第21話 レベルアップ、ニアノーとの関係
ところで、今俺の隣にはニアノーしかいない。
あれから毎日俺の箱庭に訪れ、たっぷりシロとクロと遊び美味しい飯を食べている。
彼は美味しい思いができるならばアメルダへの報告を忘れてしまうという良い性格をしており、俺が多少何かをしても口外しない。
裏で報告されていたら分からないが……表向きは俺へ協力的だ。
つまり、俺がちょっとチートを発揮しても見逃してもらえる可能性が高い。
しかし念には念を。
俺は[万能創造]のカタログを開いた。
おすすめのおやつ、クッキー。
塩気のある物も美味いのだが、甘くてバターの香りが芳醇な物が好きだ。
ならばこれだろう、スーパーで手に入る満月を模した黄色くて丸いクッキー。
これを創造してニアノーに渡した。
ニアノーはハッとてそれを受け取り、早速中身を開けてにこにこ笑顔で食べ始めた。俺が黙って食べ物を差し出す時は、今から起こることは他言無用の合図だ。
さて、と。
[創造魔法]を行使して魔法を作成する。
1度放てば自動で魔物を感知して追尾、撃破する攻撃魔法。
それを[無限魔力]に物を言わせて大量に放った。
宙に次々光の矢が生み出され、霧の中へ放たれて行く。
それをしばらく見守った後、今度は[亜空間収納]だ。
これは目視できる範囲にあるものなら念じるだけで収納可能。
つまり、実際に目視できていなくても『目視できる範囲』にあるなら良い。
『俺が倒した魔物の死体』を指定して、収納!
[亜空間収納]の中に大量に魔物の死体が収納されていく感覚がする。
「なにしたの?」
「こっち方面の周辺の魔物を一掃した。……おっ、レベルが9になったぞ」
ステータスを確認してそう言うと、ニアノーは唖然としていた。
「い、今の数秒で?」
「そうだな。ニアノーは何レベルなんだ?」
「36……」
ふむ。
十数年ここで生きて来たニアノーでも36か。
この世界ではレベルは上がりづらいのかもな。
「三分の一以下か。何度か繰り返すか?」
「倒した死体はどうしたの?」
「収納の中にある。心配しなくてもそっちに渡すよ」
俺が周辺の魔物を狩り尽くして素材を独り占めしてしまうと彼らが困ってしまうからな。
食べる物が無くなってしまう。
その後何度か位置を移動し、別の方角へ向けて自動感知追尾光の矢を何度か放った。
その結果、レベルは15になった。
やっぱりレベルが高くなると上がりづらいみたいだ。
しかしニアノーへは口止めしていたものの、他のリーフ構成員たちには何の根回しもしていない。
結果、周辺の魔物の反応が一斉に消えたと騒ぎになった。
それに魔物の死体は引き渡すとはいえ、一気に引き渡すと一掃したのが俺だと確実にバレる。
なので結局毎日数体ずつ魔物を解体部屋に渡すことになったのだった。
次の日。
やはり米の追加発注があったので、魔物の素材と交換で承諾した。
一通り手に入れた今となっては[万能創造]でいくらでも創造できるが、タダで渡すわけにはいかないからな。
米の引き渡しの際にそういえば、とアメルダから話を振られた。
「昨日、周囲の魔物が一掃された件は知っているな?」
「ああ、あれだけ騒ぎになってればな」
何かの異変の前触れかとか、それより強力な魔物が現れたのかと拠点内は騒然としていた。
俺の仕業だとバレたら怒られそうだ。
「その時近くにいたハンターと戦っていた魔物も光の矢に射抜かれて消えてしまったそうだ、我々の仕業ではないかと抗議に来た。あちらからしてみれば獲物を横取りされたも同然だからな。ところでその日お前は狩りに出ていたそうだな。何か知らないか?」
「いや、知らないな」
真顔で否定しておく。
アメルダの口ぶりから察するに俺の仕業だと察していそうだが、俺が肯定しないことが大事だ。
「そうか……。ハンターたちにとって依頼の魔物を横取りされるのは死活問題だ。二度とこんなことが無いように願いたいものだな」
「そうだな」
うん、バレてるな。
あの戦法は封印だ。
異世界に来て10日ほどが経った。
他の転生者の滞在組とはつかず離れずの距離感で、ニアノーには何故か懐かれている。
あれ以降アメルダとも険悪な雰囲気になっていない。
ところで俺が作った水浴び場は転生者以外も使っているらしく、しょっちゅう水を補給しに行く必要が出てきた。
転生者たちのために作った物なので文句の1つでも言おうと思ったが、水浴び場を利用した人たちが好意的に感謝してくれたりするので何も言えず黙って水を補給しに行く羽目になったのだった。
まあ、そもそも勝手に部屋を拡張してスペースを使わせてもらってるしな……。
拠点での生活は不便だが、俺は夜になれば箱庭に戻れるので今のところ生活には困っていない。
ところで、少し気になる噂を耳にした。
俺とニアノーが、そう、親密な関係だと言う噂だ。
というのも、俺とニアノーは毎晩一緒に個室に入り、数時間出て来ない。
その個室はベッドすら置けないような狭い部屋で、男2人でいったい何をしているのか?という話になる。
体と体の関係……色々と発散しているのでは……という話になるのは必然的だった。
実際は箱庭に行っているところを見られないように個室に入り、すぐに箱庭に転移。
その後広々とした空間でシロとクロとたくさん遊んで美味しい食事を食べているだけなのだが、そんなこと知らない人たちからしてみれば邪推し放題だ。
それに普段も常に一緒に行動しているし、心を許してきたのか距離感も近い。
いずれここを離れる俺がどう思われようとなんとも思わないが、ここに残ることになるニアノーが色々言われるのは不都合があるのではないかと思った。
そのことを話してみると、ニアノーは落ち込んでしまった。
「そっか、リオは出て行くんだね」
どうにも俺が近いうちにここを出て行ってしまうことが気になっているらしい。
「俺とどうこう思われてるのは構わないのか?」
「べつに」
そういえば、ここでは男でも性奴隷になるような世界だ。
男同士で体の関係を持つのはそう珍しいことでもない……のか?
それとも言いたい奴には言わせておけ、ということなのだろうか。
誤解は解いた方が良いと思うのだが……。
ともかく、ニアノーが気にしていないのなら別に構わない。
気にしているようなら個室に一緒に入ることはやめて、何か別の方法を考えなくてはならないところだった。
「コロニーの利益のために、リオにはできるだけ長く残ってほしい。俺はなにをすればいい?」
じっと見つめられてそう言われる。
反射的に『じゃあ体を差し出してもらおうか』などと言いそうになるが、今はそんな冗談を言う場面ではない。
それにあんな話をした後だと本気だと思われそうだ、今ここで服を脱がれても困る。
「悪いが元々長く滞在する気は無いんだ。だけど、定期的に来て品物を卸すことはできる」
そんな面倒なことしたくは無いというのが本音だが、ニアノーが悲しそうにしているのを見て少し情が湧いてしまった。
俺は[転移]で一瞬で移動できるから、どこにいても物を渡しに来ることは可能だ。
「……利益のためって言ったけど、俺はリオと離れるのすごく悲しい」
向こうも思っていたよりも俺へ懐いていたらしい。
毎日の地球の食事が食べられなくなるからだろうか?それともシロとクロと会えなくなるからか?犬組と随分と仲良くなってるしな。
「まあ、今はまだ出て行く日も決まってないんだ。先の話だよ」
「……うん」
問題を先送りしたとも言うが、まだ具体的にいつ出て行くかは決まっていないのは本当だ。
大体この世界のことも分かってきたし、今度は王都の様子を見て回って場合によってはそこに滞在、もしくはまたここに戻って来ないといけないしな。
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