第5話 進路の悩み

ひなたは学校から

渡されたプリントを凝視して

腕を組んでいた。


勉強机のクルクルまわる椅子に座って

背伸びをした。


進路はどうするかの問いに

進学か就職かの二択だ。


ため息をつく。


「俺って何がしたいんだろう。」


 天井を見上げた。


 ぱんだが天井に

 ステッカーのようにペラペラ状態で

 あらわれた。


「うわ!」


 びっくりして、座っていたいすが

 倒れて、背中を強く打つ。


「いてててて。」


(相変わらずドジだな。)


 ぱんだの声が脳内に響くと

 ピロピロ笛がピーと聞こえた。


「突然、あらわれるそっちが悪いんだろ。

 まったく。」


 いすをおこして、もう一度座った。


 ぱんだは、天井からふわりとおりてきて、

 プリントを手に取った。


(進路調査か…。

 俺もやったな。

 ぱんだになるかならないか。)


「は?何、その進路選択?

 ぱんだじゃなければ何になるんだよ。」


(パンだ。)


「は?」


(だから、パンだって。)


「ぱんだだろ。」


(パン!!)


「シャレ言ってるんじゃねーよ。

 え、ちょっと待って、それ、マジもん?」


 ぱんだは何度も頷いた。

 ひなたは、目を大きく見開いた。


「嘘だろ?

 動物のぱんだと食べ物のパン?

 何、その進路。」


(それが世の中だ。)


「どんな世の中だ。

 俺、人間でよかった。

 マジで人間でよかった!!!」


(だろ?

 可能性広がるだろ?

 選び放題だ。

 俺は、ぱんだかパンしかない。

 神様がそう決めた。)


 ピロピロ笛が寂しく鳴り響く。


(進路を決めるには難しいかもしれないが、

 中学生の時に夢中になったものが

 仕事にしている人もいる。

 よく厨二病とも言うが、

 案外ひなたも

 夢中になれるものとかあるかもな。)



「急に真面目だな?!

 厨二病?

 俺は、何が好きだったかな。

 そうだなぁ、恐竜のフィギィア集めるのが

 好きだったかな。

 ガシャポンで夢中になって、

 買い漁っていた。

 そういうので仕事になったりすんの?」


(たとえば、

 ガシャポンの会社に就職するとか、

 恐竜博物館、 あと、研究したいなら

 それ専門の大学に行くのもありだな。

 考古学か?発掘とか好きか?)


「あー、それマジ好き。

 発掘チョコとか、

 ゲームでも擬似体験だけどやってた。

 考古学か、エジプトのピラミッドも

 結構興味あるな。

 大学に行く理由見つかったかもな。

 サンキュー!!ぱんだ先生。」

 

 無表情のぱんだの手に

 ぱしんとハイタッチした。


 ひなたは、スマホをぽちぽちと

 考古学が学べる大学は

 どこかを調べ始めた。


 進路調査の紙は無事空欄になることは

 なさそうだ。


 ぱんだは、

 またピロピロ笛を床に置いていき、

 さらりと消えていった。


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