正体は空から。

 よく見れば何やら空に浮かぶ不思議な気球に取り付けられたスピーカーから拡散されているように見える。そんな注目を集める気球には三人の女の子が乗っている。里美エリカマヤの三人である。


「モンスター討伐解禁、俺様新時代降臨まで間もなくだよ~スリー、ツー、ワンっー」  


 最初は周りのペースを見ながら付いて行こうと朝はゆっくりすると決めて寝ていたプレイヤーたちを強制的に叩き起こした問題児のカウントダウンに多くの者は同時に鼻で笑うのであった。


 ――アイツ超元気じゃん、終わったな……フッ、と。


「ぜろぉーーーー!!!!」


 瞬間、俺様NEW戦闘機アルファーエックスエックスNo.1に乗った紅が空に出現しモンスタが一斉に各所に出現した。


 ――全プレイヤーへの告知も運営から届く。

 スキルと装備集めを終わった小百合がモンスターとして出現。

 高配当ポイント特別モンスターで強いためお気を付けください、と。


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