第15話

          一章


       マリちゃんとドライブ


          その⑧


 「太助〜!コイツアップデートしてるぜ!すげーんだよ、ココ最近の新型スーパーカーが全部入ってやがる!なあ、みんなでバトルしようぜ?お願い聞いてくれなきゃひっくり返って」


 「良いぜ。ただしノーマル車で新型縛りな。」


 遠慮と言う感覚を装備しないポンコツを制し、暴れ出す前に俺はドライブゲームのデモ画面を確認する。

 確かに凄いな。新装備のパーツまで有る。う〜ん、

カーボンエアロは高いな。チタンコンロッドってどれだけ効果あるんだ?おっと今日はデフォルトプレイだったな。


 〝C1レーサーズアナザーエピソード湾岸アタッカー〟


 東京の首都高を舞台にしたバトルレーシングゲーム。バージョンアップを繰り返しマシンやパーツがどんどん追加され、コースも拡張されてプレイヤーを飽きさせない人気作だ。プレイヤーカードを購入してスロットに挿せばプレイで貯めたポイントでカスタムも出来る。エンジンの吹け上がりが良くなったり、車体の安定感が良くなったりと、マニアックだが進化が感じられるゲーム性が受けロングセラーとなっている。 


 他人ひとの金でやる気満々な弐狼が早速シートに座り新型マシンを物色する。仕方なくコインを渡し俺も着座した。ワクワクしながら後ろで見守り態勢のマリに


 「一緒にやろうぜ。車の運転は出来るだろ?」


 と誘う。


 「オートマ免許ですが大丈夫ですか?怖いお巡りさんが猛スピードで追いかけて来たら泣いちゃいます。」


 「このゲームには怖いお巡りさんは居ないから安心しろよ。開発者はパトカー入れる気満々だったらしいけど、免許がヤバい走り屋のスタッフが猛反対してボツになったと聞くが。最近のスーパーカーはみんなオートマだからリアルでも乗れちゃうぜ?」  


 「エヘヘ、じゃあマリちゃん参戦しちゃいま〜す。

ああっ!弐狼さんさり気なくパンツ覗き込まないで下さい!」


 短いスカートの裾を抑えてマリが俺の隣に座る。センターコンソールなんて物は無いのでスラリと伸びた白い足が丸見えになる。ムチムチじゃ無いが女の子らしい柔らかな曲線が美しい。俺の視線に気付いたマリが

 

 「もっと角度変えた方が良いですか?靴とか脱いで足の裏少し見える感じがお好みですか?沢山ご馳走になっちゃったから太助さんならもっとサービスしても…」


 「あ、イヤ違う!そうじゃなくて!」


 「違うんですか?」


   違う様な、違わない様な。でもなんか慣れてる感じ有るな。モデルでもやってたんだろうか。ちょっと残念そうにじっと見つめて来る。


 「ほら、あんまり無防備だと狼さんにむしゃぶり付かれるぞ。デメニギスちゃん横に置いとけよ。」

 

 目を三日月にして鼻の下を伸ばし今にも飛び掛からんとするケダモノを遮る様に、戦利品をフトモモガードにしてコインをマリに渡す。みんなで一斉にコインを入れマシンセレクトに入った。俺はフェラーリ296gts、弐狼はランボルギーニウラカンsto、マリはと言うと


 「う〜ん、どの子が良いかな〜。あ、この子ヌルヌルしててカワイイかも。よ〜しキミに決めた!ポチッとな。」


 「お、おい!それは…」


 マリがチョイスしたのはアラブの魔獣こと

    〝デヴェル・シックスティーン〟

 ドバイのちょっと頭がアレなスーパーカーマニアがついうっかり「ハイパーカー作ってみた。負けるのが嫌なので最強にしてみた。」と、かれこれ10年程前に突然発表した空前のモンスターマシン。12.3リッターと言う耳を疑う排気量の16気筒クアッドターボのエンジンから5000馬力を叩き出すと言う。全幅は2.4メートルにも及びC1では追い越しもままならない。

 エイの様なボディの後端の中央にジェットエンジンのノズルの様なマフラーエンドが覗く。ゲームに登場するのは3000馬力の公道バージョンらしいがバケモノには変わり無い。ちなみにこの日本でも売る気満々らしい。金持ちだらけの西地区のセレブ様ならサクッと買いそうだが、東地区の庶民には実物を見ても幻としか思えないだろう。


 C1内回りコース浜崎橋ジャンクション、カウントダウンが始まりマリが勇ましい顔で


 「負け無いですよ~!デヴェルちゃんのパワーが有ればわたしだってトップ狙っちゃいます!地上が似合わないスタイルなのが気になりますけど。」


 と宣戦布告して来る。弐狼がニヤリと笑い


 「舐めてもらっちゃ困るぜマリちゃん!俺はもう何十回も走ってんだ、マシンが違っても目を瞑ってても走れるんだよ!」


 舐めてるのはオマエだろ。どう動くか分からないライバルにランダムなモブカーが居るのにあっという間にクラッシュするだろ。


 「ほら始まるぞ。GO!」


 掛け声をかけたとたんマリのデヴェルがロケットスタートをかまし、あっという間に汐留のトンネルに吸い込まれ壁にヒットした。


 「キャー!なんですかコレぇ〜!全然ブレーキ効きません!ハンドル切っても曲がらないです〜!」


 壁にゴリゴリ擦り火花がトンネルの壁を照らしマリがスローダウンする。その横を俺の296と弐狼のウラカンがすり抜けコーナリングからフルスロットルをかます。う〜んやっぱり良く出来てるなあ。テールライトが流れる演出はちょっと過剰かも知れないけどキレイだし、トンネル部分のエキゾーストの反響なんかも場所によって微妙に音が変化するしヘッドライトの灯りもマシンごとに照らし方も違う。雨天コンディションの時も光が反射して見えづらくなったりグリップが変化したりで面白いんだよな。染み染みとゲームに浸りながらトップを爆走して居ると、最下位に堕ちたマリがワタワタと、


 「早く追い付かなきゃ。えっとえっと、こういう時はコレです!行っけぇ~!」


 ニトロボタンを押し、すさまじい速度で俺達を追い越し銀座地下の支柱にマトモに突っ込みクラッシュした。このゲームには最下位に堕ちた時一回だけニトロが使える救済措置がある。だが使い所を間違えれば更なるクラッシュを招く両刃の剣となる。正直素人にはオススメ出来ない。派手にクラッシュしたマリのマシンはスローモードで宙に舞いゴロゴロと転がりモブのトラックに轢かれて炎上した。クラッシュシーンも結構アートなんだよな。中にはこのゲームのクラッシュシーン集めてるファンも居るし。


 呆気に取られてポカンと口を開けて固まるマリに


 「おい!復活するぞ!またニトロ使えるから直線になったら追って来いよ。」


 と声を掛ける。う〜んショックはデカそうだ。


 ちなみに廃車レベルのクラッシュでもニトロが貰える。点滅しながらローリングスタートし、はっ!と我に返ったマリが


 「そうでした!まだ勝負は終わってませんよ?待ちなさ〜いそこの2人!ふふふっ、さあ直線です!ポチッとな!」


 復活したマリが性懲りも無くフルスロットル+ニトロですさまじい速度で江戸橋ジャンクションに向かって坂道を駆け上がって来た。一度死んでる奴は迷いが無いな。俺は湾岸に向けて右カーブを素早くクリアし暴君の攻撃を躱す。だが逃げ遅れた弐狼が


 「へへへマリちゃん悪いな。悲しいけどコレバトルなんだよな。お先ぃ〜!ってアーッ!!」


 カーブを曲がり切れずノーブレーキで横っ腹に突っ込んで来たデヴェルと一緒に首都高の外にスローモーションで吹っ飛んて落ちて行った。生ぬるい家庭用ゲームと違いこのゲームにはコースアウトも有る。クラッシュシーンだって格好良いスポーツカーが容赦無く粉々になり炎上したりもする。事故の恐怖も存分に味わえるのも開発者のコダワリポイントらしい。


 先に復活した弐狼が


 「悪いな、アバヨマリちゃん!お先に失礼〜!」


 と、マリを煽りながらフルスロットル+ニトロで逃走を図る。が、完全に目が座ったマリが更にフルスロットル+ニトロで追撃する。弐狼のケツを完全にロックオンし、無言でガツガツ突付いている。ウラカンのテールはもはやボロボロだ。


 「オマエがブロックするからだろ。譲ってやれよ。」


見かねた俺が諭すも


 「嫌だ!俺だって中堅プレイヤーなんだ!女の子に負けたく無い!ああっマ、マリちゃん!そんなに強くしないで!」


 「うるさいですね…」


 マリが一向に進路を譲らない弐狼をガン突き続け、

完全に捕食者の目になっていた。こりゃこのゲーム終わったわ。マシンを変えて仕切り直すか、と思った矢先後方からのパッシング。R35GT-RMY24。乱入者だ。


 この状況で良く入って来ようと思えるな。

ドコの物好きだろう、と思い横を見ると8台並んだ筐体の端にあの猿顔がいた。猿顔はこちらを見てニヤリと笑う。


 上等じゃねーか、やってやんよ。


 このゲームはトップを走るプレイヤーに乱入可否の権利が有る。俺は迷わずOKにカーソルを合わせボタンを押した。


 



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