第36話 ユヅキ:第3世界:交易の町

 

実は1つ、今まであえてやっていなかったことがある。

異世界モノと言えば何を思い浮かべるだろうか?

ステータス可視化?容量無限インベントリ?ハーレム?

それもあるが、異世界モノの定番と言えば……そう、【鑑定】だ。

【鑑定】があれば異世界のトンデモビックリアイテムだろうと詳細が確認できる。

しかし、今までそれが頭の中にありながらも実行しなかったのには理由がある。


これまでバタバタしていたり複数キャラクターを動かしたりしていて割と情報量が多い状態だった。

そして俺は自慢じゃないが、記憶力が良い方ではない。

そう、あれやこれや鑑定して情報を得ても、覚えておける自信が無かったんだ。

それに詳細な情報を得てもそれを活用できるかどうかも分からないし……。


しかしこの石やダンジョンの世界でのピンクの何かを見て思ったのだが、地球での常識では図れない分からない物が多すぎる。

ので、詳細な情報ではなく簡易的な情報だけを得られるスキルを創っても良いのでは?と思うんだ。

いや、知りたい情報だけを得られるようにするべきか?

簡易的な情報だけでは知りたいことが分からないかもしれないし……。

それにどんな基準で簡易的だとか決めてるのかも分からないしな。


[スキル付与]を行使して……スキル【万能鑑定】を創って、と。

目の前の石に向けて『これはどんな物か?』と念じながら【万能鑑定】を行使。



『〈幻覚石・赤〉。

近くに置いておくだけで幻覚を見せる作用を持つ石。

少しの時間なら問題無いが、長時間側にいると徐々に効いてくる。

長期間常用すると精神に異常が生じる。

削った粉を水に溶かすと綺麗な色に染まる。


この個体には【増幅魔法】【自壊魔法】がかかっている。』



思わず数歩後退った。

けど常時結界を張っているから、多分この有害物質も大丈夫なはず、だ。

ふう、驚かせやがって。

しかし何で船の隠し部屋にこんな物が?


上の部屋には何かを描いていたらしきキャンパスとパレット……そしてこの石は粉を溶かすと綺麗な色が出る、と。

この粉を絵具代わりに絵を描いていたのか?わざわざ精神に異常が発生するような物で?

うーん……まあ、色々あるんだろう。わざわざ首を突っ込むようなことでも無い。

犯罪組織だったりした場合面倒だしな……。


あまり長居はしたくない感じの場所だったので、早々に船を出て他の船を見て回った。

普通っぽい船もあれば麻薬や爆薬を積んだ船も

あり、一際大きな船は交易船なのかたくさんの物資が積まれていた。香辛料の類が多かったかな。

一通り見て回って満足した俺は一旦その町から離れた海上へ向かった。


そう、もちろん船を創るんだ。

最初の女神からの支援物資である1人用の小型船。

【万能創造】発動!

船の構造なんてよく知らないので、そこは細かく指定せずスキルの自動補正の力に頼ろう。

『とにかく高性能で居住空間があって、どうせなら豪華でかっこいい小型船』創造!

で、海上に設置!


じゃん!

青白く輝く小さな船。

小さいと言っても、居住空間もあるのでそこそこ大きめだな。

早速降り立って中を見てみる。


四角い大きな部屋の中にリビング、キッチン、寝室など全てが揃っている感じなのだが、その家具類がなんていうか、豪華だ。

基本的に黒の木材で統一された落ち着いた感じ。

キッチンは水もガスも出る。理屈は分からん。

ちょっとベッドに触れてみると、ふっかふかだった。

1度寝そべると立ち上がれなさそうだからそそくさと離れよう。


こっちが操舵室か。

と言ってもかじがあるわけではなく、モニターとコントローラが設置されている。

少し操作してみると、この船の性能が表示された。

ふむふむ、音声入力もできるしコントローラーで操作もできる、と。

防衛機能、攻撃機能なんかも完備。

ちょっと近未来的すぎるか?まあ良いか。


階段を降りると広い部屋に出た。

何も無いように見えるけど……ああ、ここ倉庫か。

他の船を見た感じだと物資がたくさん積んであったもんな。

保存食と日用品でも創造して積んでおいて、と。


これで他の人に見られても違和感は無いだろう。無いよな?

よし、早速入港しよう。発進!




他の船に倣って空いてる場所へ船を停泊させて外へ出ると、港の職員らしき人が待っていた。

見てみれば職員たちはみんな同じ帽子、同じ服装でバインダーとペンを持っている。


「こんにちは。船長の名前、船の名前、ここに来た目的を教えて下さい」


「こんにちは、船長の名前はユヅキ。船の名前は……」


考えてなかったな。

ユヅキが和風な名前をイメージしたから船の名前も和風にしたい。

でも実在する船の名前を使うとややこしくなりそうだから……。


「船の名前はサクラ号、来た目的は観光です」


「観光?交易ではなく?」


「そうですね、ここに来たのは初めてなので町を見て回りたいと思いまして」


「なるほど」


ここでは交易するのが当たり前なのか?


「どのくらいの期間滞在する予定ですか?」


「そうですね、とりあえず10日ほど」


「分かりました。でしたら港の使用代金として10,000スタグ頂きます」


ポケットから出すふりをして小金貨を1枚創造して渡した。


「はい確かに。滞在期間を延長する場合は港の職員までお知らせ下さい。それと、船から積み荷を降ろす際は点検する規則なのでその場合も職員までお知らせ下さい」


そう言って紐のついたプラスチックのような質感の札を渡された。


「ここに滞在中はそれを見えるように首にかけておいて下さい。それには魔法がかかっていて、滞在期間が過ぎると色が変わり音を発します。滞在期間を過ぎてもこの町にいると捕まるのでお気をつけて」


「分かりました、ありがとうございます」


札を首にかけてその場を離れた。

宿は探さなくても良いよな?寝る時は箱庭か船に戻れば良いし。


ぱっと見た感じ、この町は色々な種族の人たちがたくさん行き交っており、その辺に建っている建物のほとんどが何かしらのお店のようだ。

どの建物も少なくとも4階以上あり、背の高い建物が道の両側にずらりと並んでいるため少し威圧感というか閉塞感がある。


港から少しだけ歩いた場所に目立つ建物があった。

看板を見てみると、『出張役場』と書いてあり人々が出入りしている。

ちょうど良い、ここで話を聞いてみるか。

重い鉄の扉を開けて中に入ると、日本でも見たことのある役場って感じの内装だった。

1番列が少ない場所に並び、数分ほど待って自分の番になった。


「出張役場へようこそ。本日はどのようなご用件ですか?」


「この町に来たのは初めてなので、色々とお話を伺いたいと思いまして」


「かしこまりました。それではあちらのテーブルへどうぞ」


カウンターで長々と話をするわけにはいかないからか。

案内されたテーブルにつくと、職員の人が資料を持って来てくれた。

資料を見ながら色々と話を聞く。


ここは独立国家『交易町』。

『交易町』というのがここの名前らしい。

周辺国家から様々な交易品を積んだ船がここに集まり、他の国の交易品を積んだ船は元の国へ戻って行く。

ここには王はおらず、各商会を束ねる長たちが集まった会議で規則が決まる。


基本的な規則やその他の話を聞き、役場を後にした。


交易がメインの町というのは都合が良いな、当面の目的は金稼ぎだから。

ユヅキは別に目立ちたくないというわけではないし、しばらくこの町を見て回って需要を把握したら早々に商会を設立して商売に移ろう。

商会を設立するには役場で手続きしなくてはいけないので、また来ることになるだろう。

 






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チートで何でもできる?何でもしてやろうじゃないか! 鈴奈リン @suzunarinka0441

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