第22話 襲撃

 

アメルダに王都に行きたい件を相談してみた。


「王都に入るには身分証を偽造しなければならないし、中に入るのにも金がかかる。高いぞ?」


「いくらだ?」


女神からの初期配布とフリマで稼いだ金がいくらかある。

あれから毎日おにぎりとかハンバーガーとかを1つ銅貨1枚でフリマに出しているから小銭稼ぎは万全だ。


「王都に入るだけであれば小金貨1枚で良いが、身分証の偽造が問題だ、金で解決できる話ではない」


話を聞いてみると、王都では全ての民が身分証によって厳重に管理されている。

その身分証の偽造は大変なことで、偽造した側も使った側もバレれば極刑だ。

リーフに協力してくれている商会はそういったことに長けているが、リスクも加味して要求される品を集めるのは大変だ。

前回に依頼した時は、スイートトレントキングを丸ごと要求されたらしい。


スイートトレントキングは、スイートトレントの数ランク上の上位種。

その樹液を固めて飴に加工した物が貴族の間では流行っているそうだ。

ちなみに貴族は根っこをしゃぶるなんて行為はしないらしい、樹液を絞った後の残りかすは廃棄場行きなんだとか。

サイズが大きいため木に擬態していても『こんな所にこんな大木あったか?』と疑問に思うので見つけること自体は簡単なのだが、出現率がそもそもとても低い。

そしてとても強く、まともにやり合うと何人か死ぬそうだ。

それに丸ごと綺麗な状態で要求されているため、できる限り傷を少なく急所を的確に突かなければならない。

つまり、とても難易度が高い、ということだ。


「しかも要求される品は毎回違う、今回は何を要求されるかも分からないぞ。それにお前の身分証のためにうちのメンバーを何人も犠牲にする気は無い」


まあ、それはそうだろうな。

臨時で滞在しているだけの人間の為に命を捧げろなんて流石に言えない。


「こっちから対価を提示することはできないのか?」


「できなくはない。が、相当価値のある物でないと難しいだろうな」


いつもの倉庫でテーブルにつき、紅茶を飲みながら話し合いを続ける。

相手は王都でやり手の商会だ、ちょっとやそっとの物では心を動かせない。

例えば今飲んでいる紅茶も、ここでは手に入らない物だが王都に住んでいれば手に入れる機会はある。


「貴族向けなら宝石とかアクセサリー、ドレスとか色々あるけど、平民向けだと何が価値がありそうだ?」


「食べ物と酒だな」


また食べ物か。

コロニーでは酒は滅多に手に入らないが、王都では平民も金を出せば酒を飲める。

人々は日頃の鬱憤ややり切れない思いを酒で流し込むように飲むらしい。

しかしそうなると高い酒ではなく、安酒で充分だ。


「貴族向けに絞ったらどうだ?あの商会は貴族に伝手がある」


「なら宝石とかドレスか?」


「私なら食えもしない石ころと布に価値を見出さないが……貴族は見栄を大事にするからな」


いくつか創造して品評会をしてみたものの、どれもしっくり来ない。

というのも俺たちがこれらの魅力や価値を知らないからだ。


結局しっくり来ないままだったが、ひとまず交渉するためにアメルダに王都まで向かってもらった。

俺は身分証が無く王都には入れないため、アメルダだけで行ってもらうしか無い。


アメルダが出かけた翌日のことだった。


「襲撃、襲撃!戦闘員は配置につけ!!」


そんな声が響き渡ったのは朝食を食べ終わった直後の食堂でのこと。

戦闘員たちは慌てて外に走って行った。


「行って来る。リオはここにいて」


「ああ、気を付けて」


ニアノーも普段は俺のお目付け役として一緒にいるが、戦闘員なので襲撃があった際は戦わなくてはいけない。

俺はニアノーの強さをよく知らないので不安だが、襲撃自体は時々あることらしい。

非戦闘員たちも少しざわついたものの、もし表が突破された時のために武器や防具を用意しに行った。


「リオさん」


不安そうな表情のイチノセが話しかけてきた。

転生者滞在組たちとはちょくちょく話すが、そう深い話はしない。

彼らはよく5人集まって話をするそうだ。


「襲撃って、相手は誰なんですかね……?」


「魔物のパターンが多いらしいけど、たまに他のコロニーや教会連中からも襲撃を受けるらしいからねぇ」


エナ、カタリナが話す。

滞在2日目にゴブリンの襲撃があったが、その時はここまで騒がしくなかった気がする。

いや、あの時は俺は個室にいたから騒ぎを知らなかっただけか。

あの時と同じ規模なら上位種を倒せばすぐ収まるはずだ。

ただ、アメルダがいないことだけが気がかりだった。


少し経った頃、ニアノーが慌てた様子で戻って来た。


「リオ、たすけて!」


それを聞いて俺は反射的に立ち上がり、ニアノーと共に走り出した。

ニアノーは色々と俺のチートな面を見せている、俺に助けを求めるということはそれらを頼りにしているということだ。


「何があった?」


「火をつけられた、村が燃えてる!」


「消火だな、分かった!」


全力で上に向かい開けっ放しの扉から出る。

すると出た先の集会場にも既に火の手が回っていた。

急いで[創造魔法]を行使して、消防車の放水をイメージして水を撒く。

しかし……──


「火が消えない……!?」


水をかぶった火は消えるどころか弱まる素振りすら見せない。

おかしい、普通の火なら消えるはずだ。

つまりこれは普通の火じゃないのか……?

考えるのは後だ、今はこの火をどうにかしないと!


水がダメなら消火器……火を消す……いや、固定概念に囚われるな、火が消滅すれば良いんだ。


「火を指定して『収納』!」


[亜空間収納]で火を収納すると、一瞬で火が消え去った。

よし!そのまま扉を破る勢いで外に出ると、火の手が村中を焼いていた。

やぐらも外壁も木でできているためそれらにも燃え移っている。

視界に入る全ての火を収納して消していく。

全ての火を消して、ようやく一息吐けた。


「村の家はともかく、外壁とやぐらは火に強い木材を使ってるからそう簡単に火はまわないはず。どうしてこんなに早く燃えた……?」


ニアノーが思案しているが、それより俺は別のことに意識が向いていた。

リーフの構成員たちが火に巻かれたことで火傷を負いながらも武器を持ち索敵をしている光景。火傷が酷い者は地面に転がっており、それらを拠点へ連れ込む暇も無く右往左往していた。


ぞっとした。

この光景を引き起こした存在が近くにいる。

異世界に転生したとは言っても、俺はチートで美味い飯を食べ安全でふかふかであったかいベッドで眠り、戦闘とも呼べない一方的な殺戮でレベルを上げた。

今、俺は異世界にいるのだという自覚が足りていなかった。


その時、前方から火の玉が飛んで来た。

あれがこの村を焼いたのか!

咄嗟に収納して消し去る。

その方向に敵がいると判断して、走り出した。

俺は結界スキルがあるから怪我は負わない、ここで前に出るべきは俺だ。

ニアノーも後ろから付いて来ている気配がする。


崩れ落ちた外壁の先にいたのは、見たことのある顔だった。


「あれ?生きてるじゃないか。ちゃんと燃やしてくれないと困るよ」


金色の髪に整った顔立ち。

そいつはこの拠点から出て行った転生者の1人、俺をリーダーだと偽って売った男だった。

その男の肩に炎に包まれた体の小さなマスコットのような存在がいる。


「お前がみんなを燃やしたのか?」


「見れば分かるだろう?正確には僕じゃなくてこの子だけど」


と悪びれもせず言い、肩にいる奴の頭を撫でた。

後ろでニアノーが『精霊……』と呟いているのが聞こえる。


「どうだい?これが僕のスキル、【精霊使役】さ。切り札は隠しておくものだからね、あの時は言わなかったんだよ。レベルが上がってこの子も強くなったからお披露目会さ」


「うるせぇ黙れ、お前は敵だ」


【パラライズ】【スキル禁止】【魔法禁止】【ステータス低下】のデバフコンボを叩き込み、精霊の方はデバフが効くか分からないのでサクッと収納させてもらった。

何が起こったか分からず地面に倒れ伏す金髪をアメルダを拘束した時と同じ自動拘束ロープで拘束して、戦闘終了だ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る