第35話 ユヅキ:第3世界:ダンジョンはひとまずスルーで
俺戦隊、ユヅキ。
黒い髪を高い位置でポニーテールにした美青年。
ユヅキの前回までのあらすじ。
転移した直後にでっかい魚みたいな生物に食べられ、魔銃でめちゃくちゃにしてやった。
びびってすぐ帰宅した。以上!
海面より遥か上空で考える。
正直この世界、俺にはきつい。
海が怖いというのは海で構築されているこの世界では致命傷だ。
チラッと下を見るだけでもう泣きそう。
深い深い青の中に何が潜んでいるか分からないっていうこの恐怖。
……あっ、そうだ。
この恐怖心すらチートで消してしまえば良いのでは?
精神に作用するのはちょっと怖いが……そうと決まれば即行動。
[スキル付与]で【海洋恐怖症無効化】を……、……俺のこの海が怖いって感情は海洋恐怖症で良いんだよな?
まあ良いか、付与っと。
その瞬間、こっちの世界に来てからずっと俺の精神をじわじわと蝕んでいた恐怖がすっと消滅した。
1度目を閉じ、ゆっくりと目を開ける。
目の前に広がるのは太陽の光を反射してキラキラ輝く真っ青な海面、そして突き抜けるほどの晴天の空。
恐怖心が消えるだけでこんなに世界が違って見えるのか、もっと早くこうしていれば良かった。
心に余裕ができたことで改めて周囲を見渡す。
よく見てみれば、向こうの方に何かがぽつんと浮かんでいるのが見えた。
それ以外には何も無さそうだし、あれに向かってみようか。
と、いうことでビュンと飛んで来てみた。
鉄でできた小さな島?の上にこれまた鉄でできた四角い小屋。
明らかに人工物なんだが……何だろう、これ?
入り口には扉が無かったので入ってみると、部屋の中央に地下への階段があるだけだった。
え、この島普通に鉄の板が浮かんでいるだけに見えたんだけど……地下に空間なんてあるのか?
……降りてみるか。
俺は暗い階段の先へと足を進めた。
1番下まで降りると、そこには小さな部屋。
そして奥へと続く扉が1つ。
警戒しつつ扉を開くと、そこには同じような部屋が続いていた。
うーん?地下施設……?物理的にあり得ない気がするんだが……。
その先に入ってみると、突然部屋の中央に黒い渦が現れそこから水色の透明な物体が飛び出して来た。
ぷるんとしていてどこが顔かも分からないが、中には小さな球体が浮いている。
どこからどう見ても……スライムだな。
様子を見ていると、スライムはぽよんっと飛び掛かってきた。
しかし結界に阻まれぶるんっと跳ね飛ばされる。
それでもめげずに飛び掛かって来る。
可愛くてしばらく見ていたが、もしかして攻撃されているのでは?と思った。
ならば容赦はしない、腰に差した魔銃を抜き取りくるくるっと回して構える。
魔力装填、放て!
バシュンッ!
赤い光線がスライムを貫通したかと思えば、ボワッと燃え上がりスライムは跡形も無く消えた。
ふっ、またつまらぬものを撃ってしまった……などと思っていると、ぽんっと煙が立ちスライムがいた場所に何かが現れた。
何だこれ?……あ、まさかドロップアイテムか?
拾い上げてみると、それはめちゃくちゃ小さな石とスライムをそのまま小さくしたような玉。
他の世界で魔物を倒した時は死体が残って解体しないと素材は手に入らなかったが……。
そこでふと気付いた。
この世界には至る場所にダンジョンがあるらしい。
もしかしてここ、ダンジョンなんじゃないか?
だとしたら明らかに外から見て存在できないはずの場所に空間があるのもまあ、納得できる。
ダンジョンだから魔物の死体が残らずドロップアイテムになるのか、なるほどな。
初めてのダンジョンにテンションが上がり、俺は意気揚々と先へ進んだ。
どうやらこのダンジョンは小さなダンジョンだったらしく、少し進んだだけで行き止まりとなってしまった。
ボスらしき魔物はいたにはいたが、人間ぐらいのサイズのスライムだったし。
というかここで出てくる魔物は全てスライムだった。
スライムダンジョン?これじゃああっという間にクリアされてしまうぞ。
さて、行き止まりの部屋は中央に球体が浮いているだけの部屋だった。
少し警戒していたが何も起こらなかったので、その球体に触れてみる。
すると、頭の中に声が響いた。
『ダンジョン踏破を確認しました。ダンジョンマスターになりますか?承諾しなかった場合、このダンジョンは1時間以内に消滅します』
ふむ。ダンジョン踏破するとそのダンジョンを自分の物にできるのか。
……面白そうだな。ラノベとかでは定番だが、ダンジョンマスターになると恐らくこのダンジョンを好きに弄れるのだろう。
しかし……今の俺は色々とやることが多い。
いくら体を複数動かせるとはいえ、今だって情報を整理するのに一苦労なんだ。
ダンジョンマスターになんてなってしまったらユヅキがそっちに付きっ切りになってしまう。
惜しいのは惜しいが、ダンジョンをクリアすればダンジョンマスターになれるのなら他にも機会はあるだろう。
俺はダンジョンマスターにならないとコアに思念を送り、ダンジョンを後にした。
さて、と。
取り出したるは『探し物コンパス』。
探している物を伝えると、どの方角にそれがあるか教えてくれるコンパスだ。
「人の住んでいる場所を教えて」
ぐるんっと針が一周して東方向を差す。
よし、行ってみるか。
そのまま飛んで行こうとして、慌てて[変幻自在]で透明化した。
危ない危ない、ここでは確か船で移動をしている世界だ。
そんな中、飛んで町に向かったら目立ってしまう。
自分の姿が消えていることをしっかり確認して、コンパスの差す方角へと飛び立った。
しばらく飛んだ先に見つけたのは鉄でできた大きな町だった。
前衛的な鉄のオブジェが並んでおり、そこに人が出入りしているのを見るにあれらは家だと推測される。
中央に巨大なドームがあり、そこから放射状に伸びた道に沿って様々な建物が並んでいるようだ。
上空から見てみればそれは大きな円状の町であり、外縁部が港となっていてたくさんの船が停泊している。
こっそり入り込むことは可能だが、万が一透明化を看破とかされると面倒なことになりそうだし正攻法で入った方が良いだろうな。
そうだ、この世界の人たちがどんな船に乗っているのか見学させてもらうか。
パッと見た感じ……普通に見慣れた船もあるが、基礎の部分の上に大きな箱?が乗ってる形の物が多い。
気になったので、透明のままふわっと降りてみた。
甲板に降りて扉を開け……うん、鍵かかってるな。
あ、そういえば[変幻自在]は物をすり抜けることが可能って……ああ、こうだな。お邪魔しまーす。
扉をすり抜けて中に入ると、そこは居住空間となっていた。
ベッドやテーブルなんかの家具が一式揃っていて、鉄の床の上に贅沢に毛皮の絨毯が敷かれている。
整頓されているとはお世辞にも言えず、あちこちに物が散乱していて生活感がある。
船の上で生活する時間が長いから船内は快適に過ごせるようにしてるんだろうなあ。
机の上に散らばっているのは……画材か。
キャンパスと筆やパレット、色は……これは粉?を水に溶かして使ってるのか。
絵自体は見当たらないな、ちょっと見てみたかった。
ふらふらと部屋の中を見て回ったけど、特にこれと言って面白い物は見当たらない。
他の船も見に行こうと思った時、ふと壁のとある部分に目がついた。
ここ、よく見たら汚れが変に途切れてるな。
もしかしてここ隠し扉とかになったりする?
と思って押したりしてみたけど何も起こらなかったので……ここは便利な[変幻自在]で壁をすり抜けて、と。
壁の向こうには人1人分のスペース、そして床には下へ降りる梯子。
隠し空間……いや普通に整備室か?
でもこういうのってわくわくするよな。
下は真っ暗だったのでライトの魔法を出して、と。
梯子を下って空間を照らしてみると、そこには上から下までギッシリと箱が置いてあった。
何かの保管所?近付いてよく見てみる。
うーん……石、かな?色とりどりの石が箱の中に埋まってずらりと並んでいる。
上の段には底が網目になった箱に入ったカラフルな石、その下の段には空き箱がありそこに上の段からパラパラと少しずつ粉が落ちている。
石が自動的に粉になって下に落ちてる……?別に削る機械があるわけでもないのに。
まあ、異世界だしな。どんな不思議があっても受け入れないと。
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