第29話 よいよいvsキャロル 青い鳥を追え

「にゃーのターン。 《龍石トロッコ》で1走行してターンエンドにゃ♪」




よいよい ゴールまで残り20→19




突飛なバトルはよいよいの先攻で始まった。


速やかに、キャロルへとターンが移る。


「私のターン! ギア1の 《濁らずの鳥スタンドアップレメディ》に、ギア2の 《ファンファン・タイム》を重ねる! 効果で手札二枚をアシストに置き、山札からほかのファンファン・タイムを出すわ!」


嫌った割には慣れた手つき。


恨むからこそ追っていたのか、最新のギミックでよいよいに追いすがる。




濁さずの鳥スタンドアップレメディ》✝

ギア1マシン ステアリング

POW 0 DEF 0

【豹変速】ゴールまで残り5目盛り以内まで進んだ時、このマシンカードを裏返して一番上に出し直す。



《ファンファン・タイム》✝

ギア2マシン マギアサークリット

POW5000 DEF 0

【登場時/手札二枚を裏のままアシストゾーンへ】山札から 《ファンファン・タイム》二台を選んで空いているマシンゾーンに出す。




「……いきなり人ん家に来てなにやってんだアイツ」


「キャロルのメイドか……その発想は無かったな」


「オマエも何言ってんだマス」


「…………、ふむ」


白目でマスへツッコミを入れるクリスを後目に。


よいよいについてきていたナナミは、戦いを眺めながら先ほどのやり取りを思い返していた。





『────コレは建前にゃ。無理やり連れてくこともできるけど、それじゃあとあと面倒だからにゃー?』


この戦いの直前。


すきま風吹くボロ家にて。暴力で押し通せたよいよいの側から、話をスマートにするために戦いを提案したのだ。


もちろん、誘惑も忘れずに。


『にゃーと戦い勝てば無条件かつ任意で、負ければオヌシがメイドになってから強制で。うちのキュアカフェでの食べ放題に招待するにゃ』


『た、食べ放題っ!?』


『コレ、チャンスじゃ……久しぶりにもやし以外の晩メシをくえるぞ!?』


『最近、栄養不足が深刻だったしな……』


『ま、まってわたし、まだやるって決まったワケじゃ……』


さすがに恥をかく当人のキャロルは躊躇うが、そも状況はほぼ一択だった。


『さて。TCGインフルエンサーのにゃーとの出来レースに挑むか……それともジュワッジュワ言わせたサイコロステーキやカリッカリのベーコン載せた特上のパスタ等を、食べ逃した事を悔やみながら生きるか。好きな地獄を選ぶといいにゃ』


『縛りの結び方が特級レベル! 選択ミスったら生涯忘れられないレベル!!! ……ああわかったわよ、やればいいんでしょ!!』


拒否しても特に旨みはない……そう悟ったキャロルは、大人しく勝負に応じる事を選んだのだった────




「……ねぇ、どっち勝つと思う?」


「……? この場合はキャロルじゃねーの?」


ともに観戦するアヤヒに問うと……意外な言葉が返ってきた。


「手札がチラっと見えたが……よいよいのヤツ、前環境からデッキを更新してない。完全に舐めプしてやがるゼ」


「……そう、みえるかなぁ?」


「……???」


やけっぱちで挑む様子だが……確かにキャロルは【豹変速】を利用している。


最新弾のギミックを取り入れた彼女の方が、環境に対応してるようには見える。


一方でよいよいは、少なくとも二年前にはあった初期マシンを使ってる。カードゲームはインフレしていくものなので、更新してない方が弱い……というアヤヒの意見ももっともだった。


そのはずだが。


「なーんか……そうじゃない気がするんだよね……環境読むってのは、それだけじゃない気がする」


「あぁ?」


「あのインフルエンサーが選んだデッキが、その程度なわけがない」


……そうこうしてるうちに、キャロルは三台のギア2で走行する。




キャロル ゴールまで残り……20→18→16→14




「……ターンエンドよ」


「じゃあ、にゃーのターン……ドローにゃ♪」


ターンは返した。


だが行動までは終わってない。


「そのターンの開始時。 《初級魔法・バインド》を使うわ」


「……ほう?」


特色を出した追撃。


攻め手を鈍らせる持ち味が光る。




《初級魔法・バインド》✝

ギア2アシスト マギアサークリット

【使用コスト︰裏向きのアシスト二枚を疲労】

◆このターン、最初に行動した相手のマシンをアシストゾーンに置く。

【発動後】このアシストを裏返して、アシストゾーンに残してもよい。そうしないなら、山札から 《初級魔法・バインド》を一枚選び手札に加える。




先刻、ファンファン・タイムを増やす時に置いた手札を早速使う。


「これで、あなたの次の最初の行動は無意味になる。気をつけて走ることねっ」


────マギアサークリットは緑の領域。


アシストゾーンをリソースとして、活用した戦法が得意だが……このデッキの場合、それは添え物程度の利用に留まる。


「効果を置いたあと、バインドを裏返さずに山札から新しい《バインド》を手札に加える……処理はおしまい。さあ、かかって来なさい」


「…………ふむ」


若干だが、キャロルが語気を持ち直す。


不安こそあれど、若干優勢かも……くらいには思っていたのだろう。


だが甘い。


甘すぎる。


その認識はガムシロップのように甘い。






「…………じゃあ、かかっていくとするかにゃ?」


現在、8万の脳を統べる帝王が。


下手な『V』よりはるかに名のしれた彼が、その程度で倒せるわけが無い。






「ギア1の龍石トロッコの上に、ギア2の 《アシガル・フレイマー》を、続いてギア3の 《ドラゴ・スクランブル》を出すにゃ!」


「……!!」


そして、圧倒が始まる。


続けざまの展開、それ自体はよくある流れ。


だがその内容が問題だ。




《アシガル・フレイマー》✝

ギア2マシン サムライスピリット【アヤカシ】

POW5000 DEF5000

【このマシンの上にマシンが置かれた時】このマシンカードをアシストゾーンに置く。その後、山札から 《アシガル・フレイマー》二台を選んで出す。



《ドラゴ・スクランブル》✝

ギア3マシン ステアリング【ドラゴン】

【各ターンの開始時/自分のマシン一台を自身の下へ】自分の山札の一番上を見る。それがギア4以下の【ドラゴン】コアを持つマシンなら出す。違うなら、山札の下に戻す。




「そのカードは……!!!」


「上にマシンが乗ったことで、アシガルは二台と一枚に分身。更にアシストカード 《ドミネーション・プランニング》。にゃーは山札の上6枚を好きに積み込めるにゃ!」


「ろ、6枚ッ!?」


並ぶカードは必殺の手順。


確定した未来を用意する、絶望へ追いやる手順だ。




《ドミネーション・プランニング》✝

ギア3アシスト ステアリング

【使用コスト︰場札を好きな数疲労】

◆自分の山札を見る。そこから払ったコスト+1枚のカードを選び、山札をシャッフルしてから好きな順番でその上に置く。




「コストを5枚……にゃーの場の全部を支払い効果を処理。順番は…… 《両裁剣暴 Q・Busta》 《マザーズラブ・マーモンズ》 《ネビルシュート・火車・ドラゴン》《両裁剣暴 Q・Busta》《両裁剣暴 Q・Busta》 《正義執行剣 オオミカミ・トラクリオン》……かにゃ。あとはなにもせずにターンエンドにゃ」


「えっ……」


走行なし。


必要ないし、余計だった。


ターンのはじめのアシスト送り……なんて相手にする意味すらなかった。


しかも。


「わ、わたしのターン、ドロー……」


「この瞬間 《ドラゴ・スクランブル》の効果♪」


震えるキャロルへ、今度はよいよいが圧をかける番だった。


否、圧では済まない。


「味方マシン一枚を自分の下に置いて、デッキトップを確認。それが【ドラゴン】コアを持つマシンカードなら自分の上に重ねて出せるにゃ♪」


「…………!」


「まぁーもちろん、今デッキの上に置いたコイツが出るんだけどにゃ? ……現れいでにゃ……マイフェイバリット 《両裁剣暴 Q・Busta》!!」


運任せのフリをした確定ガチャ。


予定調和で切り札が君臨する。


プレス機にかけるような、致命の圧が繰り出される。




両裁剣暴 りょうさいけんぼQ・Bustaクアトロバスター》✝

ギア4マシン サムライスピリット【ドラゴン】

POW14500 DEF10500

【アースシェイカー(登場後、次の相手ターンの終わりまで、このマシンは攻撃や効果で選ばれない)】

【行動時】山札の一番上を見る。それが【ドラゴン】コアを持つマシンなら出してもよい。そうでないなら手札に加える。




「………………………………あぁ……」


キャロルは、あの日のように静かに泣く。


絶望の未来は、とっくに定められていたのだ。


ここで、ついていけてないアヤヒが声をあげる。


「おいおいおいおい……どうなってるんだコレ。どうなるんだコレ!?」


「まあそうだね……今でた 《Q・Busta》はまず倒せない。でもってターンを返したら最後、さっき見えたドラゴンが全部でてくるかな」


「……ハァ!?」


────よいよいのデッキは【アヤカシ連ドラ】と呼ばれる、【ドラゴン】コアを多用するデッキだ。


行動のたびにデッキの上を捲り、それが【ドラゴン】なら真価を発揮する……そんなカードの群れなのだ。


そのデッキパワーは二年ぽっちじゃ色褪せない。


「最終結果はギア4が三台並び、締めにギア5が出てトドメ。確か締めのは【三回行動】持ちだったから……走る距離は4+4+4+5+5+5……やっば、27メモリも走っちゃうね」


「に゛っ……」


だから、ほかに走る意味はそんなに無い。


20目盛り走ればいいゲームで、27目盛りも走れるムーブを抱えているのだ。


とんでもないオーバーキル……いいやオーバーランと言えた。


「……こりゃ、どうあがいいても敗北かなぁ」


「でも……でも、最初の攻撃は 《初級魔法・バインド》で止まるだろ!? 最新能力の【豹変速】もある!」


「無理だよ。1回止めたくらいじゃどうにもならないし……それに」


「────さらに。ギア4以上の【ドラゴン】マシンを出したから 《龍石トロッコ》の効果で1ドローにゃ!!」


「……ほら。いま手札に加えたカードもヤバい」


「えっ……」


もう、過剰なほどのチェックメイト。


さすがに上振れすぎたか。




《龍石トロッコ》✝

ギア1マシン サムライスピリット【ドラゴン】

POW 0 DEF 0

【このマシンカードの上に、ギア4以上の【ドラゴン】マシンカードが置かれた時】カードを一枚引く。



《マザーズラブ・マーモンズ》✝

ギア4マシン サムライスピリット【アヤカシ】

POW????? DEF?????

【ゴールキーパー】

【【ゴールキーパー】による登場時】山札の一番上を見て、それが【ドラゴン】コアを持つならこのマシンの下に置いてもよい。その後、行動中のマシンに攻撃を受けたものとしてバトルする。




効果バトルを行う受け札が手札へ。


さすがに、磐石にも程がある態勢だ。


「……あのゴールキーパーを越えない限り、キャロルに勝機は無い。レメディの裏面で勝てるならいいけど、それが無理なら……」


「ま、まさか…………」


事実、キャロルは苦悶に歪む。


残る手札、引き入れうる可能性、その全てを考えて。


考えて、考えて、考えて。


そうして、どう足掻いても無理だと理解して…………






「…………ま、まいったわ……降参よ……ッ!」






「…………ウソだろおい」


投了を選択する。


敗北を自ら認めたのだ。


「うむ……対戦ありがとうございましたにゃ」


「ぅぅ……ありが、と……ッ」


彼女は、無駄な特攻を望まなかった。


その光景をアヤヒは信じられなかったようだが……ナナミは、あれが自分でもスマートに降参してたと思った。


あれでは引き運もなにもない。


決定された未来。得るもののない戦いは、純粋な徒労でしかないからだ…………。

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