第30話 『ある町』の人々 後編

「……ちょっと失礼」


「あっ……」


よいよいとキャロル、その決着の直後。


ナナミはちょっとした興味から、キャロルの切り札たるレメディを確認する。


最新の【豹変速】、その裏面を。




幸セノ青レメディ・オブブルーイ鳥バード》✝

ギア4マシン ステアリング 【ロード】 SPKスピードキングレア

POW12000 DEF14000

【【豹変速】による登場時】相手をゴールまで20目盛りになるよう逆走させる。その後、相手は次の自身のターンの終わりまで効果での走行ができない。

【アースシェイカー(登場後、このマシンは相手ターンの終わりまで、攻撃や効果で選ばれない)】

【このマシンがこの面を上にして離れた時】自分はゲームに負ける。




「……なるほど、進化するだけでスタート地点送りと。アレってこうやって対策するんだ……」


なかなかのスペックに感心する。


確かに、相手によっては即詰ませられる力はあった。


「アレって? なんのことだよ」


「ああほら…… 《ATーMIC ブルドーザゴン》。使ったらゴール前に飛ぶやっべぇの居たでしょ」




ATーMICアトミックブルドーザゴン》✝

ギア5マシン ヘルディメンション【ドラゴン】

POW13000 DEF17000

【追加コスト・自分の裏向きのアシストカード二枚を疲労させなければ、このマシンは登場できない】

【登場時◀鬼神走行▶】相手のマシン一台を破壊する。その後、このマシンはゴールまで残り6目盛りの地点まで走行する。

【このマシンの走行時】相手の手札を見て、そのうち1枚を捨てさせる。




以前、店長と戦った時に飛んできたバケモン。


新弾発売までの環境はアイツ一色なのだが……さすがに運営にとっても、一強無双は望ましくなかったようだ。


「コイツはその対策なんだ。ワープ効果を潰されたら強みがかっ消えるし……あのデッキは除去をブルドーザゴンの【登場時】効果に依存してるから」


「依存ってーと?」


「ほかの除去を切りつめてるってコト。【アースシェイカー】の選ばれない効果が切れた所に、落ち着いて単体除去アシストを叩き込む……みたいなフツーの対策が逆にムッズいんだよね」


「あ〜……」


つまり、デッキバランスの問題。


ブルドーザゴンは単体最強のスペックを誇るが、それ故に一枚で多くの役割を背負いすぎる。


そのため、一枚だけでも対策されたとあっては、旨味のほとんどをを捨てなければいけなくなる。孤高に至るまでのナニカを捨てなければ、レメディの攻略は不可能というワケだ。


だが、だからといって無敵なわけもなく。


「ま、そんなレメディにもあのゴールキーパーは突破できない。相性ってヤツだ。さっきの戦い、キャロルはどう勝とうとしても《幸セノ青イ鳥》のデメリットで負けるしかなかったんだね」


「うっわぁ……効果バトルの【ゴールキーパー】が、倒されたら即負けの【豹変速】にぶっ刺さるのか」


「逆にブルドーザゴンなら、攻撃んときの見てからハンデスでカンタンに突破できる。たぶん今後の環境は、【アヤカシ連ドラ】、ブルドーザゴン軸のデッキ、レメディ軸系デッキの三すくみがメインになるんじゃないかな」


それはともすれば現状、金のかかったジャンケンと揶揄されても仕方ない状況。


キャロルはつまり……可哀想だが、戦う前から負けていたということ。


よいよいの宣言通りの出来レース……だったのだ。


「うぅ……こんな、あっけなく……っ。このトップレア一枚180円もしたのにぃ……」


「めちゃ安いじゃん。てかスピードキングレアって箱一カクテイだから、値上がる理由ゼロだしさ」


「ムギャフンッ!!!!」


叫んで倒れる……こっぴどく負けたキャロルには、深いダメージが入ったことだろう。


しかし、この戦いは無駄では無い。


めでたく彼女を救う策の『建前』は手に入ったわけだし。


もうひとつ。


「…………彼女は、負けるとわかってて全力で突っ込むことはしなかった」


「?」


「過去を反省してた、ってコト。ここで知れたのは、まあまあシュウカクかもね」


彼女は徒労に突き進むことはなかった。


過去を振り返り、変わることはできていた。


であれば、ナナミだって。


「ねぇアヤヒ……おれも、できるかな。反省して、自分をかえるってコト」


「ばーか、できるよ……できてるさ、とっくに」


「そっか。だと、いいな……」


……と。ナナミ達が思考にふける中で、事態はとっとと進行していた。


「……ウェ!? ちょっとなになに痛い痛い痛い痛い!! 無理やりしないで着替えなら店でやるから」


「ええい負けたんだから大人しくするにゃ! 向かう前にサイズの用意くらいしとかにゃいと……まずは厚ぼったい羽織りを脱がしてやるにゃん!!」


「ちょっ、話きいてって……」


よいよいは、建前は重視するが無駄は嫌う。


室内でさえ脱いでない、なにか大事そうな外套を取っ払って────






────────どっっっっっっっっっっったぷーーーーーーーーーーん!!!!






「……おお♡♡」


「マジか……」


よくもまあ、隠していたものだ。


ボディラインピッタリのキャミソール一枚越しに、見事な双峰が顔をだす……それこそ顔みたいなサイズが二つ、凛と上を向いている。


成人女性でもそうは見ないサイズ感。コレをさげてたら、どう頑張っても幼女のふりはできまい。


「……そ、そんなまじまじ見ないでよ……」


「いや、見ないでと言われてもこりゃーにゃ……」


胸部以外のスタイルもどうだ。厚ぼったい外套と髪型で誤魔化されていたが、低い身長以外は出るとこ出てきっかりくびれているナイスバディだ。


あばらが見えそうなほど、クキッとくびれた腹部に反し、優しく包み込むような腰骨周りはなかなかの感触だろう。短いなりに細くスラッと伸びた手足と併せ、まるで騙し絵のようなスタイルをしてると言えた。


国宝レベルの体躯が隠されてたと知り、よいよいは。


「なる……トランジスタグラマーとはこの事か。こーんなイイ乳ぶら下げてロリっ子に擬態できるんだから大したもんにゃん……ねっ!!(むにゅううううう!!!)」


「痛い痛い痛い痛い痛い!!!! てか一応オトコでしょアンタひっぱたくよ!!」


「にゃっははー、言う通りするの……にゃッ!!」


ぐわしっ!!! いやーーーーっ!!! ……と揉みしだかれる様はオンナノコ同士のじゃれ合いにしか見えないが。


実際は青少年の握力で、推定アラサーの強度しかない乳が傷む構図だ。たぶん割と本気で痛い。


とここで、仲間のメイドから声がけが入る。


「よいよい、車内の用意が出来ましたよ」


「おっとありがとうにゃ♪ でわでわしゅっぱーつ!!」


「っと……じゃあおれたちも隣のカドショででも待機しよっか」


さて、ぼちぼちアブナイ景色になりそうなのでナナミ達は距離をとる。……厳密には、胴上げで車へ運ばれていくキャロルから。


だがなぜか、そうはしたくない者も居た。


「…………」


「アヤヒ?」


アヤヒは少し、頬を染めて問う。


「……なぁナナミ、アタシがあんな……メイドとかのカッコウしたらどう思う?」


「……? けっこう似合う……とはおもうけど」


「…………そっか」


なんの気なしの返事に、しかしアヤヒは力を貰う。


そして、その言葉を受けずいっと名乗り出る。


「あ……アタシにもやらせてくれ、メイドってのをさ!!」


「!? なに言ってるのアナタ!?」


いきなりドン引き加減のキャロルに対し、冷静に吟味して返すのがよいよいだ。


「あぁーん? にゃにゃにゃ……ううむ……オヌシのスタイルじゃ、あんましサマににゃらんよぉーにゃ……」


「うっ!!!」


「うんや、やったげてよ、よいよい」


冷静な判断に、だがナナミは背中を押す。


それが、彼女のやりたい事ならと。


「……まってるよアヤヒ、楽しみにしてる」


「……お、おうナナミ。クビ洗って待ってろ」


「……ソレ、なんか違うくないかにゃ? まあいっか、詰めて乗るんにゃーよ?」


かくして。


色々あったが今宵、二人のメイドが新たに爆誕する運びとなった。







そうしてしばしあとの漆黒。


まだ肌寒い時間の中、出迎えられる側三人はよいよいの店の前に来ていた。


「…………さて、この時間に来ればいいんだったな」


「そうだね……じゃ、行こうか」


「……でだ。ケッキョクなんでメイドなんだ。タダでメシ食えるのはいいが、そこがわかんねー」


招かれ、遅めのディナーに向かう寸前……クリスが意を唱える。


「うん……コレはマスのための計らいらしいよ?」


「なんだと?」


「ここはキュアカフェ。イヤシを得るための場所だからさ」


あの時……弓太朗さんと飲んでた時のよいよいの提案だ。


悪を成した者も、どこかで拾い上げねばならない。


忌むべきはその原因だ。


「だったら、そこなマスさんだって癒せるかもってね……ってさ。そのために、キャロルさんの協力が要るんだ」


「俺の、ために……」


「まあ、おれとアヤヒも乗っかっちゃったんだけどね」


取り返しのつくうちは、どこかで拾い上げねば勿体無い。


だから排除ではなく治療し、修繕する。


『その町』の人々は、むやみに潰しあってる場合じゃないのだ。


……ただまあ、そんな細かい理屈は割とどうでもよく。


「ふーん、まあオレはみんなで腹いっぱいメシ食えればなんでもいいケドな」


この場で唯一役割もないクリスは、気軽に店への足を進めるのだ。


それでいい、とナナミも思ったが。


「……あ、そうだ」


「なに、クリス?」


「さっきの質問……ありゃどういう意味だ?」


「……………」


「ナナミ?」


数秒の沈黙。


『やるしかなかった』とはいえ、ちょっとのコウカイがナナミに走る。


「質問? そういえば俺も訊かれたような……」


「あっマスも?」


正直、ナナミにとっても答えずらい話だった。


ここで答える訳には、いかない。


「……ショージキ、いまは忘れてほしいかな。たぶん知っても、いいことないよ」


「…………、わかった。とりあえず今日のうちは忘れとくよ」


「理由があるなら、それでいい。今はな」


不本意ながら察しに頼る。


危うげながらも場を繋ぐ。


今を楽しく生きるために……


とここで。




ガチャリ……




「来たか」


扉が開き、出迎えのメイドがやってくる。


若者にも老成したようにも見える、不思議な雰囲気のメイドが。


「お待ちしておりました。フロア長の小日向と申します。お席へご案内致します」


「……うん、よろしくね」


「おう、メシメシー!!!」


「……………」


ともあれ、今は癒しを得る時。


三者三様の対応で、彼らは身近な別世界へと踏み込んでいくのだ……。

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