第20話 ワインと和解
「美味い……これがワイン……?美味すぎる……」
「しぶい」
アメルダは感動しているようだが、ニアノーの口には合わなかったようだ。
それでも貴重な物だからと飲み干していた。
ニアノーはもう良いそうなので、俺の分とアメルダのグラスにお代わりを注ぐ。
あれ、ニアノーって未成年だよな?酒飲んで良いのか?
……まあ良いか、ここは異世界なんだし日本の法律は適応外だ。
「これは……もしや原液なのではないか?」
「原液……?濃縮ワインとかじゃなくて普通のワインだけど……」
濃縮ワインなんてあるのだろうか?
水で薄めるワイン……?味が薄そうだな。
「ああ、いや。水で割った物では無いよな?」
「見ての通りだよ。ボトルからそのまま注いでる」
「そう、そのボトルも素晴らしい。触らせてもらっても?」
「良いけど」
ボトルを手渡す。
お高いワインはボトルもスタイリッシュだ。
特にこれは真っ黒なボトルに、白のシンプルなラベルにクールな鳥のイラストが描かれた物。
そしてワインは濃いルビー色が美しい。
「そしてこのコップだ、これは……何だ?透明で薄くて涼しげでワインがよく映える……」
「ガラスのワイングラスだよ」
「ワイン……グラス?わざわざワインを飲むためだけに希少なガラスをこのように加工したのか!?こんなことしたらすぐ割れてしまうだろう、正気の沙汰とは思えない!」
アメルダが絶好調で騒いでいる。
確かに今回は偽装するのを忘れたな。
でもワインはこのワインボトルに入ってるからこそ高級感が出るし、ワイングラスで飲んだ方が美味しいと思った。
「だから何度も言った。リオをもっと丁重に扱うべきだと」
「しかし、いや、そうだな……私は異世界の商人を甘く見ていたようだ。他の世界などと言ってもたかが知れているだろう、と。この辺りでは我々のコロニーが1番だという自負もあったし、負けたくない気持ちがあったのだろうな……」
そう語るアメルダはやはり少し悔しそうだったけど、彼女との間のわだかまりが少し解けたような気がした。
それから少し話を詰めた。
米はひとまず全員に行き渡るように食べてもらい、反応次第で追加発注。
ご飯のお供、カロリーフレンドは一部の信頼できる者のみに食べてもらい、転生者の目には入れないようにする。
他の転生者には俺が前世の店の商品を持ち込んでいることを話していないから内密にしてほしいと話しておいた。
米の入手先を聞かれたら、他国の商人から購入したと言ってもらう。
他国には実際に米があるらしいからな。
それに今までも珍しい物を他のコロニーや行商人から購入したり交換することがあったそうなので、不思議には思われないだろう。
こんなご時世に行商人なんているのかと思ったが、意外にもいるらしい。
魔物に負けない腕を持つ護衛と防護マスクの結界フィルターに神聖力を定期的に補充できる聖女聖者、そして荷物を収納しておける収納スキルがあれば行商は充分可能なんだとか。
その日の夕飯時に全員におにぎりが配給された。
作成時はちゃんと監督していたので、多少硬くできてしまったものの問題無くおにぎりが完成した。
石鹸も無い状態で水だけで手洗いして素手でおにぎりを握らせることに不安はあったが、彼らはスライムの皮をよく洗って手袋状にして利用していた。
確かにあれなら素手で触らないで良いし、いやしかしスライムの皮か……大丈夫か……?集団食中毒とかになったら全滅するぞ。
そして問題の実食だが、食堂の端で見守っていた俺にも分かるぐらいに好評だった。
ただの塩おにぎりなのだが、臭い干し肉と臭い豆スープしか食べてないような人からしてみれば天地の差があるだろう。
俺も食べてみたが、噛めばほんのり甘みがあるボリュームのある穀物が塩気でいただける……うんうん、やっぱり米は良いな。
これは今後も食べられるのかとキッチンの人が詰められており、反応次第で追加で仕入れられるかが決まると話していた。
まあ、この様子じゃ追加発注されるだろうな。
その次の日、リーフの土属性魔法使いが帰って来た。
隣のコロニーに応援に行っていたらしい。
業務の引き継ぎと拡張や加工した場所なんかを拠点を周りながら報告して、それで俺に与えられた仕事の1つは終了した。
「次の仕事なんだけど、狩りに行ってみない?」
「狩り?」
ニアノーにそう提案された。
俺の戦闘力はゴブリン相手に追い払うことしかできない程度だ。
しかしそれはスキルや魔法を使わずに戦った場合に限られる。
アメルダやニアノーには俺が相手を痺れさせるスキルを持っていることは知られているので、それを活用できないかという話なんだろう。
だが外に出ると常時展開している俺の結界スキルがバレる可能性があるな。
流石に、常に無敵です!攻撃通りません!をそう簡単に知られるわけにはいかない。
そうなると結界を解除して戦うことになるが……ちょっと怖い。
魔物の素材を受け取った時に説明を受けたが、トレント系統の魔物は木に擬態していたりウルフ系統の魔物は木々の隙間を縫って走って来たりと中々に戦闘初心者には厳しい。
【パラライズ】を使う間も無く攻撃されたら痛いよなぁ。
いくら死なないとはいえ痛覚が無くなるわけではない。
言葉を濁して断ってみると、じゃあ俺の戦闘能力を見てみようという話になった。
訓練場は広々と空間が取られており、地下生活でも発散できるように運動ができるようになっている。
その一角を借りて、俺とニアノーは木剣を持って向き合った。
ちなみに結界スキルは解除してある。
「スキルと魔法禁止、普通に打ち込んできて。俺は反撃しないから」
「分かった」
人に、ましてや自分より年下の子に暴力を振るうのは気が引けるが……そんな感情を抱くのは異世界では命取りになるんだろう。
できるだけ頭や急所は狙わないようにして、駆け込んで何度か打ち込んだ。
割と本気で力を込めていたのだが、その全てをニアノーは軽く防いでいた。
えっ、もしかして腕力でも負けてる?
5分ほど打ち込みを続け、こっちの息が切れてきたので一旦止めた。
すると、ニアノーは悩むような素振りを見せて言い辛そうに。
「よわい」
と言った。
「俺のいた国では1度も暴力行為をしないで一生を終える人もいるぐらいに平和な国なんだ。俺も人に攻撃したのはこれが初めてだ」
男として生まれたが俺はずっと事なかれ主義で生きてきたため1度も暴力行為に関わらなかった。殴り合いの喧嘩すらしたことが無い。
だから相手を痛めつけるのも苦手だし、俺が痛い思いをするのも苦手だ。
「レベルは?」
「確か……1だったな」
そう言うと、ニアノーは絶句した。
そんなに衝撃的だったか?
「1って……子供でももう少し高い。1度も魔物を殺したことないの?」
「……無いな」
ニアノーが言うには、レベルが上がると身体能力が上がるそうだ。
だからこれまでこの世界で生きて戦ってきたニアノーは、俺より細腕で弱そうに見えるのに随分と強いらしい。
「なおさら狩りをした方がいい。大丈夫、俺がサポートする」
そう言われて、俺は渋々狩りに同意することになった。
防具をつけて、防護マスクをしっかり装備する。地下拠点の外は結界装置の範囲外で瘴気が蔓延しているからな。
そして女神からもらったただの鉄の剣を持って、階段を上がっていった。
地下拠点への入り口は、村の集会場の中にあった。
床にある扉を開けると地下への階段が現れる。
拠点への出入口は複数個あり、ここはメインで使われている第一出入口だ。
俺のような新参者は警戒されて他の出入口は明かされていない。
それら全ての出入口に見張りが立っていた。
村の中を歩いていると、あちこちに見張りがいることが分かる。
あの時、俺たちが村に侵入した時は村に入る前から捕捉されていて、油断させるためにみんな隠れていたそうだ。
よく見ればやぐらもあるし、外壁の上に昇れるように足場も組まれていた。
それを見てふと思った。
「わざわざ剣で斬りかからなくても、上から遠距離攻撃すれば良いのでは?」
「えっ、……やってみる?」
と言われたので、外壁に上がらせてもらった。
高い所に昇れば遠くまで見渡せると思っていたのだが、周囲には霧がうっすらと蔓延していることを忘れていた。
近くは見えるものの、遠くなるほど霧で見えなくなっていた。
「……見張りはどうやって接敵を確認するんだ?」
「足音や魔力反応を遠くから察知するスキルや魔道具がある。この魔道具は高価だけど、王都の伝手で手に入った」
なるほど、目視だけじゃないのか。
しかしこれじゃ遠くから発見して一方的に魔法で蹂躙は難しいな……。
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