第12話 魔法についてのアレコレ

「いや~、私がいない間にそんなカッコイイとこを見せてたなんてね。こりゃあ大変なことになっちゃったわ~……」


 教会の奥にできた部屋に魔導書を並べつつ、マキはイルガに嫌味っぽく言う。

 まあ、あの主張はゼラヴィア教会にとってはマイナスでしかなかったわけだし、明日からの運営に支障が出るかもしれない……。


「それでも、あなたは何も間違ったことは言っていない。世の中にはお金より大切なものも、いくつかあるからね。でも、教会の印象が悪くなったのは事実……その辺りは、力仕事で取り返してもらおうかしらね~」


「はい……ホントすんません……」


 イルガは肩を落としながら、早速人一倍多く魔導書を運んでいく。さっきから腕を酷使する仕事修業ばっかり振られるなぁ……頑張れ!


「それにしても、教会の奥に色々と空き部屋があるんだね……ここを含めると三つか」


 教会を作った時、同時にウチらの暮らすスペースを確保しておいた。ウチ、マキ、イルガで三部屋のつもりだったけど、シルフィナまで仲間になったから一部屋足りんなぁ……。


「ごめんなさい、シルフィナのせいで一部屋足りなくなったもん……」


「大丈夫よシルフィナ、私なら礼拝堂で寝るから部屋は三人で使って。もともとこうしてきたんだから、もう慣れっこ。ただの現状維持よ」


「ありがとうございます。でも、それって誇っちゃダメだと思うもん……」


 マキはどんと胸を張って礼拝堂で寝る宣言をする。これがウチらのリーダーだもんなぁ……頼もしいのか頼りないのか、一体どっちなんだろうか……?


「魔導書はこれで全部運び終わりましたー! あとは内装と、オレら用の家具なんかを作んなきゃですね。シルフィナ、家具についての魔導書って何かあるか?」


「家具って椅子とか机のことですよね? だったらないもん。でも木属性や土属性、金属性の魔法を使えれば、好きに作れるもん」


 ――そりゃあそうか。さっきだって教会やリヤカーを作れたんだ、家具だけ作れないなんてこともないだろうし、むしろそれを木で作るために魔導書を借りに行ったんだもんなぁ。


「魔法ってのは、基本的に五つの『属性』で構成されてるもん。火、水、木、金、土。全ての人間はこの五つのうち、どれか一つは使える……まあ、感覚としては適正デュナミスと同じようなものと考えてていいもん」


 要は、人間によって使える魔法が違うってことだな。ウチは『土属性』は使えたけど、他の四つ……神様だから『火属性』と『水属性』は実質ないものと考えると、あとは『木属性』と『金属性』か。使えるもんなのかなぁ……?


「じゃあ皆さん! まずはこの各属性の『入門編』で、どの属性を扱えるか試してみるんだもん! ちなみにシルフィナは水属性しか使えなかったから、他の四つができるとありがたいもん!」


 ――となると既に二人が使える土属性は置いておいて、火属性と木属性、そして金属性が欲しいところだな。三人が使えるのが偏ってないといいけどなぁ……。


「よ~し。とりあえず私は火は使えるから、それ以外もあってくれ、頼む!」


 トップバッターはマキ。へぇ、コイツって火属性を使えるのか……ああ、初めて会った時に点いてた丸い光の正体は火だったんだな。ウチが神様だって証明する時も、自分で使えるから『火以外』と指定してきたってわけか。


「まずは水! ……んん、それなら木はどうだ! ええい、金! 土! ……ダメだこりゃあ~、私には火しか使えないっぽいねぇ~……」


「仕方ないもん。扱える属性は一人につき一属性、二つ以上なんて数百年に一度現れればいい程度だもん。マキさんは気を落とす必要ないですもん」


 ――それって、もう五属性をカバーするのは不可能じゃない? マキが火属性で、シルフィナが水属性、そんでウチとイルガが土属性。明らかに足りないんだけど!?


「責任重大ですねー……オレ、土以外も使えるのか!?」


 いや、ここでイルガがその数百年を引き当てれば……それでもあと一つ足りないけど、まあ上等だろう。そもそも、四人でカバーしようなんてこと自体間違ってるんだから。


「まずは火からー! ……ダメだ、やっぱり数百年に一度ってのはそうそう起きねー!」


 う~ん、やっぱりダメかぁ。なんか期待の目がかけられてる気がするけど、ウチは『神様』であって、いくつもの属性を使える『びっくり人間』じゃないんだからね?

 まあ、やってみなきゃ分かんないか……火属性の魔導書を開き、手順に従って使ってみる。


「……何も起きないなぁ。火属性はハズレですね」


 既にマキが使える属性とはいえ、三人の顔が少し曇る。なんだよ、じゃあ次の水は神様としての力を使って『できてる風』にしてごまかすか? ……いやダメだ、それだと魔導書の応用を利かせられずに、矛盾が生まれてしまう。

 ごめん弟子よ、師匠は自分の才能のなさを見せてしまってるが……これでも憧れてくれるか? 続く水属性も大外しし、とうとう後がなくなってしまった。


「木属性……使えるもんなんですかね?」


 というか、なんで二つ以上の属性が使える前提で話を進めようとしてるんだウチは。使えなくたって、別に『しゃーない』で済むのに。とりあえずやってみるけど……。

 三冊目、緑色の『木属性入門』を開き、手順を踏んで試してみる。両手を合わせて、木の枝を頭に浮かべながら離していく……!


「……おお、枝だ! できましたよ~!」


 空中に浮かんだ細い木の枝を掴み、みんなの方へ振り向く。そこには歓喜の声を上げる二人と、驚きのあまり言葉を失った弟子の姿があった。

 まさか二つの属性を使えるとは思わなかった、しかも神様とか関係なく、単純な魔法への才能で……。


 ――要は、ウチが超天才ってことだよなぁ~? おいおい、もう神様としてだけじゃなくて、人間としても崇められちゃうんじゃないの!? なんたって、数百年モノだもんなぁ~!

 そして奇跡というか、もはや必然というか。金属性の才能もバッチリと発揮させ、無事ゼラヴィア教会のメンバーで五つの属性をカバーすることが可能となった。


「師匠……さすがに強すぎてちょっと引きます……。前世は神様かなんかだったんですか?」


 それ、実はなんだよね……まあ、これで師匠としての威厳は見せられたかな? 完全にドン引かれてるけど……。

 ウチのワンマンで木製の家具を作っていき、イルガがそれをみんなの部屋に運んでいく。ある程度内装がしっかりしてきたところで、シルフィナが思い出したようにつぶやく。


「おっと、お布団なんかは『無属性』でしか作れないんだったもん。確かそれの魔導書はこの辺に……あった、これだもん」


 シルフィナは白い魔導書が並べられた棚から、ある一冊を取り出す。表紙には『毛布を作る魔導書』と書かれていた。この魔導書によれば、毛布というのは宿にあった、あの温かいアレのことらしい。

 人間はコイツを使って深い眠りにつく……なるほどなぁ、神様相手にも効果は絶大みたいだ。


「無属性は五属性から外れた性質を持つもの……例えば動物由来のものを出す時に使うもん。お布団には鳥の羽が入ってるから、無属性として扱われるもん。ちなみに、無属性は魔法の才能は関係なく、どんな人間にも使えるもん!」


 だから『子どもに読み書きを覚えさせる魔導書』は表紙が白かったのか。そりゃあ、言葉を覚えさせるのに火も水も使わないもんなぁ。

 だけど、そんな誰にも使える無属性の魔法が、なんで本にされてるんだ? こんなものに頼らなくたっていいのに。


「無属性だけは特別で、んだもん。五属性と違って、読みながらじゃなきゃ絶対に扱えない……逆に言えば、読みさえすれば誰にでも扱える。だから大事にしろってリュエルおじさんから教えてもらったもん。でも一冊だけ、半ば奪われる形で借りパクされてしまったんだもん……」


 だからあんなに躍起になって、魔導書を護ろうとしていたのか……。モノにもよるけど、誰にでも魔法が使えるというのはそれだけで脅威になり得る。それこそシルフィナのように、悪用されないように護らなきゃならんわけだ。


「でも、人助けを信条に掲げている皆さんなら、悪用はしないって信じてますもん。魔法は人間を脅かすんじゃなくて、あくまで……だからシルフィナも、このゼラヴィア教会でちゃんとした『人助け』をするもん! 昆虫人ヴァセクトだって、人間を助けていいはずだから……!」


「当たり前よ。せっかくうちの教会に来てくれたなら、魔法や魔導書の知識を駆使して、教会全体をサポートしてくれると嬉しいわ。ちゃんと寄り添えるってことを、みんなに証明していきましょう……!」


「……はい!」

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