第14話

          一章


      マリちゃんとドライブ


          その⑦


 飯澤ごはんセンターゲームコーナー。24時間営業のドライブインの端っこにある、クレーンゲームがメインのゲームセンター。風営法のザルの目をすり抜ける様に片隅で若者の溜まり場になっている人気スポット。景品の入荷が早く、人気の物からレアモノまで揃う。レトロゲームコーナーも有り俺の様な陰キャも足を運び古き良き時代の欠片に興じている。レトロゲームはまた一人で来た時にじっくりやれば良い。それより一台のクレーンゲームの前でやたらとはしゃぐワンワンとオバケが周囲の眼差しを独占している。

なんか近付くのやだなあと思いつつ


 「どうした?なんか面白い物でも有ったか?」


 とガラスケースの中を覗き込むと50センチ程も有る魚のぬいぐるみが逆さまに吊られて居る。


 「見て下さい、太助さん!デメニギスちゃんです!小さいのは家にあるんですけど、こんなに大きな子は初めてです!ああ…カワイイよぉ…」


マリはうっとりとやっと再会した我が子の様に見つめている。


 バカでかいデメニギスちゃんはリアルタイプで飛び出た目玉、透明な頭部のキャノピーもキッチリ再現されている。カワイイ…のか?


 「よーし一番槍は俺だぜ!太助、何してんだほれ、金!クレジット入れなきゃプレイ出来ねーだろ?」


 コイツとうとう遊ぶ金まで…覚えてろよ、強制労働でこき使ってやるからな!

 財布から500円を取り出し投入口に入れてやる。

弐狼は得意気に


 「見てろよ俺のウルフアイと反射神経が有りゃこんなもんイッパツだぜ!あのシッポの輪っかを狙えば良いんだろ?ラクショーラクショー余裕のよっちゃんいかだぜ!」


 弐狼がプレイしている間、俺は他のクレーンを覗き目ぼしい景品を探す。俺がプレイしていると


 「アーッなんだよコレ!ちゃんと引っ掛けたのに全く持ち上がんねーじゃん!インチキじゃねーか!金返せよチクショー、物売るってレベルじゃねーぞ!」


 と弐狼の叫び声が響き渡る。あのバカまた!と俺は戦利品をクレーンから取り出し駆け付ける。オロオロするマリにボックスのよっちゃんいかを渡し、


 「何騒いでんだ他のお客さんに迷惑だろーが!オマエが下手なだけだろ!」  


 「ちげーよ!聞いてくれよ相棒!俺は狼アイでキッチリあの輪っか狙って引っ掛けたのにアームが弱すぎでビクともしねーんだよ!あんなの絶対ムリじゃん!お金返して!!」


 「俺の金だろ!こんな騒いでたら管理人の人に怒られるぞ。最悪出禁になるぞ!」


 と言った矢先黒い影が俺達に覆い被さる。


 「どう致しましたかお客様?何か不具合でも?」


 身長190センチ以上はあろうかと言うむくつけき大男が側に立っていた。ピシッとした店員服はピチピチで冷酷な眼差しで俺達を見下ろす。あわや処刑開始かと覚悟しながら 


 「すみませんウチの駄犬が!コイツ下手くそで無駄吠えが多くて」


 「何だよ俺はちゃんと狙ってやったのに!俺悪くねーもん!」


 そう言いつつ俺の影に隠れる。


 「そうでしたか…それは失礼を。今直ぐ対処致します…」


 巨漢の店員さんは首をコキコキならし、指をポキポキと揉みながらガラスケースの鍵を開けて、デメニギスちゃんのシッポの輪っかをひょいとつまみ少しずらして


 「こんなもので宜しいでしょうか?アームの強さは変えられないのでご容赦下さい。他のお客様の手前これ以上のサービスは出来かねます。それでは引き続きお楽しみ下さい。」


 とガラスケースの鍵を閉め去って行った。


「ふぃ〜やべぇ奴雇ってんな。用心棒か?小さく丸められてクレーンの景品にされるかと思ったぜ」


弐狼が額の汗を拭い、息を吐いた。


 「オマエさあ、こんなデカブツイッパツでイケる訳ねーだろ?お店だって商売なんだ狼アイで一撃でゲットされたら大赤字だろ。こーゆーのはアームが閉じる力を使ってちょっとずつずらして行くんだよ。俺が指示するから弐狼は狼アイでコントロールしろよ。ちょっとはマリに良いトコ見せなきゃパンツマンからレベルアップ出来ないぞ?」


 「弐狼さんがんばって下さい!レベルアップして何になるのか凄く興味があります。弐狼さんがヒーローに変身する瞬間をわたしシッカリ見届けます!」


マリが黄色い歓声で応援と言う名の煽りを入れる。


 「よーし見てろよ!本気を出した俺の狼アイは一味違うってトコを見せてやるぜ!こんなクレーンなんかに誇り高き一匹狼は屈しねえんだよ!」


 コイツ格好良く言ってるけどモテないだけなんだよなあ。


 「さあ太助コインを入れて指示をよこせ!人の頭脳を加えた俺の強さは魔神級だからな。」


 お金下さい、私はバカです。と素直に言えよ。俺は溜息をついてコインを入れて弐狼に命令する。


 「まずは右から突付け。ほら、バランスが変わっただろ。次はまた右だな。よし、左から引っ掛けてアームで一気に引っ張れ。」


 親切な店員さんがかなりサービスしてくれたおかげでわずか3回でデメニギスちゃんは奈落の底へ堕ちた。


 しかし更なる試練が弐狼を襲った。デカ過ぎるデメニギスちゃんは取り出し口から出て来ない。


 「チキショー!こいつめ!最後まで悪あがきしやがって!俺のレベルアップが掛かってんだよ!とっとと出て来いや魚類の癖に!哺乳類なめんなゴルァー!」


 「ごめんなさい!わたしがちょっと甘やかしたせいで…お願いします、デメニギスちゃん!わたしの話を聞いて下さい!」


 流石深海生物、中々しぶとい。娑婆の空気は合わないのだろうか。エラ呼吸だしな。


 ヤレヤレと俺は店員さんを呼びに行き、デメニギスちゃんは無事水揚げされた。


 「ヒャッハー!見ろよ太助!マリちゃん!デメニギスちゃんゲットだぜ!俺にかかればざっとこんなもんよ!ほらよマリちゃん。抱き締めてやんな。」


 「有難うございます!弐狼さん、やれば出来る子なんですね…ああっデメニギスちゃん!抱き心地も最高です!」


 特大サイズのぬいぐるみを抱き締め大喜びでピョンピョン跳ねるマリのスカートから小ぶりで形の良いお尻がチラリと覗き、弐狼がキラッと目を光らせ顎に手を当ててクールな顔で


 「ふむ、リアからのアングルも最高だな。ご褒美ゲットだぜ!」


 「あーっ!また!わたしのパンツはご褒美じゃありません!太助さんのよっちゃんいかでお願いします!

ヘンタイレベルが上がってるじゃないですか!もう!」 


 特大のぬいぐるみをゲットしてパンツマンからパンツヒーローにレベルアップした弐狼にお客さん達の視線が集中し、クレーンゲームにお客さんが集まって来た。大物をゲットした客が出た事であわよくば自分も、とプレイし始める。ナルホド、あの店員さん中々出来るな。


 休憩用のベンチに並んでよっちゃんいかを摘まみつつ、俺と弐狼は缶コーヒー、マリはミルキードリンクで騒いで乾いた喉を潤しクールダウンする。駄菓子なんて何年振りだろう。そういえば小学生の頃はこんな風に友達と駄菓子屋に集合して遊んだよな。あいつ等今どうしてるんだろう。ゲームコーナーに戻って行く弐狼とマリを見つめて急にデジャヴに襲われる。

 この2人と居るとずっと昔からの友達といる様な心地良さを感じる。でもマリは成仏させてやらなきゃいけないし、弐狼だって大学を卒業して就職すればかつての友人達の様に疎遠になっていくのかも知れない。

 少し眠気の出て来た頭を残ったコーヒーで覚醒させ

ドライブゲームのところから俺を呼ぶ2人の元へ足を向けた。



 

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