第19話 戦士と博徒の国
ランドは自分の玉座に座る……ことはなく、ソイツをウチに譲る。神様を敬うその気持ちは嬉しいけどさぁ、そこまでは求めてないんよね。
「いいからいいから! あんたの国なんだから、玉座はあんたが座るべきだって。椅子ならテキトーに作るから大丈夫だよ……っと!」
木属性の魔法を使い、腰かけるのにちょうどいい小さな椅子を作る。こうしてみると、魔法ってのはかなり便利だなぁ。『単純なものを作る』ってだけなら、これだけで一生暮らしていけそうだもん。
「さ、さすが神様! でもそれって、木属性の魔法によるものですよね? あなたの本来の力ではないはず……人間以外にも、魔法は使えるのですね」
「そうらしいね~。でもさぁ、逆に人間や
基本的な五属性に加え、魔導書さえあれば誰でも使える無属性の魔法もある。そもそも、ここまで来たのも『分身』の魔導書を持って帰るためだしなぁ。
こんな技術を作り出した人間の方が、
「まあ、魔法がどうとかは今は関係なくてさ。あんたに聞きたいことがいくつかあるの、答えてくれる?」
「もちろんです! 吾輩の好きな食べ物についてでも、無人島に持っていくものでも! 神様のためでしたら、なんでもお応えいたしますよ!」
「とりあえずその二つはどうでもいいからパスね。まず一つ目、ウチ……クラリスの噂は、一体どんくらい広まってるわけ?」
ゼラヴィア教会から遠く離れたベットランドでも、なぜかウチの名前が知れ渡っている。確かにこの前、悪魔から城下町を救ったけど……たったそれだけのことで、海を越えて噂が広まるとは思えない。
ランドはウチを見て『クラリスだ』って驚いてた。もしかしたら、大勢の人間が悪魔化したあの事件の『元凶』は、コイツなのかもしれんってわけだ。
「ベットランドまで名が広まっているということは、他の教会の方々にも知られているのではないかと思われます。少なくともこの世界の中心である『キリウノ王国』には、その存在を認知されているでしょうね……」
コイツの言うことが本当なら、そこそこの地域でウチとゼラヴィアの名前が広まってることになるな。思いがけず宣伝をしていたのはいいとして、次はその広まり方について聞いとくか。
「なるほどね。じゃあ二つ目……あんたはさっきウチのことを『悪魔殺し』って呼んでたけど、ウチはどういう風に名前が広まってる? 良い方? それともダメな方?」
――たとえゼラヴィアが知られたとしても、それが悪い意味でなら逆効果だ。何かしらの行動でみんなの印象を変えてやんなきゃいけない。それこそ、このベットランドでもね。
「吾輩は他国に赴くことはほぼないので、具体的にどう噂されているかは分かりませんが……ベットランド内では、かなり指折りの戦士だと印象づいております!」
「……はぁ? なんで『シスター』じゃなくて『戦士』なの!?」
確かにウチは勇者の
「――そうでした、先に説明しておくべきでしたね。ここベットランド国は……国民全員が戦闘に熱狂し、それに応じて金が弾け飛ぶ! 言うなれば、戦士と博徒の国なのです!」
「えっと、テンション上がってるとこ悪いんだけどさぁ、ウチって人間の文化とか全然知んないんだよね……。とりあえず『博徒』ってなに?」
聞いたことない言葉だから、どうせまた人間特有のヤツだ。
「博徒というのは、ギャンブルによって金を稼ぎ、それで生活する者のことでございます。そしてベットランドで行われるギャンブルは、戦士たちによる決闘にございます……!」
なるほどなぁ、だから戦士と博徒のための国ってことか。とりあえず戦士が戦ってると、博徒はお金を稼げて生活できるんだなぁ……待って、それって博徒だけズルくない!? せめてあんたらも戦え!
「ちょいちょいちょい! その説明だと、博徒はただ決闘を見てるだけでお金を稼げるんじゃん。それはさすがに戦士たちがかわいそうじゃない? 自分たちは戦ってるのに、それを見てる方にお金が行くんでしょ?」
「それが違うんですよぉ神様! ギャンブルというのは、どちらの戦士が勝つかを予想して所持金を『賭ける』のです。そして賭けた方の戦士が勝てば、賭け金は倍になって返ってくる……!」
おお~! 博徒はただ見てるんじゃなくて、より勝てる戦士にお金を賭けなきゃいけないんだな。今は賭けられるお金を持ってないから博徒にはなれないけど、今度来た時はがっつり稼いじゃるぞ~!
「――逆に賭けた方の戦士が負けた場合、賭け金は没収! 結果として、ただ所持金が減ってしまうのです……。しかしそれが、このスリルがこそが、博徒たちを熱くさせるのです!」
「……はぁぁぁぁ~!? なにそれ、ここってそんなロクでもねぇ国なの!?」
やっぱダメ! ウチにはそんな危ねぇマネはできない!
戦士がいるのは別にいいとして、それにお金を賭ける博徒ってのは明らかにヤバいって!
要は、あのマキよりもお金に執着してるヤツってことでしょ? もし知り合いが博徒になったら、さすがに距離置くもん。とりあえず、マキだけはここに来させないようにしなきゃだなぁ……。
「そうだ、神様も参加なさいますか? ベットランド中で話題の戦士である、あの『シスター・クラリス』が決闘に参加……過去最高の盛り上がりになること間違いなしですよ! さあどうです!? ねえ、どうなんです!?」
ランドはいよいよ玉座から立ち上がり、ウチの手を握って懇願する。この感じ、マキと初めて会った時みたいでちょっと懐かしいなぁ……って、めっちゃ痛いんだけどぉ!?
「はいはい、分かったからとりあえずこの手離してくんない? あんた、握る力が強すぎんの!」
「も、申し訳ございませんんんん! 『悪魔殺し』の参戦に、つい興奮してしまいまして! それでは……このまま決闘場へとご案内いたします!」
結局手は離してくれず、引きずられる形で決闘場へと連れて行かれる。中に入ると、見るからに強そうな男たちが十数人も集まっていた。コイツらがベットランドの戦士ってわけだな。
「戦士諸君、本日は特別ゲストが参戦してくれた! 海の向こう側からはるばるやってきてくれたのは……コイツだ!」
ランドに勢いよく背中を押され、戦士たちの目の前に突き出される。確かに人前だから、この扱い方で合ってんだけどさぁ……だからって、いきなりこんな男たちに向かわせんでくれるかなぁ!? ヤツらから溢れ出てる『圧』がすごいことになってんの!
「なんだ女ァ? お前がオーナーの言う特別ゲストなのかァ!?」
男たちを代表して、一人が顔同士が触れるくらい近づいて威嚇してくる。顔には鱗があり、ちらっと見えた牙も尖っている。この辺の特徴からして、コイツは
「とりあえずさぁ、歯が危ねぇから離れてくんない? 美少女の顔に傷がつくんだけど」
「おうおう、なかなか言うじゃねェのチビ女ァ。ベットランド最強の戦士であるこのニド様に、ここまでナメた態度をとったヤツは、お前が初めてだ……。オーナー! 今晩の決闘、コイツと
あれよあれよと、いきなり最強のヤツと戦うことになっちゃったんだけど……。ウチとしては早く『分身』の魔導書を持って帰りたいってのに、マジにめんどいって。
というか、所詮はベットランドの中で最強なだけなんでしょ? 余裕すぎんだけど。
「オーケー! 今晩のメインマッチは『ベットランド最強』と『悪魔殺し』! この二名で決まりだぁぁぁぁっ!」
「「「「「うおおおお! アツすぎるぜええええっ!」」」」」
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