25話 ブライアン校長と密会

 ミステリウム魔法学園編入後、放課後に行われるアノールのスパルタ講座を受ける日々を送り、あっという間に一ヶ月の月日が流れた。アノールのおかげでなんとかテストも十位以内……というか学年で一位と学園で二位を取ってしまった。そのせいで、優等生だと認識されてしまう羽目に。そんなある日、何故かブライアン校長に呼び出され、校長室に向かうこととなった。


「ルナ・マーティンです」


 校長室に着いた私は扉を三回ノックし、名を名乗ると大きな扉がギギッと音を立て開いた。中に入ると、モダンなインテリアが充実しており、私の目の前に大きな黒色のソファに座ってティーカップを手に取り、ここに座りなさいと言わんばかりの微笑みを向けるブライアン・コルト校長がいた。校長の圧に負け、ソファに座るとブライアン校長は指をパチンと鳴らすと、私の前に校長と同じ紅茶が入っているティーカップが現れた。


「家にいると思ってくつろぎなさい」

「あ、はい!」


 いや無理だろ!? 校長だぞ! しかもこの国を治めている支配者(←言い方)だし! 


「どうかしたのかね? さっきから百面相しているが……」

「いいえなんでもありません!! いただきます!!」


 校長が出してくれた紅茶を一口口の中に含むと、丁度いい甘さが口全体に広がり、味が濃いはずなのに、癖もなく飲みやすい。香りも程よい。


「お気に召したかね? これはアッサムという紅茶だ。ミルクティーに近いだろう?」

「はい近いです! というかもうミルクティーなのでは?」

「そうだ。ストレートだと飲みにくいと思ってミルクを足したんだ」


 そうだったんだ。今度アノールに言って淹れてもらおう。


「今度ルイに頼んで、アノールにも紅茶を淹れてもらおうか」


 校長がルイさんのことをルイって呼んでる!? しかもアノールのことも!? この感じは教師と生徒の話ではなさそう。


「おっと、驚かせてしまったね。私とルイはこの学園にいたころの同級生なんだ。だからアノールのことも良く知っている」

「そうだったんですね。それで今日はどんな御用がおありなんでしょうか?」


 私は本題を校長に振ると、思い出したかのように『そうだ』と言った。


「君をウィザード・セクトの候補者が集まる騎士ナイト部に入部届を出して置いたから、明日の放課後にでも顔を出しておくと良い」


 校長の爆弾発言を耳にした私は、木製のローテーブルに両手をバンと叩きつけた。


「はぁ~!?」

「そんなに驚くことかね?」

「驚くに決まってますよ!? まず事後報告がいけません!! というか何故私を候補者の一人にしたのか聞きたいです!!」


 呼吸を落ち着かせながら、再びソファに腰を下ろした。するとブライアン校長は顎に手を置きながらこちらをじっと見つめた。


「な、なんですか……」

「成績優秀、しかも稀少な氷の使い手。君ならアランの呪いをどうにかできるのではないかって」

「アランさん!? ルイさんと同級生ということはアランさんの同級生ということにもなりますよね?」

「そうだ。アランとは価値観が合わなくて、よく喧嘩をしたものだ」


 真面目系とゆるゆる系って合わないからかも。でもどこか知ら似てるって聞くけど、どうなんだろう?


「アランは大馬鹿だ。普段はあーやってやかましいが、色々なものを背負っている。君ならこの意味を理解できるな?」


 校長が言っているこの意味。ほんの少しだが理解できた。アランさんは稀に悲しそうな表情やどこか寂しそうに私の顔を見てくるときがあった。そして、何かを思いつめる表情も……。何度か見たこともあった。理由は知らないけど、おそらく私のこの姿のもとになった依り代の子が関わっているのだと。


「はい」

「それなら、この件を飲み込んでくれるかい?」


 校長のダークチョコレート色の瞳と私の赤い瞳が交わった。私は目線を逸らさずに校長に力強く頷いた。騎士ナイト部に入部することを決意した私を見た校長は、口元を少しだけ緩ませ、ぬるくなった紅茶に口をつけた。


「呪いについては詳しくないが、何かわかったらその都度ルナさんにお伝えしよう」

「ありがとうございます!」

「期待しているよ」


 こうして私ルナ・マーティンは、ブライアン校長公認で騎士ナイト部に入部することとなった。活動内容が不明な部活で生き残れるのか不安な私でもあったのだった。

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