第6話 バディ
「これが、今まで清川に話してなかったこと。全部」
屋上の柵にもたれ掛かりながら話をしていた佐々木は、姿勢を正して隣にいる私に向き直る。私の知らないところで起こっていた出来事は、平和に生きてきた私にはあまりにも衝撃的で、すぐに佐々木の顔を見ることはできなかった。
私はいつも善意で人助けをするけど、そこまで人に興味がない。
葉山の中等部の頃の事件や、真偽が定かではない噂も聞いた覚えがなかったし、近くにいた佐々木の身近にこんな事があったことさえ察せなかったし知らなかった。
『先輩は人としっかり向き合うことが苦手なんですか』
佐々木の話に出てきた葉山の言葉は、私に向けられているようで仕方がなかった。
ふぅ。と一息ついて。声が出るのを確認する。
「実は…美空ちゃんの話は静ちゃんから聞いてた」
それからたどたどしく言葉を繋いだ。
「静ちゃん、美空ちゃんのことは親友だって言ってた。美空ちゃんの話をする静ちゃんの顔は穏やかで、恋をしていたというより、信頼って言葉が似合う関係だったんだと思う」
「信頼…」
「それに佐々木と同じことを言ってた。美空は自殺なんかじゃないって。誰かに殺されたんだと思うって」
「え、それって本当?」
「うん。ほんと。その話をしている時の目は、なんだか…怖かった。恨みを込めた目。まるで犯人を見つけ出したら、殺してしまいそうな」
「いややめてよ。葉山なら冗談抜きでやりそうだし…」
葉山が人を殺める姿は、何故か容易に想像がつく。
その時、私の頭でひとつの仮説がたった。
「あのさ、これはもしかしたらなんだけど…。静ちゃんは美空ちゃんを殺した犯人を探してるんじゃないのかな?メモ帳の持ち主探しなんて嘘で、本当は持ち主を見つけた先に犯人がいるのかも」
「なるほど…。葉山が美空の事を親友って呼んだのなら、その説はありえるね」
友達との向き合い方。これを真剣に考えていた葉山なら、親友の事件の真相を置いてメモ帳の持ち主探しなんてできないはずだ。
でも、なんで私に頼ったんだろう。葉山なら単独で犯人探しをしそうなのに。
何故わざわざ、接点もない私なんかにお願いをしてきたのだろう。
授業終了の鐘が聞こえる。とりあえず私達はこの話を後にして教室に戻った。
教室に入ると、私達は教卓の前でクラスメイト達に謝罪をした。
いきなり怒鳴り合いの喧嘩をして驚かせたことを謝り、お互い仲直りをしたことを伝えた。この行動に、品のいいお嬢様ばかりのクラスメイト達は私達に拍手を送ってくる。その光景は、なんだか気恥ずかしかった。
放課後になり、騒がしくなった教室で私は佐々木に話の続きをする。
「あのさ佐々木。もし本当に静ちゃんが犯人を探しているのなら、犯人に暴力をふるったりしてしまうかもしれないし…私達が先に見つけた方がいいのかも」
「いや、私が協力すること決定なんかい」
「あ…ごめん。でも佐々木だって、美空ちゃんの死因が自殺じゃないなら犯人を見つけたいって思うでしょ?」
「見つけたいけど…。そんな簡単に見つからないだろうし、第一本当に殺してたらどうするの?犯人に丸腰で、殺しましたよね?って聞きにいくの?」
「それは…また追々考えるとして…」
「はぁ。…まぁ、清川がここまで本気になってるのは初めて見るし、危ないことしないためにも、監視役としてついてくぐらいならいいよ」
「監視役って…」
元の2人に戻った。そんな実感がわいて、不服な言葉にもふふっと笑ってしまう。
こうして私達は、葉山より先に美空を殺した犯人を見つけることを決意し、腐れ縁からバディに進化した。
「それじゃあまず、犯人候補だけど…。だれか怪しい人とかいないの?」
監視役に就任した佐々木が意気揚々と話し始める。
そうだこいつ、ミステリー小説好きだ。実はこうゆうのやってみたかったんだろうな。
「犯人候補か…。メモ帳の持ち主にヒントがあるなら犯人は女の子の可能性が高いかも。メモ帳の柄と文字の癖。あとは、あのメモ帳にサインしたっていう凛子が持ち主は女の子だったって言ってたからね」
「凛子って大野のこと?清川ってアイツと喋るんだ」
「いや、さっきメモ帳に見覚えがあるって向こうから話しかけてくれたの」
「ふーん。じゃあとりあえず犯人は女に絞りたいところだけど…この学校女多すぎ。どっから探すの?」
佐々木の顔が曇る。もっとうまくいくと思っていたらしい。
そりゃ初めに見当がついていたら、私だって1週間聞き込みをする苦労なんてしてないっての。
私は静との数少ない会話にヒントがないか、できる限り思い出してみる。
その時、ある違和感が頭に浮かんだ。
「…男の子」
「え?」
「メモ帳の持ち主は女の子だと思うって私が言ったら、男かもしれないっていう意見を静ちゃんがやけに押してきたの。このメモ帳を見ただけなら、私みたいに女の子かもって思うのに」
「じゃあ葉山は、美空を殺した犯人が男だと思ってるってこと?」
「うん。たぶん。犯人じゃないにしても、何か手掛かりになるキーパーソンなのかも。そこから考えると、まず話を聞かなきゃいけないのは」
「美空の彼氏か」
「うん。その彼氏の…斗亜くんから、話が聞ければ何か有力な情報を得られるかもしれない」
「いやー2人ともー♪元通り仲良くしてくれて私は嬉しいよ」
突然、大野凛子が話に割って入ってきた。
「そんでなになにー?彼氏って聞こえたけど…恋バナ?恋バナしてんの?」
凛子はやけにワクワクしていて目をハートにしていた。
女子特有の恋バナがしたい!ってやつだ。
「え、えっと…」
「私達じゃないよ。友達の話。…あ。そういえばそいつ大野と同じ苗字だな」
凛子の勢いに圧倒された私の代わりに、返答をしてくれた佐々木が何やら思い出した様子で私の顔を見てくる。
「美空の彼氏…大野斗亜って名前だ」
「え!?斗亜!?」
凛子がいつもより低めの大声をあげる。
「あいつ彼女いんの!?」
「えっと…凛子の知り合い?」
「知り合いも何も、従兄弟だよ。私のママのお姉さんの子供。嘘?あいつ彼女とかできなさそうなのに!え、その友達ってまさか桃宮?」
私と佐々木はあまりの急展開にしばらく顔を見合わせてしまったが、同時に頷くと凛子の顔を見てあるお願いをした。
「「お願い。大野斗亜に会わせてほしい」」
第6話「バディ」終わり
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