第12話「アンとの約束」

符覽先輩は放って置いて取り敢えず

新たに判明した能力3種類、完全に制御が効きません。

垂れ流し状態です。しかも簡易計測器を使用して俺のPSY値を測るも、結果は0でした。

どうして?ここにいる人達が全員首をかしげ

さらに謎を呼んでしまった。

ボディーガードの顔合わせは最後の一人

アンの番となった。


「・・・・・」

「えっと」

「「魅尋 杏瑚」です、一年Sクラスです」

「あのさ、アン」

「知りません」

「なあ、アン、ごめんってその」

「約束を忘れた人なんて知りません」

「いや、そのーケータイ水没させてデータが飛んじゃて連絡しなかったのは悪かった

けどさ、アンから連絡してくれても──」


よかったんじゃないかな?と言おうとした

次の瞬間、アンからの威圧感が増した。


「そんなのっ!うちは待ってなかった!」

「えっ、アン?」

「うちが待ってたのはそんなことじゃない!」

「連絡じゃ無いってどういう───」


引っ掛かりを覚えた俺は別れ際を思い出す

あの時、俺は寝ぼけたままぼーっとしながら

見送っていたのだ。


「うちは、待ってたのに、約束、覚えて──」


───ないの?───

一筋の涙がアンの瞳から零れ落ちた。

威圧感が膨れ上がる、その時周りの皆が

何か苦し気に崩れ落ちる。


「なっ!?アリス?番長?」


俺とアンだけが立ったまま他の皆は何かに堪えるように蹲っている。


「どうしたんだよ?!」

「うっくっ、り、輪道、そいつ能力、暴走を

ぎっ、して、やがるっ」


辛うじて番長がそう伝えてくれた。

能力暴走、アンの能力は確か魅了、だったはずだけど何で皆は苦しそうなんだ?!


「うぐっハァッハアッ、ま、すみっ」

「凛!大丈夫かっ!」

「ち、近くに、ッ、来て、は駄目、ですっ」

「凛、どういう」

「今、あた、くしのっ、欲が、フゥッくうぅっ」

「凛!」

「あアァッだ、め、ダメダメダメだめダメっ!」

「それ以上っ、いくなっ輪道!今、俺達の

うぐっい、一番強いっ欲望がっそいつの

あぐっの、能力によって増大、させられて

うぐぐっかはっハァッハアッい、いる!」


ガリガリとコンクリートの床を番長の手が

豆腐を掴んだようにえぐりとる。

それぞれが違う欲望を増大させられているようだ。

凛は身体を丸めて抱き締めるように堪えている。

麗香先輩も顔を真っ赤に染めながら同じように堪えているようだ。


「凛、麗香先輩、アン!能力を止めてくれよ!

皆がアンの能力で苦しんでるんだ!」


俺はアンの肩を掴んで説得を試みるものの

アンは瞳を虚ろにしてぶつぶつと何かを呟いているだけだった。

俺の声が聞こえていない、何とかしないと

皆が危ないのは見て分かる。

だけど、俺には自由に使える能力なんてない

力ずくで相手を制圧すること、体育の授業で

専門家の教師がそう言っていたことを

思い出す、いや、駄目だ。

それだけはない、アンを傷つけて止める?

そんな馬鹿な話なんてあるか!

アンは俺にとっても大切な幼なじみだ!

アンを落ち着かせるには約束を思い出すしかない、だけど、完全に寝ぼけていたから

思い出しようがないのも事実なんだ。

このっ俺の大馬鹿野郎がっ!

皆も苦しんでいるけどアンだって苦しんでるんだ!

こんな時くらい、思い出せよ!


───仕方ない───

「は?」


声が聞こえたのは気のせいだったのだろうか

その声は確かに俺の声だった。

俺はその瞬間に夢を見た。




──────白昼夢───────

『ぐすん、本当は行きたくないよ

うちは真澄兄さんと離れたくないよぉ』

『コラコラ、いい加減にしなさい杏瑚

お前の能力は制御が出来ていないんだよ?

そのせいで真澄君にもしもの事があったら

杏瑚はそれでも良いのかい?』

『・・・』


俺の首もとに腕を巻き付かせて抱きついたまま離れようとしないアンを説得する父親


『うぐえぇっ締め付けられるぅ』

『ちょっ!?杏瑚、離しなさい、真澄君の首が絞まってる!』

『やぁっ!真澄兄さんと離れないっ!』

『うっ』


さらにキュッと力強く絞められる俺の首

だんだん蒼白くなっていく俺を見て焦る

アンの両親達と俺の両親達、しかしそこに

救いの女神が降臨した。

そう我がマイシスターアイドルプリンセス

美波里である。


『ねぇ、アンちゃん《わたしの》おにぃが

そろそろ天国へ旅立ちそうだから離して』

『ぐすんっだってぇミーちゃんっ』

『ほら、はやく』

『うぅっ』


スルリと崩れ落ちるように体勢を崩す俺、

それを小柄ながらにしっかりと抱き止める

マイシスターアイドルプリンセス美波里


『・・・すりすり』

『ああっ!?うちが抱きついてた所に

上書きしてるぅ!』

『これはおにぃの妹たるわたしの特権』

『ううぅっ普段はベタベタしないくせにぃっ!』

『他のメスの匂いはおにぃにつけさせない』

『ミーちゃんのブラコンッ!』

『それは違う』

『何がちがうの!』

『わたしとおにぃは相思相愛だから』

『ぬうぅううっ!!』


アンとマイシスターアイドルプリンセス

美波里が姦しく口喧嘩をしだした

これもいつもの光景だ。

二人の両親もそれを微笑ましく、そして

悲しげに見つめていた、こんなにも・・・

そう、こんなにも仲の良い本当の姉妹のような二人を、慕っている兄と呼ぶ男の子と

離さなければならないのだ。

アンの両親ははじめはここから通うように

出来るようにしようとしていたのだ。

しかし、その強すぎる能力は制御が効かない

ものだった。

いつ能力が発動するかわからない

爆弾のような力をもしこの子達の前で

暴発してしまったら取り返しがつかなくなるかもしれない。

アンの両親は知っていた、いや、その危険性を知らされていたのだ。

アンの能力の暴走は《魅了》ではなく

《欲望の解放》、災厄とされる悪魔の力で

禁忌の能力それがアンの、本当の能力。


『杏瑚』

『!・・・うちは』

『お別れじゃなくてまたねって言いなさい』

『!』

『お前の能力が制御が出来てなおかつ学園生活が慣れて来たら会いに来れるから』

『お父さん』

『そうよ、杏瑚、それとも制御出来るようになる自信はないのかしら?』

『お母さん』

『それか、真澄君と約束をすれば言い』

『約束?』

『真澄君にどうしてほしいんだい?』


アンは少し考える、それから何かを決めたように頷くとマイシスターアイドルプリンセス美波里に支えられている俺の耳元まで顔を寄せる。


『・・・真澄兄さん』

『ウゥ』

『真澄兄さん、約束して誕生日プレゼントはいらないから次の誕生日にはうちに会いに来て欲しい』

『うぅ?』

『電話の連絡もいらないから!だからっ』


その時の俺は無意識に頭を動かしてカクンと

首を動かして酸欠で気絶した。

アンは嬉し気に笑顔になり言う


『約束だよっ真澄兄さん!』




─────────

「はっ!?」


いやいや、約束覚えているはずがないよね。俺、気絶してるじゃん?!

あれ?これ、この約束、俺以外聞こえていないと言うかマイシスターアイドルプリンセス

美波里は聞こえていたよね?

もしかして分かっていて黙ってた?

そう言えばアンの誕生日の日にニヤニヤしてたなあ、まったくオチャメさんめ!

他の女の子達に対して俺に近付くのを牽制している節も良くあったし甘やかしすぎたかな?

いや、それをも包み込む俺の愛を持ってして

許してあげよう。

まったくもうしょうがないなぁ。

っとだが夢のお陰で約束は分かった

あとは俺が行動を起こす番だ!

寂しい思いをさせた分をみたしてやるからな

アン!





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