第19話

           一章


        マリちゃんとただいま


           その②


 「…すけさん、太助さん、起きて下さ〜い!もうお昼ですよ。お天道様が生温い笑顔で見てますよ。」


 暑くも無く寒くも無い、一年で最も過ごしやすい惰眠を貪り捲れるステキな季節。誰だよ俺の贅沢な時間を邪魔する無粋な奴は。また母さんかよ。


 「太助さん、お腹空きませんか〜?一緒にご飯食べましょうよ。もう!お寝坊さんは目覚めのチューで覚醒させちゃいますよ〜!エイっ!」


 んん?ほっぺたに柔らかいシットリした感触が。やめろよ母さん、良い年して。手伝いならあとでやるよ、もう少し…


 「結構しぶといですね。だったらマリちゃん添い寝しちゃいます。クンクン、ああ太助さんの匂い…お休みなさい。」


 なんか柔らかいのが布団に入って来た。コレは夢か?妙に触り心地良いな。極上の抱き枕だ。母さん気が効くじゃないか。どこで買って来たんだろう、この辺とか特に…ムニムニ


 「ひゃっ!?た、太助さん!いきなりですか?あっ、なんかフトモモに固くてアツいのが…まだ心と身体のアイドリングが済んで無いです!乙女ハートがオーバーレブしちゃいます!でもどうしてもって言うならブロー覚悟でお任せコースオッケーです。…優しくお願いします…」


 なんか良く喋る抱き枕だな。睡眠学習機能が付いてるのか。俺のチタン製シフトノブにスベスベした物が当たっている。特になんかこの手に吸い付く丸っこい部分がバツグンでずっと揉んでいたくなる。


 「ああっ、そんなに強くしたら取れちゃいます!ソコは脱着式じゃ無いです!座れなくなっちゃう!コレ以上は今のわたしじゃ無理です!起きて下さ〜い!!」


 枕をすっぽ抜かれバフバフと顔を叩かれ微睡みの世界から強制退場させられて目蓋を開ける。


 おお!女の子の顔が目の前に!コレは夢の続きか?うん、そうだな。俺の部屋に生身の女の子などいる訳無いし。さてもう一度夢の世界に…


 「待って下さい!そっちはダメですよ!わたしを置いてかないで下さい!戻って来てぇ〜!」


 ペチペチとほっぺたを叩かれ現実世界に戻りはっ、と目を開けるとここ毎日見知った顔が。なぜマリがココに?また夢か。そう言えば幽霊は枕元に立つ習性が有ったっけ。明るいうちからご苦労さん。さて、寝るとしよう…


 「させませんよ!現実世界のわたしがココに居ます!現実を直視して未来に進んで下さい!」


 現実世界のマリだと?あーあー、そうだったわ。

なんか頭がハッキリして来た。昨日家に連れ込んで

明け方までゲームしたんだっけ。やるじゃねーか陰キャの俺の癖に。おめでとう。じゃねぇー!!


 今度こそパチッと目を覚ますと、真っ赤な顔で俺にオシリを揉まれながらなぜか口を尖らせ迫るマリが俺のベッドで添い寝している。


 「おはようございますマリさん。チュンチュンは居ないけど今日も良い天気ですね。ところで何をなさっておられるのですか?」


 チューを阻止され残念そうにむーっとするマリに恐る恐る尋ねてみる。


 ヤベェ、お尻ガッツリ揉み捲くってしまった…。


 「太助さん結構えっちなんですね…。揉み方に職人の技を感じました。お尻の部分だけ血行が良くなったじゃないですか!それよりもうお昼ですよ!太助さんのお母さんがご飯作ったから太助さん起こして一緒に食べてって言って、お父さんと出掛けちゃいましたよ?あと、弐狼さんが下で太助さんのご飯狙ってます。」


 あの卑しいケダモノめ!畜生、意識したら急に腹が減って来た。正座して俺の着替えを見届けようとするマリを追い出し、下で待っててくれと促して素早くいつものTシャツとジーンズに着替える。階段を降りてリビングの扉を開けると弐狼が我が家の様にくつろぎ、キッチンのマリに弐狼と書かれたスープカップを渡しおかわりをしている。どうやらメインディッシュは無事な様だ。


 「遅せーぞ12時回っちまうだろ!待ち切れ無くてもう食っちゃったぜ。マリちゃんの野菜スープがマジうめーんだよ!もう少し遅かったら俺が全部食ってたトコだぜ?」


 「オマエ他人ひとの家でガツガツと…おかわりはそっと出せよ。」


 弐狼と対面の席の椅子を引き腰を下ろす。我が家の定番ハムが3枚、卵が3個のデラックスハムエッグ。それにトーストとサラダがいつもの組み合わせなのだが、今日は野菜スープらしい。


 「ハイッ、ど〜ぞ!お腹温まりますよ〜。野菜スープはわたしが作りました。トースト今焼いてるんでちょっと待ってて下さいね。」


 「マリちゃんおかわり!やべーよコレ。無限野菜スープとか初めてだぜ!」


 弐狼がスープカップをシュバッとマリに差し出す。我が家にはなぜかコイツ用の食器がある。遊びに来ては必ず飯を食って帰る弐狼に母さんが用意した物だ。


 マリがトーストをテーブルに並べてエプロンを外し俺の隣に座る。何気無い日常の仕草にドキッとする。


 女の子の友達っていいなあ。


 高校時代にも女の子の友人は居たし、今だって大学に女の子の知り合いは居る。でもこんな風に距離が近い娘は初めてで、しかも我が家で食事のお世話をしてくれる日が来ようとは。


 「待っててくれたんですね。有難うございます!

昨日あんなに食べたのにもうお腹ペコペコなんて不思議ですよね〜。お家に居た頃はハムエッグトーストを色々アレンジして食べてました。」


 トーストに苺ジャムを塗りたくりバリバリ食べている弐狼の前でマリと並んでいただきますをして、マリが作ってくれたスープを啜る。


 「冷蔵庫に有った野菜で作ってみたんですけどお口に合いますか?コンソメベースのマリちゃんスペシャルです。」


 上目遣いに俺の反応を伺いじっと見つめて来る。


 「マリ、料理上手いんだな。こんな美味い野菜スープ初めてだよ。自称肉食獣の弐狼がおかわりしまくってるしすげーと思うわ。野菜が食べやすい大きさで、形がちゃんと残ってるのに柔らかくて口の中でとろけるのが癖になるな。一味違うコンソメスープも優しい味で全体的に丁寧に作られてるのが分かるよ。家庭的なのにホテルの朝食食べてるみたいだ。」


 「エヘヘ〜やりました!星はいくつ貰えますか?」


 「デメニギス座流星群てとこかな。こんなの毎日食べられるマリの家族は幸せだったんだな」


 「お父さんいつもわたしは幸せだ〜ってバクバク食べてくれてました。太助さんのお口にも合ったみたいで良かったです!」


 満面の笑みで妙に熱の籠もった視線が男心を鷲掴みにしてガクガク揺さぶる。コイツわざとやって無いか?


 「さ、冷めてしまうからさっさと食べようぜ。いつもの母さんのハムエッグもご馳走に思えるな。」


 ハムエッグにウスターソースをかけてトーストにマーガリンを塗りたくる。我が家にはトーストに使うバターなどは無い。高いから。


 マリも俺と同じ様にハムエッグにソースをかけ、トーストにマーガリンをたっぷり塗っている。育ちの良い子にジャンクな食べ方を教え込んでるみたいで気が引けるが、間違っちゃいないしまあ良いか。


 結局俺も野菜スープを2杯おかわりして、腹が一杯になった弐狼とソファーで「一宿一飯の御礼です。」と後片付けをしてくれるマリのエプロン姿を眺め


 「なあなあ太助、コレもう奇跡じゃね?でも何でオマエの家なんだよ?俺の家の方が相応しいのに!」


 「オマエなあ…女の子が狼さんの家にお泊まりする訳ねーだろ!欲望に忠実過ぎるんだよ!」


 「それについては俺のウルフクローがオマエに話が有るそうだ。やってくれるじゃねーか陰キャ君よぉー、マリちゃんから全部聞いたぜ?なんでマリちゃん嬉しそうに話すんだよ、テメー許さねぇ!」


 「わざとじゃねーから!全部ただの偶然なんだ、きっとイタズラな初夏の妖精さんの仕業なんだよ。全くアイツラには困ったもんだ。オマエなら分かるよな?」


 「わりーけど俺の頭じゃこれっぽっちもわかんねーぞ!いちいち難しい事言ってんじゃねーよ!コレでも食らいやがれ裏切り者め!」


 しまった、コイツバカだった。でもそんな難しい事言って無い筈なんだが。弐狼のウルフクローが眼前に迫ると変な声が聞こえて来た。


 「やい太助!オマエはいつも透かした態度で美味しいトコ持ってって今日と言う今日はアチキが許さないぞ!バカ兄にも少しはお溢れ寄越すのだ!イケメン気取りで紳士ぶっててもスケベなのはアチキがお見通しなのだ。マリちゃんにオマエのお宝の隠し場所チクられたくなかったらバカ兄に女の子を…」


 コイツモテなさ過ぎてとうとう…可愛そうな生き物にランクダウンした弐狼を哀しい目で見つめると


 「おい!そんな目で俺を見るなぁ!時々俺の中の狼が俺に話しかけて来るんだよ!前から言ってるだろ?

なんかもう妹みたいになって来て最近うるせーんだよ。」


 バタバタと大袈裟に否定する。エア妹じゃ無いのか?洗い物を済ませたマリが興味津々でウルフクローに話しかけ、


 「妹さんだったんですか。弐狼さんの住心地は良いですか?栄養足りてますか?ところで太助さんのお宝の隠し場所を詳しくお願いします.。トレジャーハンターマリの血が騒ぎます!」


 「バカ兄が食べればアチキの栄養にもなるから心配要らないのだ。太助のお宝は押入れの奥の奴はフェイクなのだ。本物は机の一番下の引き出しの奥のトレーの下…沢山食べたら眠くなったのだ。マリちゃんご馳走様でしたーなのだ。…お休みなさい…」


 コイツ!余計な個人情報をベラベラと!デリカシーの無さは流石弐狼の妹だな!誰にも見られて無い筈なのに。だが甘いな、真のお宝は別の場所に移動済だ。母さんに漁られたからな。イチイチ感想書いた紙添えて机の上に並べ無くていいのに。


 満腹になって食後の睡魔に敗北したウルフクローこと弐狼妹はバカ兄の深淵に沈んで行った。


 ただの右手に戻った弐狼のウルフクローをマリが優しく見つめて


 「家族ってやっぱり良いですよね…うん、やっぱり帰らなくちゃ。太助さん、わたし心の整理がやっと出来ました。わたし、お家に帰りたいです!お父さんとお母さんに会わせる顔が無くてずっと悩んでたんですけど、ちゃんと謝らないといけませんよね。わたしのお家に送って貰えますか?太助さんと弐狼さんをわたしの両親に紹介したいです。ささやかながらお世話になったお礼もしたいと思います。」


 「やったぜ!とうとうマリちゃんの実家拝見かよ。

お礼はご馳走が良いよな。モチ、マリちゃんの手料理で頼むぜ!スペシャリテ食わせてくれよ!」


 お礼と言われてもなあ。ここ数日を振り返ると


 「友達になって遊び呆けてただけな気がするんだがマリのスペシャリテは気になるな。」


 マリはふ〜む、と額に人差し指を当てて、


 「マリカレー…?やっぱりマリからですかね?欠食気味のクラスメイトのいじめっ娘を泣かせた実績が有ります。イジワルばかりして来るのでうるさい口に唐揚げ突っ込んであげたら急に泣き出して、訳を聞いたら母子家庭でお母さんが料理出来ない人だったんです。殆どコンビニで済ませてたらしくて、その後わたしが料理を教えてあげたらすっかり顔色と性格が良くなりました。」


 唐揚げってまさか真っ赤に焼けた石炭の事じゃ無いよな…マリに限ってそんな事は無い筈だ。料理ってのも戦闘訓練では無い…と思う。


 「さてと、それじゃもう一仕事お掃除もしちゃいますね。ついでにお洗濯も済ませてー、最後は太助さんのお部屋を隅々まで念入りにしっかりキレイにして…」


 待てコラ!トレジャーハントする気満々だな!

アレは流石にマズい。女の子には絶対見られたくない。何よりゴールデンウイーク前に買って後でゆっくり楽しむ為に封印ビニールも剥がして無いのに!

他人ひとに剥がされたお宝なんて只の薄い本じゃないか。お宝が当たりなのかハズレなのか判らないシュレディンガーのビニール状態の時が最も期待値が高くて、ソレをゴクリと唾を飲み込みながら優しくゆっくり剥がして行く紳士の愉しみ。しかし女子に発見されれば「汚物は消毒です〜」と無惨に焚き火の燃料に変わり果てるだろう。


 マリがすっくと立ち上がり掃除機をかけ始める。

弐狼が顔を寄せて小声で、

 

 「オイ太助!今回のはどんなのだよ?俺も目利きにゃ自信は有るけどオマエは少数精鋭でじっくり選ぶタイプだからな。オマエのチョイスには一目置いてる。今ならマリちゃん家事に夢中だし、妹もオネムだ。

なあ、俺にだけ見せてくれよ、親友だろ?ちょっとだけで良いから!今度俺の取って置き秘蔵のお宝見せてやるから、な?な?」


 「オマエは何を言ってるんだ?そんな物は無いぞ。夢でも見たんだろう。さあ初夏の妖精さんとキャッキャウフフして来い。眠くな〜る眠くな〜る。」


 こんな時の為に用意して置いた糸付きの5円玉で弐狼を夢の国へ送って俺はそ〜っと自室へ戻る。机の引き出しの二重底からゴールデンウイークのお楽しみに取って置いたお宝を、密かにDIYして置いた本棚の一番下のスペースの板を外して薄いお宝を滑り込ませる。

ふう、コレでひと安心だ。まさか母さんも弐狼もこんな加工がしてあるとは思うまい。額の汗をぬぐったところで背後に気配を感じてバッと振り返ると、

閉め忘れたドアの隙間からマリが幽霊の様にこちらを覗いて「家政婦は見た!」とばかりに驚愕していた。

しまった!コッソリ覗くのも幽霊の習性だった。


 「妹それともお姉さん、どっちの足で踏まれたい?」「男心をくすぐる最新ストッキング最前線!パンツもあるよ」


 ガッツリ表紙を見ちゃったマリがフムフムと言った感じで読み上げ勝手に納得している。


 ああ、今一番見られたく無い娘に思い切りバレてしまった…死にたい。


 「未開封ですね。フィギュアが好きなわたしのおじいちゃんもわたしが子供の頃箱を開けようとしたらめっちゃ怒られました。でもコレじゃ中身が全く判らないです。このままじゃ最新ストッキングがどんなのか気になって成仏出来ません!一緒に確認しましょう、是非!!」


 好奇心が嫌悪感をどこかに跳ね飛ばしてしまったのか、マリが開封を迫りグイグイ来る。俺はもうどうにでもなぁれ❤と


 「見ちゃった後で後悔するなよ?あとココで見たものは口外禁止だからな?」


 キラキラした目で少しづつ開封されて行くお宝を見守るマリに俺は今何をしてるんだろう、と素朴な疑問と罪悪感に責め立てられながらビニールを剥ぎ取り表紙をめくる。いきなり生足で下着姿のナイスバディのお姉さんが目に飛び込んで来た。足長っ!

しかもムチムチでフトモモのボリュームが凄い!

おお、一発目からコレかよ!マリが興奮気味で


 「こういう本初めて見ましたけど、迫力が凄いですね!フトモモ…わたしでは到底太刀打ち出来ない世界です…」


 自分のフトモモを悲しそうに見下ろし俺を見つめて来る。


 「ま、マリのフトモモだってすらっとしててキレイだから。次、行こうぜ!」


 焦りながら更にページを捲って行くと色んなポーズで生足だったりストッキングだったりでムチムチお姉さんのサービスが続き、そしてとうとう全裸のお姉さんが。


 「ヒャー!覚悟はしてましたが目がチカチカします!でもコレからがお宝の本来のスペック…本当の太助さんを知る為にきちんと見届け無いと!えっちな気分じゃ無いですヨ?ええ、そうですとも!ハアハア…えっちだぁ…」


 初めての薄い本を堪能しまくるマリを生温かい目で見つめ、本来このくらいの年齢なら男女問わずこういう本は見た事有る奴が多い筈なのに、やっぱり箱入りなのかと思う。


 「これが最新ストッキング…あんまり変わんないですね?が、ガーターベルト…なんでパンツ履かないんですか?裸ストッキングとか訳分かんないです…」


 「コレはほら、男性向けだから。強いて言うならロマン、てとこかな。」


 「パンツも有りますけどラインナップが中途半端です。このパンツなんで真ん中割れてるんですか?」


 「実用性とやっぱりロマンなんだよ。夢が有った方が捗るからな、色んな意味で。」


 パタンとお宝を閉じると


 「ありがとうございました。大変勉強になりました…」


 お宝を本棚の下の格納庫に丁寧に仕舞い、マリが手を合わせる。いや、そこまでしなくて良いから。もうバレちゃったし。


 「それじゃ太助さん、ベッドにうつ伏せになって貰えますか?」


 何をする気なのかと言われるままに寝転がる。


 「それじゃ失礼します。最初は軽く、エイッエイッ!

この辺とかどうですか?」


 マリが背中に乗っかり生足でフミフミする。

幽霊ならではの絶妙な力加減…これは良い…足フェチならずともウットリする事請け合いだ。


 「うっ!良いぞ…もっと下、ああそこだ。もっと強く!オゴォ〜!かかとでこう、グリグリしてくれ…

ああたまんね〜わ。マリはマッサージの才能有るぞ」


 「太助さんは本当に足が好きなんですね…でもわたしちゃんと受け入れます!お友達ですから!」


 「あぁ〜っ!!太助テメーマリちゃんに何やらせてんだコラァー!マリちゃん、そんな奴にそこまでサービスしなくて良いぜ!太助にやるなら俺にもプリーズだぜ!さあマリちゃん思い切り踏んでくれ!太助の奴より倍以上グリグリしてくれよ!」


 夢の国から帰還した弐狼が駄々っ子の様に大の字に床に寝そべりマリ院長の施術を乞う。


 このバカ裏表逆だろ!と弐狼をリバーシしようとしたが


 「分かりました。強めがお好みですね。え〜いっ!」


 マリが容赦無く弐狼の股間を踏みつけグシャッと何がが潰れたイヤな音が響いた。


 「アァーーーッ!!ま、マリちゃん先生ストップ!

そこじゃ無いのぉーー!!」


 「えっ?ソコをもっと強くですか?分かりました!もう、弐狼さんは欲張りですね〜。じゃあサービスしちゃいますね❤」


 ニコニコしながら更にトドメを刺す様に踵でグリグリ踏みにじる。


 「ギャアアアーーー!!!」


 弐狼は断末魔の雄叫びを上げて再び夢の国へと旅立った。俺も思わず涙目で股間を押さえる。泡を吹いて悶絶した弐狼を見つめてマリは


 「眠っちゃう程気持ち良かったですか?わたし力加減とか良く分からないから思い切りやってみて良かったです❤」


 女の子にはこの痛みは永遠に分からないから仕方無いのかも知れないが、マリの天国行きはどんどん遠ざかっている気がする。まあコイツの事だ、目が覚めたら忘れている事を祈ろう。


 「おお、なんか肩が軽くなったわ。背筋もシャキッとしてスッキリ感があるな。マリ先生は名医だな。無免許だけど。」


 「わたしのは趣味みたいな物なんでお代は結構です。

でもあのお医者さんって無免許よりボッタクリで検挙されそうですね。」


 快調になったお礼にマリ先生に机の引き出しからアメちゃんを取り出して渡す。


 「じゃあ弐狼が起きたら出発するか。確か中央区の住宅街だったよな?」


 「ハイです!多分あの辺はあまり変わって無いと思うのでナビは任せて下さい。ああ、自宅に帰るだけなのに大冒険に出発する勇者の気分でワクワクドキドキします!お母さん怒らないかなぁ。なんだか自分のお家が魔王城みたいに思えて来ました…。」


 まあ大丈夫だろう。どんな形でも我が子が戻って来て喜ばない親は居ないからな。こんなマリを育てたんだからきっと素敵な親御さんなんだろう。


 素敵な家族に囲まれながらすっかり奔放に育ち過ぎた親友はいまだ気持ち悪い笑顔で眠り続けていた。


 


 


 



 




 






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