第23話 転機

 

焼け落ちた残骸を収納していきながらニアノーの話に耳を傾ける。

精霊は魔法ではなく精霊術を行使し、それらは普通の理で顕現しているわけではない。

精霊術で出した火は精霊術で出した水でしか消火できず、例え燃えづらい木であろうと精霊の理で顕現している火は素材の性質に囚われず燃やし尽くす。

精霊は人に見切りをつけ姿を現さなくなって久しく、おとぎ話でしか聞いたことがないんだとか。


燃え跡となった村、焼け崩れた外壁、酷い火傷を負い広場に寝かされる構成員たち。

火を消したとは言っても熱気と肉が焦げたような臭いが充満しており、俺は言葉を失っていた。

あの金髪が何を思ってここを襲撃したかは分からない、あいつはぐるぐる巻きに拘束されて村の牢獄にぶち込まれたから後で誰かが尋問するんだろう。

どんな理由があったとしてもここを襲撃し、多数の人たちを傷付けた事実は変わらない。死者が出なかったことは幸いとはいえ、許されることではない。


俺は考えていた。

俺なら彼らを助けることができる。

傷を癒し、村や外壁を堅牢に作り変え、二度と誰も傷付かないようにすることができる。

ここのコロニーに情でも湧いたか?

いや、違う。

俺が気に入らないんだ。


他の世界から転生してきたとか言う得体の知れない人間を懐に入れ、飯を食わせ結界内で瘴気から守ってくれるような奴らだ。

食べ物を提供しているとはいえ、それは対等な取引でのこと。


俺はまだ、ここに滞在させてもらっている対価を渡していない。


考えがまとまった後は、行動は早かった。

ゲームの回復魔法をイメージして[創造魔法]を行使する。

光のヴェールが空を覆い、キラキラと光の粒子が舞い落ちる。

それらが怪我人の体に触れると、すぅ……と怪我は跡形も無く消えた。


「え……?」


「これは……?」


「奇跡だ……」


困惑する構成員たち。

それを横目に、まずは崩れ落ちた外壁を全て撤去する。

そして土魔法を使って大量に土を出し、どんどん固めて壁を作っていく。

これでもかと固めて頑丈に、火に強いように土で作る。


やぐらも土で1から作り、崩れ落ちた家たちも元の場所に、できるだけ元の形になるように外観だけだが土で修復した。


「さすがに黙ってられないよ?」


「ああ、これらに関しては秘密にしなくて良い」


これだけの規模の土魔法を使ったとなると魔力が相当多い。

しかも、申告していない回復魔法まで使った。

それに収納スキルは本来物しか収納できないらしく、火そのものや精霊を収納したのは異例だ。

これだけの人の前で使ったんだ、流石に全員に黙っていろとは言えない。


徐々に周囲の人々は俺が事態を収束させ人々の怪我を癒したのだと気付き、涙を流して膝をついたり祈りを捧げてくる人もいた。


「ポーションっていうのがあるんだろう?あの火傷はポーションで治せなかったのか?だとしたら俺は余計なことをしたってことになるけど……」


「そんなに効果高くないし、ポーションは基本的に打撲とか裂傷に作用するもの。火傷には効果が薄い」


「そっか……」


あの時点では死人はいなかったとはいえ、重度の火傷は死に至る。

一目見ただけで目を逸らしてしまうような怪我の人もいたし、俺が回復させたのは無駄ではなかったはずだ。

しかしこれまで慎重に動いていたのに、結局力を少しとは言え人目がある状態で使ってしまったな。

この後の展開によってはすぐ[世界移動]を使うこともあるだろう。



[世界移動]

登録された異世界に移動することができる。



これは確認してみたところ、女神と話した時に確認した5つの世界を選ぶことができた。

なので俺はいつでも他の世界に逃げることができるのである。

その後ニアノーと話し合い、アメルダが帰って来るまで箱庭にいることを提案された。

構成員たち……怪我を治してもらった人たちが興奮しているので、それらを落ち着かせて事情説明をするのをニアノーが請け負ってくれた。

今にも構成員たちが興奮した様子で突撃して来そうなので、いつもの個室に入り箱庭へ転移した。


『ご主人だ!!今日はいつもよりちょっと早いね!?』


『お帰りなさい、ご主人様。……少しご気分が優れない様子ですね』


『そうなの!?もふもふする!?』


「おお、お前らは良い子だなー」


グレートピレニーズのシロとシベリアンハスキーのクロが俺を気遣ってすりすりしたりもふもふしたりしてくれる。

おお……これがアニマルセラピーか……。

どうしても地下拠点にいると陰鬱としてきていたし、しばらく箱庭で過ごすのも悪くない。

シロとクロがいるから1人じゃないしな。

この機会に手つかずの[特殊技能]たちを試してみるか。



次の日。

昨日は[変幻自在]で姿を変えて遊んだ。

犬や猫になることもできたし、もちろん人間や獣人にもなれた。

しかし獣人はまだしも完全に犬や猫になると四足歩行に慣れず、ひょこっと二足歩行になってしまうのが悩みだ。


[分身操作]は自分の分身を並列思考で操作できる技能。

それに思考や視界が二重になるのが最初だけ酔ったが、すぐに慣れた。

離れた場所で別々の行動をすることもできたし、この技能をもっと早く試していれば動きやすかったかもしれないな。


[眷属化]は[ユニット操作]と違い既にそこに存在する生き物が対象なので、まだ使っていない。

シロとクロは既に俺のユニットだから眷属にしなくても命令を聞いてくれるしな。


最後は[世界移動]だ。

これは後日にしようと思い、昨日はその時点で眠りについた。

今日はこれを試してみようと思う。


各世界のおさらいをしよう。


1つ目、王道の剣と魔法の世界。

過去に魔導文明が著しく発展しており人々は便利な暮らしを送っていたが、世界中が魔法を用いた大規模な戦争を続けていた影響で世界に満ちる魔力が澱み環境が破壊され尽くした。

その結果、後に世界粛清と呼ばれた神の裁きにより世界中の文明が滅んでいる。

その際の生き残りが細々と数を増やして1から文明を発展させていき、今の形に落ち着いている。

1番難易度の低い世界のため追加配布アイテムは無し。


2つ目、空と奈落の世界。

この世界は宇宙と惑星ではなく、無限に続く空と奈落で構成されている。

人々は浮遊島や浮遊大陸で生活しており、魔法の力で稼働する飛行船で島間を行き来している。

ドラゴンが多く生息しており、人々のパートナーとして一緒に育ち生活している。

追加配布アイテムは1人乗りの小型飛行船。


3つ目、海とダンジョンの世界。

大きな陸地というものが存在せず、金属でできた人工島で人々は生活している。

至る場所にダンジョンがあり、人々はそこから資源を得ている。

世界の性質上農作が難しく、野菜や果物や植物が貴重。

追加配布アイテムは1人乗りの小型船。


4つ目、瘴気で満ちた世界。

瘴気から発生する魔物が蔓延っており、人々は結界で覆われたコロニーと呼ばれる場所で縮こまって生活している。

コロニー間の移動も一苦労で、人々は結界を張れる聖女及び聖者を求めて奪い合っている。

追加配布アイテムは小型の携帯結界魔道具。


5つ目、ダンジョンに呑まれて世界中がダンジョン化した世界。

セーフティーエリア以外の全ての場所で魔物が発生し、あらゆる場所でトラップが発動する。

怪我をする確率が高いが、宝箱も定期的に発生するためトレジャーハンターが人気の職業。

地球のあらゆる常識が通用しない。

追加配布アイテムは宝箱感知レーダー。



今までいたのは4つ目の世界、瘴気で満ちた世界だ。

とりあえず一通りの世界をチラ見してみることにしようと思う。


っと、その前に。

[分身操作]で4人の自分を生み出した。

何かあった時のために、本体である俺は箱庭で待機。

分身は本体と同じ能力が使えるし、それぞれに自我があるわけではなく俺が並列思考で操作するので反乱とかの可能性も皆無だ。

……全く同じ黒髪の愛想の悪い人間が並んでいるとちょっと気持ち悪いな。


そして1人1人、[変幻自在]で姿を変えた。


 


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