最終話 助け合い
「――というわけで。新しくゼラヴィア教会の仲間となった、ブロワー・ペリドットさんです~……って神様ああああっ! なんで悪魔を教会に勧誘してんですか! まあ、もともと
夜の反省会にて。マキはみんなにブロワーの紹介をしつつ、ウチに詰め寄る。
そりゃあ、唯一の真人間であるマキにとっては、この状況は恐怖でしかないだろうなぁ。神様、
「まあまあ、そんなに怒んないでヨ。ボクはもう悪い悪魔じゃないから……もうただの『魔』だヨ。それに~……今日から」
修道服を身に纏ったブロワーはそう語る。どうやら茶色の短髪に黒い眼鏡というのが、彼女の人間態だ。
「はぁ……とにかく、来てくれる信者に迷惑はかけちゃダメだからね。というか、昨日の今日でスタッフが二人も増えるとはね~。部屋、どうしようかな?」
当初はウチ、イルガ、マキの三人分しか考えておらず、教会奥の部屋は三つしかない。しかし人数が倍になったもんだから、誰がどこで寝るかを決め直す必要があるってわけだ。
「シルフィナはもう動けないもん。あの魔導書たちをもう一回運ぶのは面倒だもん」
我先に現在の部屋を守ろうとするシルフィナ。確かに、千冊を超える魔導書を運び直すのは面倒でしかない。コイツは固定でいいな。
「うん、とりあえずシルフィナ部屋は今のままでいいわね。私は礼拝堂に寝るから問題ないとして、問題はニドとブロワー……一気に二人増えたから部屋ないわよ」
あんたは礼拝堂に寝るって前提でいいんかい。そりゃああんたからすれば慣れっ子なのかもしんないけど、みんなはちょっと気を遣うと思うよ? 特にここに来て日が浅いニド辺りは、気を遣うどころか困惑してるだろうし……。
「――しゃーない、今から三部屋増やすかぁ。銭湯の近くにもう少しスペースがあるから、そこに作っちゃお。そうすりゃマキも部屋で寝られるからさ」
「さすが神様~! じゃあ離れの方は、順当に後から参加した人にしようかな。シルフィナは固定だから……イルガ、ニド、ブロワーの三人で~!」
やっと自分の部屋を確保できるからか、マキはハイテンションで部屋割りを決める。こういうのって、みんなで話し合って決めるもんじゃないの? ほら、ニドがめっちゃ渋い顔してるし。
「まあ、教会のリーダーがそう言うんなら仕方ねェな。同じクラリスの弟子であるイルガと部屋が近いのは、俺にとっても都合がいい。気軽に修業できるしな」
「いいですねー、弟子同士で修業三昧! じゃあニドさん、これから一緒に強くなっていきましょうね!」
イルガとニドは互いの拳を合わせて、共に高め合うことを誓う。いいねぇ、その調子で二人とももっと強くなれ~! なんたって神様の弟子なんだもんなぁ~!
「ちょいちょい、イルガたんはボクの旦那さんなんだカラ! 修業もいいけど、二人きりの時間も……そうだ師匠サン、作る部屋は二つで大丈夫だヨ。ボクとイルガたんは二人で一部屋に寝るカラ。ね~、イルガたんッ?」
「お、おう……確かに昼間は構ってやれねーもんな。どーせオレのことを独り占めするなら、二人一部屋の方がいいかも。じゃあ師匠、オレとブロワーの部屋は気持ち大きめでお願いします!」
「――はいはい。三部屋のところを二部屋で、そして片方が気持ち大きめね。じゃあそれで作ってろっか!」
ウチらは教会から少し離れた銭湯の方へ行き、その間のスペースに『小さな家』を二つ作る想像をしつつ、部屋を作っていく。
「やっぱすげー! さすが師匠ですね!」
「こっちなんか、前の俺ん家そっくりじゃねェか……!」
「きたきたァ~! これがボクとイルガたんの愛の巣なんだネ~!」
三人とも気に入ったようで、ブロワーにいたってはイルガの両手を掴んでぴょんぴょん跳ねている。っておい、夜とはいえ外で悪魔化させたらダメだって! 両方が人間態でも、触れ合ったらこうなっちゃうんだな。
こりゃあ、マジに昼間はイチャつけないヤツだ。耐えてくれよブロワー……。
「ホントにありがとうございます師匠! それじゃあまた明日、おやすみなさい!」
「うん、みんなおやすみ~」
三人を見送り、ウチも自分の部屋へと戻る。
なんかサンドイッチの匂いがする……そういえば、昨日はニドに部屋を貸したんだっけ。きっと魔法で作ったんだな。ベッドについていたアイツの毛を軽く掃除して、体を預ける。
よくよく考えると、魔法って本当に便利だよなぁ……。さっきみたいなレンガ造りの建物だって、ほんの数秒でできちゃうんだもん。
ウチはたまたま才能があったからささっと部屋を作れたけど、逆にアレって土属性の才能がなけりゃ、いくら神様でもできないんだよな。五分の一、絶妙に厳しい世界だ。
右手でぽんぽんと
だから五つ全てをカバーするには、よっぽど才能に溢れたヤツがいなけりゃ、最低五人は集まる必要がある。人間ってのは、そうやって助け合って生きてきたのかなぁ?
「窮地に立った時は、神頼みをすればいい……」
誰かが知らん間に口コミで広めた、全てを神様に丸投げする一言をつぶやく。じゃあいつもは、窮地に立たないように頑張ってんのかなぁ……?
――分かんない。分かんなくて当然だ。
だってウチは今まで、助けを求めてきたヤツらしか助けてこなかったんだから。
直近だとドラゴンから街を守ったり……そうやって人間たちにバレないように、こっそりと助けてた。ただ力を貸して、ただ人助けすればいいと思ってた。
でも人間ってのは頭がいいんだよね。誰もが持っていた才能を『魔法』として開発したり、身の回りにある便利なものを発明したり。それこそ、修道服だって鏡で見ながらじゃなきゃ、イマイチ上手く着られないし。
だからいつもは人助けし合ってたんだ。頭のいいヤツら同士で、時には魔法なんて使って、問題を解決してきたんだろうなぁ。じゃあウチが聞いてきた声なんて、ただの人助けじゃどうしようもない、よっぽどヤバい事態だったことなんだね。
ずっと上から見てたつもりだったけど、ウチって人間のこと、全然分かってないじゃん……。
「……だったらもっと、みんなの声を聞かなくっちゃだね」
フツーの人間も、昆虫人も砲獣人も悪魔も、その他の種族のヤツらも。今まではウチのワンオペだったけど、それも『分身』の魔導書のおかげで、教会に来てくれさえすれば誰でも力を貸せるようにまで改善した。
それに、もう一人じゃないんだよな。マキにイルガにシルフィナ、ニドにブロワーも。あんまり信用ならないけど、
それじゃあ明日からも……表向きは『記憶喪失美少女シスター』のクラリスとして、どんどん人助けをしてかなきゃだな!
――絶対に上手くいく。だって、ウチは
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