第6話 鍵を無くした


ひなたはいつものように学校に通い、

いつものように帰宅する予定だった。



「げっ?」


 

ジャンパーのポケットに

入れてたはずの家の鍵が見当たらない。


ガシャポンで取ったハニワのキーホルダーが

ついた鍵がどこにもない。


ズボンのポケットを探っても

どこにもない。


「ない。ない。

 あーー、マジでない。

 俺、家の鍵どこやったっけ?!」


 玄関のドアの前、近所の犬が騒がしく

 吠えている。


 バックを逆さまにして、

 鍵がないか探すが、結局見つからず。


「あーー、ないよ。」


 歩いてきた道を数メートルたどって

 落ちてないか見るが、

 それらしいものはどこにもなかった。


 ヤンキー座りになって

 うなだれた。


 すると、同じように

 ヤンキー座りになって笹をくわえている

 ぱんだ先生がいた。


 ひなたと同じ制服を着ている。

 

 いつも真似してくるようだ。


 (……。)


いつものピロピロ笛を

持っていなかったからか

何を言いたいか分からない。


ハッと驚いた顔をしてズボンのポケットから

ピロピロ笛を出してくわえた。


笹とピロピロ笛のコラボレーションだ。


音はもちろんピーーと耳障りだ。


笹の葉は、タバコみたいにくわえている。


(ここで何してるんだ?)


やっと、ぱんだの声が聞こえた。


「何って、

 ほら、家に入れないんだよ、俺。

 鍵をなくしたから。」


(ほーー。)


「ほーってなんだよ。

 何かさ、

 トイレも行きたくなってきたし。」


 ぱんだ先生は、手のひらを体の前に

 出すと空中から、ボンっと1冊の本が

 現れた。


(ちょっと待ってな、

 確かこれに書いてたぞ。)


本の色はピンク色で丸文字の

小学生くらいのかわいらしい女の子が

描かれていた。


「鍵を無くしたって言ってんのに

 何で本なんか読んでるんだよ!」


(ひなた、にんにくーって

 何回も叫びながら鍵を探すと

 見つかるらしいぞ?)


 本に読んで書いてあることを

 そのまま言ってくるぱんだ先生。

 アドバイスになってない気がして、

 ガッカリする。


「何の本読んで言ってるんだよ?

 はあ?小学生のおまじない?

  運勢?見つかるわけねーだろ!」


そうしてる間に、

ぱんだは口元に手を当てて

にんにくーと何度も叫んで、

周辺を探し始めた。


「見つかるわけないだろ?」


ぱんだはドヤ顔を見せた。


(これはなんだ?)


 ガレージに置いていた自転車の鍵に

 はにわのキーホルダーが

 引っかかっていた。

 そのキーホルダーの先に自宅の鍵が

 あった。


「ば、な?まさか。

 そんなところにあるわけがない!

 嘘だー。」



(にんにく効果は絶好調だな!)



「んなわけねえだろ!

 おまじないなんて、

 高校生がやるわけねえって。

 子供っぽい。

 …ただ、単に俺の不注意だし。」



(ふーーーん。)



ぱんだはひなたの後ろから

じーっと見つめる。


「あ、ありがとうございました!!」


(そう言う時もあるよねー?)



ピロピロ笛の音が小さくなった。


ひなたは、玄関の鍵を開けて

安堵した。


「ぱんだ先生!

 たけのこ食うか?」


 冷蔵庫の中にあった

 たけのこが入った青椒肉絲を持ってきて

 玄関の外に声をかけたら、

 すでにぱんだは消えていた。



庭にピロピロ笛が落ちている。


「なんだよ、家の鍵探してくれた

 お礼に食べさせようと思ったのに…。」


ひなたはがっかりして家の中に

入って行った。



外には青い空に丸い白い月が浮かんでいた。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る