指名手配系記憶喪失美少女シスター
第24話 弟子増えた
地面に寂しく転がる『分身』の魔導書を拾い上げ、ウチはかつて国だった場所を後にする。
「何もかもなくなっちまった。俺たちの、積み上げてきたものが……」
ベットランドは跡形もなく消え去り、唯一分身でなかったニドだけが取り残されている。それ以外は全てが偽物……いや、この世界のどこかにいる誰かの生き写しだ。
「……いるよ。あんたの仲間が分身として消えたのなら、どこかに絶対元のヤツがいるはずだからさ」
「んなことは分かってる! だけど……ソイツらは俺の知ってる仲間じゃねェんだよ。アグリが俺の分身だったのに、あんなに人が違ェんだぞ? そんなもん、外面が違ェだけの別人だろうが……!」
ニドはその場で再び泣き崩れる。だからといって、失ったものはもう返ってこない。返ってくるんだとしたら、もう既にパパとママを取り戻してるからなぁ……。
「――ウチはゼラヴィア教会に戻る。あんたはこの先、一体どうするつもりなの?」
「俺には決闘しか能がねェ。俺が輝けていたベットランドが分身なら、本物の決闘場もあるはずだ。俺はソイツを探そうかなと思ってる……」
分身だけの世界で、コイツは『最強』だと称されてた。それがたとえランドのオモチャだからだったとしても、その実力が偽物なわけじゃない。無抵抗なウチを吹っ飛ばせんだし。
「だけどよ……俺より実力が上なヤツを知ったまま、やれ『最強』とは誇れねぇ。だから今ここで、お前を倒してから旅に出る!」
ニドは涙をふいて、今までの全てを振り切るように突っ込んでくる。ウチを倒して、ちゃんとした『最強』になっときたい気持ちは分かるし、ウチも攻撃を迎え入れる態勢をとる。
ヤツは近づきつつ木属性の魔法を使い、右手に木刀を構える。コイツでウチに一撃を叩き込もうってことだな……。
「遠慮なく叩いてこい! でも、そんなもんは全然効かなぁぁぁぁい!」
ニドの一撃を正面から受け、木刀を振り下ろすことだけに集中していた右手を、ウチは左手でしっかりと掴む。あんたは隙だらけだ!
「残念だったなぁ……ウチが生きてる限り、あんたは最強にはなれなぁぁぁぁい!」
左手でニドをこちら側に引き込み、完全にがら空きとなっているヤツの顔面に、右の拳を振り抜く。たった一発で、その実力差を分からせる。
「いっ、てェェェェ~! バカみてェに痛いじゃねェかよォォォォッ!」
今までの人生で一度も受けたこともないだろう痛みを訴えながら、地面にうずくまるニド。コイツの掲げていた思いに泥を塗らないよう、本気で殴ったのがまずかったか……? 大丈夫かな、このまま死んだりとかしないかな?
「降参降参! 俺の負けだ! これ、俺じゃなかったら確実に死んでただろ……。だけどよ、本気でぶつかってくれてありがとよ! だからクラリス、お前を超えるまで……俺を連れてってくれ!」
「はぁ!? なんでそれでウチについてくんのさ!」
もうウチにはイルガっていう弟子がいるのに……また一人増えんの? しかもウチを超えるまでって、そんなの一生ムリじゃん? それに、教会の手伝いをさせられるだけだと思うし。
「いいじゃねェかよ! お前を超えないまま旅に出るのは、なんかもどかしいんだよ。きっちりと周りのヤツらより強くなってから、本物の決闘場に向かいてェんだ。頼む、俺のわがままを聞いてくんねェか……?」
――気持ちは分かった。だとしても、あんたがウチより強くなれる未来なんてのは、絶対に来ない。多分、この事実を伝えてもついて来るんだろうなぁ……もうしゃーないか。
「いいよ、勝手についてきな。絶対後悔すると思うけど……」
「っしゃ! 見てろよクラリス……今はムリだとしても、いつかお前を完全に超えてやっからよ!」
「――いいじゃん、超えられるもんなら超えてみなよ。まずはイルガを倒すとこからだね~」
二人目の弟子を拾い、今度こそベットランド跡地を後にする。なんだかんだ、予想より全然早く帰れそうだなぁ……。
「なあ、お前の住んでる所まで一体どれくらいかかんだ?」
――前言撤回、もしかしたら一生帰れんかもしんない。
そりゃあ、ウチ一人だけなら空でも飛んで一瞬で帰れるけどさぁ、なんか知らんけどニドもついて来るようになったから、この手が使えない。思わぬ落とし穴だぁ……。
「えっとぉ……分かんない……」
「はァ!? じゃあお前、一体ここまでどうやって来たってんだよ!」
さっきぶりに両肩を掴まれ、頭をぐわんぐわん揺らされる。もう既に吐き切ったので、何かが戻ってくることはない。単純に頭が痛むだけだ。
そしてニドがこう思うのも至極当然だ。フツーに考えて、まさかここまで『雲に乗ってきた』なんて思うわけないもん。
――そういうわけで、ウチは教会からベットランドまでの道のりを全く知らない。せいぜい『海を渡る』くらいだ。そんな状態で空を飛ぶのもダメとなると、いよいよ帰る手段がない……。
「詰んだ……」
「おい! じゃあ俺たちは、どうやって教会に帰りゃいいんだよ!」
そもそも、あんたは勝手について来るだけでしょうに。こうなったら、いろんな町を転々としながらひたすら北を目指すしかないかぁ? ニドがそれでいいってなら、それでいこうか……。
「――よし! ニド、ここから一番近い町ってどこ? できれば北側の方がいいんだけど」
「なら、北に進めば教会があるってことだな。海を越えなきゃなんねェってわけか……本当にお前がどうやって来たか分かんなくなってきたな。なんだ、俺には言えねェ手段で来たってのかァ?」
そうだよ。あんたにも他のヤツにも言えない手段で飛んできたんだよ。
ここに降り立った時はランドっていう都合の良い存在がいたから無事だっただけで、基本的には誰にも言えない。ウチの正体が『神様』だってバレたら、色々と面倒だからな。
「はい、いいから行くよ! ついてこないなら置いてくから!」
「おい待て、ごまかすんじゃねェ! 言えねェことなのは分かったから、とりあえず置いてくな! というか、迷子なら俺についてこいよ!」
「確かに! じゃあ早く連れてって!」
よくよく考えたら、この辺の地理を知ってるのは絶対にニドの方だもんなぁ。焦りすぎて完全に逆になってた。
呆れ顔で最寄りの町へ案内するニドに、ウチは口笛を吹きながらついていく。別に? 本当は全然焦ってないしぃ?
「――とりあえず今日はこの町に泊まろう。金は持ってるか?」
「いや、すぐ帰るつもりだったから、一枚も持ってない……」
「こんなザマなのに、すぐ帰れるつもりだったのかよ。どんだけわけの分かんねェ手段でここまで来たってんだよ……そんな魔法あったか?」
多分『空を飛ぶ』とか『雲の上に乗る』みたいな魔導書はないだろうなぁ……ごまかしは効かないか。でもお金も持ってないんだよなぁ……そうだ!
「ニド、ちょっとお金貸して」
「なんでお前の分まで払わなきゃなんねェんだ……まさか、やるつもりなのか!?」
本来なら絶対やっちゃダメな手段だろうけど……ウチらには今、正真正銘世界に一つだけの『分身』の魔導書がある! というか、どうせ教会に帰ってもこの使い方をやるヤツがいるから、あんまり罪悪感はない!
ニドに金貨を一枚借り、ソイツを何百枚にも分身させる。これで宿代もご飯代もいくらでも工面できるってわけだ……この魔導書の持ち主ってのは、どうも嘘つきになっちゃうらしいな。
――まあ、最初から人間のフリをしてるウチが言えることじゃないんだけどね~。
「ありがと。コイツで『悪魔殺し』の名前にふさわしい、最高級のお部屋にでも泊まろうかな」
「おいおい、この『ベットランド最強』も忘れんじゃねェぞ?」
「でもそれって『元』じゃん」
「うっせ」
新弟子に軽く小突かれながら、ウチらは今晩泊まる町に足を踏み入れるのだった。
「ねえ、あの顔って……さっき配られた写真と同じ人よね!?」
「ああ、間違いない! それに屈強な
「あのシスター一行は、ベットランドを攻め落とした不届き者だ!」
――あれ? もしかして宿に泊まるどころか、この町全体から敵対視されてる感じ!?
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