第7話 嘘つき

夕方のファミレス。

私の隣に佐々木が座り、真正面には、例の美空の彼氏「大野斗亜」が座っている。

あの日、私達は凛子を通して大野斗亜に話を聞く機会をゲットしていた。

「初めまして。大野斗亜です。凛ちゃんも一緒に来るはずったんですが、お仕事が入っちゃったみたいで」

凛子が来る予定だったというのは凛子についてもらった嘘だ。

私達は凛子と大野斗亜が親戚だと聞いて、すぐに会わせてほしいと彼女に願い出た。もちろん理由を聞かれたけど、込み入った話で話せないのだと言うと凛子は察して何も言わずに斗亜との会をセッティングしてくれたのだった。

眼鏡に黒髪のマッシュ。そしていわゆる萌え袖をした小柄で中性的な大野斗亜。

彼は急な呼び出しだったのにも関わらず、笑顔でファミレスに現れた。

「で、お話しというのは?」

「あ、えっと…その」

「もしかして美空の話ですか?」

背筋が伸びる。

他にもいろんな人に聞かれてきたといわんばかりの話し方。

凛子には「斗亜と話してみたいという女子がいる」という理由で話を通してもらっていたけれど、やっぱりそうか。

彼は最初から、本来の私達の目的を見透かしていたのだ。

どうしよう。頭の中でぐるぐると考えていると私の代わりに佐々木が話し始めた。

「そうだよ。わかってたんだね」

「桃宮の生徒さんが、急に僕なんかに会いたいなんてそれしかないでしょ?」

「で?率直にどう思ってるの?」

佐々木は余裕そうに彼に質問する。

「まぁ、残念でしたよ。その件は」

そういって彼は、ブラックコーヒーを一口飲んだ。

「ごめんね。でもこれを聞かなきゃ、私達も先に進めないっていうか」

「先輩たちは美空とどんなご関係で?」

彼は佐々木の言葉を遮って会話の主導権を奪う。

同時にコーヒーカップを置くと、私達の方をじっと見つめてきた。

カップを置くカチャンという音が、より鮮明に聞こえた気がした。

「どんなって…。私が美空と友達だったの」

「で、美空はどんな子でした?」

「えっと。すごくいい子だったよ。気配りができて、周りの事をしっかり見ていて」

「他には?」

「…他?えっと、桃宮に編入するために努力して叶えた。凄い子」

「ふーん」

少しニヤッとして彼は相槌をうつ。

そしてもう一度コーヒーを口にした。

2人のやり取りを横で黙ってみていた私は、少しの違和感を彼に感じていた。

「…僕も彼女のそうゆうところが大好きでした。大好きだったから…」

そう切り出した大野斗亜が言葉を詰まらせたと思うと、いきなり涙を流し始めた。

「え!ちょっと待ってよ!ごめん。泣かせるつもりはなくて」

佐々木が珍しく慌て始める。

「わかってます…わかってるんですけど…。僕も悲しいんです」

彼はいつの間にか手に用意していたハンカチで涙を拭う。

かけていた眼鏡を外して、目頭を押さえる。

その様子を見て、私は咄嗟に言葉をかけた。

「斗亜くん。泣かせちゃってごめん。とりあえずトイレいってきな。こんなみんないるところで泣きたくないでしょ?」

そう言われると彼は私に無言で視線を向け何かを考えたと思うと、いきなり鞄を持って立ちあがった。

「…ごめんなさい。僕、帰ります」

「え?ちょっと。斗亜くん」

引き留めようと立ち上がった佐々木の腕を引っ張る。

誰にも追われなかった彼は迷うことなくまっすぐ帰って行った。

「え、いいの?追っかけなくて」

「佐々木。なんか嘘くさいよあの子。素直に話してないように見えた。私が思うに斗亜くんは美空ちゃんのことなんとも思ってないよ。きっと」

「え!?だって今泣いて」

「泣いてたけど…。でも、なんかわかるの。あれは心からの涙じゃない。本当の涙って、助けてほしい時に流れるもの。あれは嘘つきの涙だった」

小学校の頃からいろんな人を助けてきた。転んだ人、落とし物をした人、迷子になった子供。いろんな人の涙を見てきたから知っている。彼は嘘つきだ。

「…清川。なんか変に冷静じゃない?」

「私、正義感は人一倍だからね」

そして私は確信した。

彼は美空の死に関して、何か知っているに違いないと。


「あーなんか悔しいな。完全にアイツのペースだったじゃん会話。私がもうちょっとうまく話せてたらきっと情報が手に入ってたと思うんだけどな」

ファミレスを出て私達は桃宮のバス停まで歩く。お互い会話は反省だらけだ。

「いや。話を切り出すのに失敗した私が悪いよ」

「まぁお互い足りないことがあったということで。…で、どうしよっか。大野斗亜から話を聞き出すのはもう難しいじゃん」

「それは…どうしたらいいんだろう」

完全に詰んだ状態にため息をつく。

その瞬間。後ろから視線を感じた。

いそいで振り返ったけど、そこには歩いてきた道があるだけ。人は誰一人いなかった。

「どしたの?」

佐々木が私の振り返った先を見ながら不思議そうに尋ねてくる。

「…なんでもない。気のせいかも」

「まぁ今日のところはいいじゃん。犯人見つけるって言って1日しか経ってないんだよ?そんで怪しい奴見つけたんだから。きっとうまくいくって。ほいじゃ私はここで」

佐々木に言われて気が付く。もうバス停だ。

手をふりながら遠くなっていく佐々木の姿を見送ってバス停の椅子に座る。

「きっとうまくいく」佐々木の言葉を頭の中で繰り返して、私はバスを待った。


第7話「嘘つき」終わり















































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る