第19話 取引と酒
「ほんとに魔力多いね……これならもっとお仕事お願いできるかも?」
「やめてくれ、過労死させる気か」
「冗談だよ。決められた仕事さえすれば文句はないから」
ニアノーと軽口を叩き合う。
水が汚れるから溜めてある中には入らないこと、バケツで掬って水を浴びること。
使用後の水が未使用の水の中に入らないように徹底すること。
俺は毎日夕飯前に水を補充しに来る、俺の水浴びはその時にさせてもらう。
洗濯は土桶を用意したのでそこですること、干すのは盗難防止で自分の部屋すること。
(俺たちが最初から持っているのは着ている服だけだけど、臨時の構成員となると決まった時に着替えはもらったらしい)。
等の諸々の話をする。
転生者5人は喜んでいた。
「リオさん、本当にありがとうございます」
「これでやっとサッパリできるねぇ!助かったよ」
まずは作った俺からということで、水浴びを勧められたので軽く水浴びをすることにした。
後で風呂に入るつもりだが、みんなにはそれは言えない。手早く済ませるか。
実際に使ってみて色々と気になるところがあったので、ちょこちょこ直していく。
土で囲いに蓋をして使用済みの水が入らないようにしたり、地面がそのままだと土がつくので魔法でつるつるに固めたり、万が一誰かが入って来れないように内側に土で作った閂を作ったり。
やっぱり使ってみないと気付かないところってあるもんだな。
サッと水浴びしてから出ると、5人はじゃんけんで順番を決めていた。
その後全員が水浴びし終わるまで待ち、不便が無かったか聞く。
細かな修正をして、少し雑談をした。
その際飯の話になったので、ふと思いついたことを話してみた。
スマホのフリマ機能に、どうやら日本の食べ物が出品されているらしい、と。
数はそう多くなくいつも出品から10分程度で売り切れているが、これまでおにぎりとハンバーガーが出品されていたらしい。
彼らはスマホの掲示板は見ていなかったみたいで、驚いていた。
直接渡すことはしないが、間接的に言うぐらいなら俺へと辿りつかないだろう。
あとは自分で頑張って手に入れてくれ。
ようやく仕事も終わったのでニアノーと別れて箱庭に戻った。
シロとクロの大歓迎を受けて考える。
2匹も定期的に洗った方が良いよな?
思い立ったらすぐ行動、庭にシャワーの場所と排水設備を整えた。
2匹を犬用シャンプーで洗い、魔法で温風を出して乾かしてやる。
その後庭の真ん中にどでかいテントとでっかいベッドを設置し、みんなで眠った。
そんな生活を2日続けて、アメルダとの約束の日になった。
俺はいくつかある倉庫の中にアメルダとニアノーと共にいた。
「リストに載っている物は全て揃えた、確認してくれ。もちろん全て浄化済みだぞ」
倉庫には綺麗に魔物の素材が並べられていた。
俺は1つずつリストと照らし合わせて確認していく。
リストにはその素材がどう使われるかなどが書かれており、分かりやすい。
ゴブリンが多いのは分かっていたけれど、ムッシュマッシュの他のキノコ系魔物、スイートトレントなどのトレント系の魔物、それとウルフ系が多いようだ。
スライムはどこにでもいるとのことで、この辺りではウォータースライム、アーススライムなど。
そして魔物化した元動物たち。
魔物化した元動物は肉は美味いが皮や骨は魔物に比べれば質は劣るらしい。
注目したのはやはりディアベアー。
これは鹿なのか熊なのかと気になっていたが、どうも鹿がメインらしい。
しかし腕や足が太くて熊のように頑丈で力が強いそうだ。
皮はしっかり処理すれば頑丈な防具になり、角はすり潰して粉にすれば薬になる。
肉は言わずもがな美味しくて、ほとんど王都の協力者へ流す物となる。
今回はこれも揃えてくれと言っていたので、昨日獲れたばかりのディアベアーの肉があった。
約束通りの物を揃えてくれたので、こちらからはカロリーフレンド300箱と米30キロとご飯のお供3つを10セットを引き渡す。
米の炊き方のメモも一緒に。
「それと、これは例の件の詫びだ」
そう言ってアメルダは陶器の瓶を差し出してきた。
「例の件とは?」
「その、ほら、時間を測る道具……あれの価値をお前が知らないことにつけ込んで騙し取ろうとしただろう?」
ああ、確かあれは貴族でも持ってない最高級のインテリアになるんだったか。
確かにあれで気分を害したが、すっかり忘れていた。
「この世界では搾取する側と搾取される側に分けられる。知らないということは罪であり、搾取され滅ぶものだ。我々はずっとそうして生きて来た」
聞けば聞くほど世紀末な世界だな。
「しかしニアノーに言われて気付いた。そもそもお前たちはこの世界に生まれ落ちて数日しか経っておらず、赤子と何も変わらない。生まれたばかりの赤子に無知を責めるのは酷というものだ」
……赤ん坊扱いされてる。
怒るべきところか?しかし何も知らないのは事実だしな……。
「だから私は反省した。もうお前たちの知識が無いことにつけ込んで騙したりしない。これは詫びの品だ」
「なるほどな、話は分かった。で、これは何だ?」
「前に少し話しただろう?一部の者たちの間で僅かしか流通していない希少な酒だ。酒にも興味があると言っていたのを思い出してな」
確かにそんなことも言ったな。
となると相当希少な物だということか。
「スパベリーを食べただろう?あれが完熟したら甘みが増す。しかし完熟したかどうかを見極めるのはコツがいるんだ。それをたくさん使った酒だ」
説明を聞きながら蓋を開けてみると、ベリーの甘酸っぱい香りとアルコールの匂いがした。
好きなタイプの香りだな、美味そうだ。
度数が高いとあれなので、少しだけ口に含んでみた。
すると、あの酸っぱすぎるスパベリーとは比べ物にならないぐらいに甘い風味が口に広がる。
酸味は随分とマイルドになっているが、かといってスパベリー特有の甘酸っぱさは失われておらず、そして割と強めのアルコールがじんわりと口内から喉へ、胃へと染み渡った。
「驚いたな、これはだいぶ美味い」
「そうだろう!うちで生産している物だが、スパベリーの採れる数が少ない上にほとんど王都へ流してしまうから私でも滅多に口にできないんだ。酒は好きなんだがな……せめてスパベリーの量産が叶えば……」
くぅっ、と悔しそうな顔をするアメルダ。
スパベリーというのはそんなに栽培が大変なのだろうか?
それはともかく、そんな貴重な酒を飲ませてもらって誠意は伝わった。
俺は[万能創造]のカタログを開いた。
俺は酒は好きだ、割となんでも飲む。
その中でもワインが好きなのだが、ワインは上を見たらいくらでも高値になるから厄介なんだよな。
しかし今は何でもタダで創造できる。
普通に買えば1本1万円以上するそれを、ソムリエナイフとワイングラスと共に創造した。
そしてテーブルと椅子を創造して設置する。
「貴重な物を飲ませてもらった返礼だ、ワインを開けるから座ってくれ」
「ワイン……ワインだと!?それはもしやブドウの酒か!?」
興奮しながらもどかっとアメルダが座る。
ニアノーもちょこんと座った。
「この世界にもワインはあるのか?」
グラスをテーブルに置き、ソムリエナイフでコルクを抜きながら尋ねると、興奮したように返事が返って来た。
「もちろんだ!!この国ではワインを飲めるのは王都の住民の特権であり、厳重に管理されていて王都の外へ出回ることは無い。私も王都に行った際に数回だけ飲ませてもらったことがあるのだが、それの美味いこと!ここでも生産できないかと何度も考えたが、ブドウの木の苗は手に入らなかった。あれを外に流すと極刑に課されるからと意地でも首を縦に振ってもらえなかった」
それを聞きながらワインを注ぐ。
ワインを注ぐコツは、まずテーブルに置いてサービスすること。
空気に触れるように注ぎ、グラスに対して3分目程度に注ぐこと。
そしてボトルを捻るように注ぎ切ること、だ。
ワインが空気に触れることで香りが引き出され、味わいがまろやかになるらしい。
ちなみに俺はそんな繊細な変化は分からないので完全に受け売りだ。
「さあ、飲んでみてくれ」
と言ったが、アメルダとニアノーはグラスを見つめたまま動かない。
なのでまずは俺が、とグラスを持ちスワリング……グラスをくるくる回しワインを空気に触れさせる行為……をしてから一口。
ベリーやプラムのような果実が凝縮された風味が広がる……舌触りも良く、飲み込むと心地良い余韻が続く。
普段飲んでる安ワインとは全然違う、美味い。
それを見て2人はたどたどしい手付きでグラスを手に取った。
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