第18話

           一章


       マリちゃんとただいま


           その①


 「待てやゴルァー!食べる前からグダグダケチばっか付けやがって、屋台だからって舐めてんじゃねーぞヨソモン野郎がぁー!!」


 紫のポニーテールを逆立て公園の隅に弐狼よりも軽薄そうなオシャレな若者を追い詰めたオーガの様なヤンキーがピックを持って躙り寄る。ダンジョンでばったりユニークモンスターと出くわした低レベル冒険者の様に絶望の表情で「ああ…」としか言えない若者を庇い俺が前に出て遮る。


 「ストップ!ストップだ!何があったか知らねーけどそいつを仕舞ってくれよ。絵面が洒落になってねーから!暴れたこ焼きなんて需要無いと思うぞ?」


 「るっせー!関係ねー奴が割り込んでくんな!そいつら買いもせずにアタイがたこ焼き焼いてるのをニヤニヤしながら見てもっと油でギトついて無いと物足りないだの、トッピングが選べ無いだの、挙句の果てにタコの代わりにチーズが入ってた方が美味いとか、もうそんなのたこ焼きじゃねーだろ!こちとら長年コレ一つコダワリが有るんだよ!金さんだか銀さんだか東京なんかにゼッテー負けねーっての!!」


 「わかりましたから止まってくださ〜い!」


 暴走機関車の様にジタバタと暴れるムラサキヤンキーをマリがしがみついて必死に抑え込もうとする。


 「にゃああぁーっ!!て、テメーおっぱい握り締めるんじゃねー!誰にも触らせた事ねーのに…まさかアタイの隠れファンのストーカーかよ!」


 マリを振りほどき両手で胸を抱き締め何故か俺をキッと睨む。ちょっとツリ目で怖いけど基本的にカワイイ顔だ。ファンもいるのか。


 「テメーよくもやったな!他人ひとのおっぱい勝手に触る奴はお仕置きだコラァ!」


 余程恥ずかしかったのか紫のポニーテールを振り乱しヤンキー娘がマリに襲いかかりマリの薄い胸を揉みしだく。普段余り主張しない分握りしめられてボリュームアップしたマリおっぱいのポテンシャルが顕になり妙にエロい。


 「ヒャアああ!な、何するんですか!わたしだって誰にも触らせたコト無いのに!…なんか身長の割にボリューム有りますね!でも負けませんよ、わたしだってまだまだこれからです!」


 テメーこの、このっとヤンキー娘と貧乳幽霊娘のおっぱい揉み合戦に発展し収集が付かなくなってしまった。流石にコレには割って入れ無い。


 「ヒャッハーおっぱい祭りダゼェ!ラッセーラッセー!オラァもっと揺らせー!」


 えっちなのが大好物な色んな意味で狼な弐狼が勝手におっぱいフェスティバルに酔っている。


 お、おいそろそろ止めねーとヤバイって、と何とか二人を収めようとした時、赤色灯を回したパトカーが公園わきに止まり血相を変えた女性警察官が飛び出して来た。


 「ヤベェサツだ!マリちゃん俺の中に隠れろ!なぁに職質には慣れてる。ただの狼の振りしてりゃやり過ごせるって。」


 素早くマリが弐狼に憑依し、アレッと残されたヤンキーガールが狐につままれた様にキョロキョロと辺りを見回す。


 「コラー!アンタ達こんな夜中に何やってんの!今日はもう上がりの筈だったのに余計な騒ぎ起こしてくれちゃって!ただじゃ済まないわよ?」


 猛禽類の様に目つきが鋭いお姉さんが肩を回し指をポキポキ鳴らしてヤンキーガールと俺達、それと腰を抜かして更に高レベルのモンスターが現れ魂が抜け出してる二人の若者を鋭い視線で見渡し、一匹たりとも逃がすつもりは無いと口角を上げる。既に半袖になった制服からは普段から余程鍛えているのか、筋骨隆々の腕が生え俺より少し高い恐らく175cmくらいある身長と相まって凄まじい威圧感で迫って来る。その直後、


 「センパ〜イ置いてか無いで下さいよぉ〜!書類忘れてますよ〜!」


 と甘ったるい声が追いかけて来た。そして俺達の視界に飛び込んで来たのは圧倒的な最早暴力的なボリュームのおっぱいだった。俺は驚愕し呟いた。


 「で、でけぇ…何だよコレ、どうなってやがる!こんなの聞いてねーぞ。全く勝てる気がしねぇ…!」


 ウッヒョォ〜!と❤になった目が飛び出して顎が外れ大きく開いた口から舌と大量のヨダレを垂らして弐狼が4足歩行でおっぱいの主に駆け寄り、オカッパヘアーで幼い顔つきの愛想の良さそうな若いお姉さんが猛禽お姉さんに駆け寄る。制服の胸部は苦しそうにパンパンになっている。凶器とはこのことか。

 

 「ハイッ!質問です!お巡りさんのその制服は特注品ですか?」 


 デリカシーなんて何処かに置き忘れて来た弐狼がいきなり核心に迫る。


 「え、え〜っとそうです。普通サイズだと無理なので特注品です。コレでも最近ちょっとキツくて…制服はまだ良いんですけど私服が困るんですよね。カワイイ服とか見つけても着られないから…も、もう!そんなに見ちゃダメですよ!タイホしちゃいますよ?男の子ってしょうが無いですね。」


 恥ずかしそうに胸を隠そうとするが柔らかそうなおっぱいに腕がめり込み更にえっちな絵面になってしまっていた。


 「ちょっとアンタ!何いきなり風紀を乱してんのよ!男に人気が有るからって銚子のマグロ気取ってんの?

どうせ中身は空気でしょ?どうして先輩のあたしを見習って体を鍛え無いの?盾にはちょうど良いけど。」


 「酷いっ!先輩のなんてガチガチの筋肉おっぱいじゃ無いですか!いつも思いつきで突っ走るから脳筋って言われ…イタタタや、止めてー!職場でのパワハラは御法度ですよ!」


 ギリギリとアイアンクローでおかっぱさんがお仕置きされる。


 ヤンキーガールはおかっぱさんを見つめて


 「アタイだってまだまだ成長の余地は有るから…」


 と悔しそうに俺を見て形の良いおっぱいを持ち上げどうよ?とアピールして来る。弐狼のとは違った金色の刺繍が入った紫のジャージの膨らみに思わず顔が赤くなり、俺はコクリと頷くだけにした。お仕置きを完了した猛禽お姉さんがクルリとこちらに向き直り、


 「とりあえずアンタからね、どうしてこんな事したの?善良なたこ焼き屋のする事じゃ無いわよ。

営業許可取り消しされたいのかしら?」


 ヤンキーガールを問い詰める。まあ、そこだよな。


 「だってよぉ、あの東京モンがアタイのたこ焼きバカにするんだよ。確かにいつものおばちゃんじゃなくて臨時のバイトだけどアタイだってちゃんと社長から認められてんだ、せめて食ってから文句言えっての!東京のなんかに負けらんねーんだよ!面子がかかってんだ!」


 我に返った若者二人はバツが悪そうに目を逸らす。


 「ほうほう、原因はアンタ達なのね。コレは悪質な業務妨害の疑いが有るわねぇ。詳しく聞かせてもらえるかしら?」


 「す、すみませーん!ゴールデンウイークで遊びに来てちょっと調子に乗ってたんです!夜中に屋台やってて覗いたらカワイイ女の子が居たもんでついイタズラしたくなって…は、反省してます!食べないで下さい!」


 「カワイイ…まあそりゃちょっとは自覚あるけど〜?参るな〜アタイの美貌が男を惑わせたのか〜」


 ヤンキーガールの方は頬に手を当ててクネクネして居る。とりあえず機嫌は直ったみたいだ。


 「ところでアンタ!臭うわね。」


 弐狼を指差しクンクンと鼻を鳴らし、ポケットから御札を取り出すと弐狼の額にペタッと貼り付けた。


 「キャー!何ですかー!ヒィービリビリします!取って下さ〜い!」


 弐狼から強制射出させられたマリが顔に御札を貼り付けゴロゴロ転げ回り痺れてピクピクしている。


 「やっぱりもう一匹いたわね。暖かくなると増えるのよねー。あおい、除霊課に連絡して。フフッまた実績が増えたわ。ラッキーね❤」


 「センパ〜イ除霊課はゴールデンウイークでみんなお休みですよ。わたしだって本当は浦安でエンジョイしたかったのに先輩が実績を稼ぐチャンスだとか言って無理矢理…」


 「さ、サツの姐御!待って下せぇ!コイツは悪い奴じゃねーんでさぁ!路頭に迷って成仏出来なくなったのをあっしらが保護したってワケで、凄く良い娘なんで見逃してやっておくんなせぇ!この通りで!」


 弐狼がペコペコと土下座し、マリも御札を貼り付けたまま懇願の瞳でウルウルと猛禽さんを見つめる。


 「俺からもお願いします!この娘は大切な友達なんです。責任持って成仏まで導きます。」


 猛禽お姉さんは俺を上から下までジロジロと眺めて俺の顎に指を当て、


 「まあ今回は見逃してあげるわ。ところでアンタ、警察官に興味は無いかしら?最近若いスタッフが減って困ってるのよ。色々手引きしてあげるわよ?あたしは桜庭さくらば 御門みかど、そっちのが後輩の草苅くさかりあおいよ。あたしはそのうち署長になるから期待して頂戴。」


 「ね〜先輩それより事実確認をしないとイケナイと思うんですけど、たこ焼きの味が本物なのか私達が確かめ無いと。こんなに遅くなって退勤時間とっくに過ぎてるしもうおなかペコペコなんですけど。」


 「それもそうね。あおい、ちょっとソラミーマート行って来て。あたしはストロングのレモンと裂きイカで。ホラ、ダッシュ!」


 「ちょっと先輩!制服で飲酒はマズいですよ!まだ日報も書いて無いですし。ううっまた怒られても知りませんからね…」


 おかっぱさんがコンビニにパシらされ、御札を剥がされたマリと弐狼にお金を渡してコンビニにお使いを頼む。ヤンキーガールの元へ駆け寄り


 「たこ焼き8個入り5パック頼む。2つはお土産で頼むよ。」 


 とたこ焼きを注文する。


 「へっ、やっぱイケメンは分かってるな。たこ一番星のたこ焼きはこの街一番うめーからな!直ぐに焼いてやんよ!あとアタイは跳栗はねくり かえりだよ夜露死苦ゥ!」


 「こっちは12個入り2つね。もうおなかペコペコだわ。こんな深夜に乙女をこき使ってくれて後で文句言ってやるわ!」

 

 腕を組み、ベンチにどっかりと腰をおろしふんぞり返る御門さん。険しかった表情も緩み夜風に長い髪が揺れる。なんだ結構美人さんじゃないか。身長が有るから筋肉質でもスラリとして見える。


 「筋肉じゃ無いわよ?確かめてみる?」


俺の視線に気付いた御門さんが妖しく笑い、それなりにボリュームがあるおっぱいを揺らす。


 「い、いえ迷惑防止条例違反で捕まりたくないんで!年下をからかわないで下さいよ…」


 「アンタなら捕獲してウチで飼ってあげてもいいわよ?未経験者歓迎だから❤」


 二人組の若者がポリポリと頭を掻きながら環ちゃんに


 「姐さんすみませんでした。俺達の分も焼いて貰えないですか?あ、あとカワイイってのはマジなんで!東京戻ったら自慢しますよ!」


 「分かったから!何度も言うんじゃねーよ!自慢するならたこ焼きの味で頼むぜ!」


 顔を真っ赤にして自慢のポニーテールの先をイジリながらたこ焼きをひっくり返して行く。慣れた手捌きだな、味は期待出来そうだ。


 マリと弐狼がドリンクを買って戻って来る。葵さんがその後を激しくおっぱいを揺さぶりハアハアと追い掛けて道行く人達の視線を独り占めにしていた。


 「ヘイ!たこ焼きお待ちぃ〜!あっち〜からヤケドすんなヨ?」


 環ちゃんからアツアツのたこ焼きを受け取りベンチで待つ弐狼とマリに渡す。少し大き目のたこ焼きにハケでたこ一番星特製のソースがまんべんなく塗られ、マヨネーズが格子状に掛けられ青海苔、鰹節がたっぷりと乗り隅っこに紅生姜がちょこんと添えられる。オーソドックスなまさにコレぞたこ焼きだった。隣からあおいさんが、


 「あ、熱っ!特製ソースが甘めなのに新鮮な酸味も有って濃厚で美味しいです〜。タコも大きくてプリプリでタコの味がしっかり感じられますね〜、お出汁が効いてて旨味がふわ〜っとひろがりまくりんぐです。

もうすぐ退勤なのに出動って言われた時はがっかりしたけど今日はラッキーでしたね、先輩!」


 「な〜に言ってんの、あいつ等家族がどうとか言って自分が行きたく無いだけなのよ!上手く使われて喜んでんじゃ無いわよ。コレが飲まずにやってられるかっての!見てなさいよ、署長になったらあいつ等奴隷として朝から深夜までブッ通しでこき使って泣いたり笑ったり出来なくしてやるわ!」


 店を畳みそろそろ帰り支度を始めた環ちゃんに


 「ごっそさん!たこ焼きマジ美味かったよ。お土産親父と母さんも喜ぶと思うぜ。また来るから夜露死苦!」


 「おう!夜露死苦頼むぜ!アタイのバイトはゴールデンウイークだけだけどな。オマエラとはまたどっかでちょくちょく会う気がするぜ。アディオス!」

 

 環ちゃんにサムズアップして、公園で呑んだくれるお巡りさんに手を振り二人の東京組に別れを告げ家路に付く。今日はマリも家でお泊まりだ。幽霊の体は汚れ無いと言ってたけどやっぱりちゃんと風呂に浸かって柔らかい布団でグッスリ寝かせてやりたい。


 駅前の一際デカいマンションの前で弐狼が仁王立ちでふんぞり返り、


 「どーよここが俺の城だぜ〜!しかも最上階だ!もうみんな寝てるからコッソリ帰んねーとな。太助ぇ〜、オマエマリちゃんにえっちな事すんなよ!

俺のウルフクローがだまってねーからな」


 ウルフクローに文句を言われる様な事をするつもりは無いが二人きりになると急に意識してしまう。マリが頬に人差し指を当てて


 「は〜弐狼さんお金持ちだったんですね〜。でもなんでいつも集ってばかりなんですか?」


 「あいつの家じゃ金が欲しけりゃ自分で稼ぐ、が家訓だからな。でも結構家族が甘くて、会社やってる兄貴からも小遣いせびってるからそれなりに収入有る筈なんだがアイツ計画性とか全然無くてすぐ衝動買いするからなあ。」


 「何だかその光景が目に浮かびますねー。でも弐狼さんらしくてなんかカワイイかも。」


 明かりがまばらになった夜の商店街をマリと並んで歩く。


 「そう言えば太助さんわたしの事「大切な友達」って言ってくれましたよね。わたし凄く嬉しいです。弐狼さんも必死に庇ってくれて…わたし今凄く幸せです!出逢いに感謝してます。」


 弐狼の奴は庇いながらマリのパンツ見てたのは黙って置こう。


 「まあ、それは俺も同じかな。ダラダラ過ごしてたゴールデンウイークが不思議発見だらけの賑やかな毎日になったからな。マリのおかげだな。」


 マリが「エヘヘ〜」と言いながら俺の肩に抱きついて来る。人の温もりが欲しいのかな。腕におっぱいが当たってるんですがマリさん。するとマリが頬を赤らめて


 「当ててるんですよ?わたしだってBは有りますから!サイズは乙女のヒミツです。太助さんなら直接確かめても良いですよ?」


 「いや、いいから!弐狼のウルフクローに小一時間説教されちまうから!女の子がそんなに簡単に男におっぱい揉ませちゃ駄目だから!」


 「む〜っ」と言うと更にマリが強く抱きついて来た。止めてくれよ、DTはすぐ勘違いする生き物なんだから。


 ダッコちゃん状態で家に着くと母さんが


 「遅いっ!何時まで女の子連れ回してんの!ってアラアラお二人さんそ〜ゆ〜コト❤悪かったわね、ごゆっくり。あ、マリちゃんお部屋は二階の客間使ってね〜。パジャマと着替えとお布団は新品買って来たから。何ならずっとこの家に居なさいよ。グンナ〜イ!」


 二の腕に貼り付くマリを見て完全に勘違いした母さんが言いたい事言ってそそくさと引っ込んで行った。

俺はコバンザメの様にマリをくっ付けたままリビングに向かい、一人テレビを見ながら晩酌する親父にまだ熱いたこ焼きを渡す。親父は目を細めてまた小遣いをくれた。


 二階に上がり客間に行くとドアに〝マリちゃん〟と書かれた紙が貼ってあった。中には新品の羽毛布団とパジャマと下着が置いてある。俺は無表情でドアをパタンと閉めてマリを自分の部屋に案内する。


 「わ〜太助さんのお部屋です〜!男の子の友達の部屋なんて初めてです。なんかテレビとかゲーム機がいっぱい有りますね。レトロゲームですね。本棚には小説がいっぱいです。太助さんのお城なんですね。お招き有難うございます!」


 「俺はいわゆる陰キャだからな。女の子が喜ぶオシャレルームとは程遠くて済まないっておい、楽しいか?」


「凄いですよ!お宝だらけじゃ無いですか!この棚のシリーズアニメ化作品が多いです。こっちにはわたしが知らない作品がいっぱいありますね。この作者さんこんなの書いてたんだ…。ゲームも凄いですよ、なかなか買えないレジェンドが目の前に…どうやって集めたんですかっ?」


 キラキラと目を輝かせてマリが俺に迫る。


「自分で買ったのも有るけどレトロは殆どゲーマーだった親父のお下がりだよ。一人でやり込むタイプが多いから重宝してるな。やりたいなら風呂入った後でな。しっかりリラックスして来いよ。入浴剤好きなの使って良いから。」


 名残惜しそうにするマリを浴室へ送り出し俺は再度部屋を点検する。弐狼程じゃ無いが俺だって年頃の男子だ。女の子に見られたく無い物の一つや二つは有る。別に不自然な事じゃ無い、健康な証拠だ。ああ、そうだとも。


 自分の部屋なのに何とも落ち着かない感じでそわそわしているとガチャリとドアが開きシットリとしたパジャマ姿のマリが戻って来た。


 「いや〜久しぶりにお風呂につかると色んなものが抜けていきますね〜。幽霊は汚れない筈なのに俗世の穢れって言うのか悪い物が洗い流された気がします。危うくそのまま成仏しちゃうかと思いました〜。」


 ホカホカマリちゃんにレトロゲームの遊び方を教えて俺もシャワーを浴びに浴室に入る。おっと、服は洗濯しとくか、とドラム式の洗濯乾燥機の蓋を開けると先客が。マリちゃんの服だった。パンツと控えめサイズのブラジャーも有る。見なかった事にしようと蓋を閉じようとした瞬間ガチャッとドアが開き、マリが真っ赤な顔で飛び込んで来た。


 「あああああのっ!み、見ました?見ましたよね?

うわ〜ん恥ずかしいよぉ〜!わたしのバカ!バカバカ!ごめんなさいお見苦しい物を晒してしまい申し訳無いです〜!うぅ…死にたい。」


 「ちょっとだけだから!すまん、幽霊だって服ぐらい洗うよな。俺が悪かった、ホラ、マリちゃんはもう死んでるから大丈夫だ。後ろ向いてるから服持ってけよ。部屋でゲームでもして待っててくれ。後でジュース持ってくから。」


 のろのろと恥ずかしそうに服を回収して、しくしくと項垂れ幽霊っぽく廊下に出ていく。


 脳裏に焼き付く白い布の煩悩をシャワーで洗い流して冷蔵庫からペットボトルのオレンジジュースをグラスに注ぎお盆に乗せ、部屋に戻る。マリは今季アニメの小説に読み耽っていた。


 マリにジュースを渡すと喉が乾いていたのか、ぐいーっと一気に飲み干して、


 「さあ太助さん!このゲーム一緒にやりましょう!

協力プレイもたまには良いと思います。二人でクリアすればステキなエンディングが見れると評判ですよ。」


 満面の笑みでぐいっと両手で差し出すマリに


「コイツはちょっと手強いぞ覚悟しろよ?」


 ゲームをスロットに差してスイッチを入れる。


 真夜中の女の子との協力プレイ。クリアしてマリとハイタッチして客間に送った時は空が白み始めていた。なんかいつにも増して刺激的な日だったなあ。

今俺の家一つ屋根の下でマリが寝てるんだよな。


 ああ、もう恥ずかしくなって来た。いくら事情があるとは言え年頃の女の子自宅に連れ込んでお泊まりさせるとかまるでリア充じゃねーか!


 でも本人がめっちゃ喜んでるし良いよな。

うん、俺は何も悪い事はして無い。筈だ。


 正当化する事に成功した俺は今日も健やかに眠りに落ちていった。




 




 


 


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る