第16話 白と黒のもふもふ

俺の顔を見るなり、グレートピレニーズが飛び付いてきた。

しかし一応勢いはセーブしていたみたいで、よろめきつつもなんとか受け止めることができた。


「うわっと、ふかふかだ」


真っ白な毛並みがもふもふでたまらない。

動物をまともに撫でるのは初めてだ。

動物は好きなのだが、地球では実家でも一人暮らししてからも動物と関わる機会は無かった。

シベリアンハスキーの方も尻尾を振って近寄って来て、足に頭をすりつけてきた。


「おお、お前ら可愛いな。よしよし」


その可愛さにデレデレしながら夢中になって2匹を撫でる。


『ご主人!』


「ん?」


頭の中に声が響いた。

少し高めの男の子の声だ。

辺りを見回すも、俺以外にはこの2匹しかいない。

そうだ、[ユニット操作]ではユニットと念話で会話できるんだったな。


「今のはお前か?」


『そうだよご主人!僕だよ!』


グレートピレニーズがぶんぶん尻尾を振ってわちゃわちゃしてくる。


『私はこっちです』


今度は落ち着いた男性の声がした。

ということはこっちの声がシベリアンハスキーか。

どっちも男なんだな、性別は特に指定しなかったけど。


「おおー、念話って便利だな。そうだ、名前をつけないとな。えーと、とりあえず落ち着いてくれ、お座り!」


指示を出すと、シベリアンハスキーは素早く姿勢を正して座った。

一拍遅れてわちゃわちゃしていたグレートピレニーズもサッと足を揃えて座る。


「よし、じゃあお前はシロ!お前はクロだ!」


お分かりだろう、俺にはネーミングセンスというものが無い。

2匹の色合いを見てそう決めてしまった。


『シロ!僕はシロです!』


『ありがとうございます、ご主人様。このクロ、誠心誠意ご主人様にお仕えします』


2匹は全力で尻尾を振って喜びをアピールしてくれている。

我慢できなくなって2匹に飛び込み、もふもふしたり転がりまわったりして全力で遊んだ。


その後、俺についてと今の状況について説明した。

犬に説明している姿は滑稽に見えるだろうが、2匹は賢いので説明したことをすんなり理解してくれる。

俺は地球の日本というところに住んでいたが、死んで異世界に転生したこと。

チートスキルをもらって過ごしていること。

この空間は能力の1つだということ。

基本的に2匹にはこの空間で暮らしてもらうが、俺は寝る時ぐらいしかここに来れないこと。


寂しいとは思うが、遊ぶ場所はたくさんあるし2匹いるから上手く2匹で遊んでほしいと話した。

そうだ、遊ぶ道具やエサも必要だよな。


加えてかじったりするオモチャや、ボールやフリスビー。

ドッグトレーニング用の用具なんかもあったので、ハードルを並べたりトンネルを設置したり、とにかく色々置いた。

知能を高くしたのに普通の犬用オモチャで満足できるのかと思ったが、2匹は置いたそばから遊びだしたので大丈夫だろう。

知能が高くなったとはいえ基本は犬だもんな。


それから寝床用に広めの犬小屋を創造し、その中にクッションや毛布なんかを敷いておく。

自動給餌器も創造しておき、その中にドッグフードをセットしておいた。

水は……頻繁に取り換えられないし、専用の水飲み場を創るか。


[箱庭の主]の地形操作能力で岩を積み、その中を水が通って昇ってきて先端付近からあふれて斜面をつけたところから流れ落ちる。

それが下に作った囲いの中に溜まっていき、底の小さな穴から古い水は排出されるので常に新鮮な水が循環される。

どこから水が出て来るのか?それは気にしないで良い。


そうだ、これだけ広大な土地があるけどここが家の敷地だって区切った方が良いよな。

白い木の柵を創造して、小屋を中心にしてその3倍ぐらいの敷地をぐるっと囲んでおき犬用のあれそれを敷地内に設置した。

照明として柔らかな光を放つ光の玉を魔法で作り、あちこちに浮かべておいた。

明るすぎず、かといって夜になっても真っ暗にならない程度だ。


「過ごしてみてなにか不都合があればその都度教えてくれ」


『わかった!』


『分かりました』


今まで箱庭内の空模様は青空だったが、ずっと昼間だと体内時計が狂うと思うから外と時刻を連動させておく。

太陽が沈み、月が昇った。

もうこんな時間か、そろそろ寝ないと明日起きれないぞ。


2匹におやすみと言って、小屋に戻った。




翌朝。

ふかふかのベッドで眠った俺は健やかに目が覚めた。

ああ、良い朝だ。

ぐぐっと伸びをして起きる。

顔を洗って歯を磨き、朝食はベーコンエッグトーストとコーヒーだ。

ほっとするな。


そうだ、掲示板はどうなってるかな。

おにぎりワッショイスレはまだ盛り上がっていた。

支援があの1回きりではなく、今後も支援があるものだとして期待しているみたいだ。

今の俺は気分が良いので期待に応えてあげよう。


今度は某有名ハンバーガー店の普通のハンバーガー300個、お値段は1つ銅貨1枚だ。

一括で登録しておく。

昨日のおにぎりで銅貨は300枚集まっている、今度も銅貨300枚貯まるだろう。

この世界では銅貨1枚で何が買えるのだろうか?王都に行かないとお金は使い道が無いらしいからな。


外に出ると、シロとクロがわっとお出迎えしてくれた。


『ご主人!おはようご主人!』


『おはようございます、ご主人様。清々しい朝ですね』


「おー、おはようお前ら!体調とかは大丈夫か?寒くなかったか?」


この箱庭内はとても快適な気温、湿度なので肌寒くもなく暑くもないのだが、犬からしたら違うかもしれない。


『大丈夫だよ!』


『元気です。ご主人様が用意して下さった毛布やクッションはとても快適に眠ることができました』


2匹はこう言うが、俺は昨日寝る直前に2人のことが気になっていた。

犬は外飼いだと思っていたが、俺だけ小屋の中で寝て2匹に犬小屋で寝させるのはどうなのだろうか。


「家の扉は開けておくから、何かあったり寒かったりしたら中に入って良いからな。お前ら用のクッションとか餌とかも中に置いておくから」


『わかった!』


『お気遣い感謝します』


そうしてシロクロ用の諸々を小屋の中に設置しておき、2匹に挨拶して[転移]でリーフの拠点内に借りている部屋に向かった。

相変わらず狭い部屋だが、特に変わったところは無いようだ。


扉を開けると、すぐ隣にニアノーがいてちょっと驚いた。


「おはよう」


「おはよう……もしかして待たせたか?」


「ちょっとだけ。食堂行こ」


もしかして自分の食事も摂らずに待っていてくれたのだろうか。

だとしたら悪いことしたな。


「あー、悪い、俺飯はもう食った。ニアノーも食べるか?」


「食べる」


誘ってみると、ニアノーは目を輝かせて部屋に入ってきた。

立ったまま食べるのもあれなので、簡易なテーブルと椅子を創造して設置する。


朝食か、何が良いだろうか。

俺はトースト1枚だったけど、もう少し腹に溜まる方が良いか?

手軽に菓子パンとかにしておくか。

俺はメロンパンを創造して、パックのジュースと一緒に手渡した。


時々食べることができると言う自分が知っているパンとの違いに驚き、にこにこしながら食べていた。

リンゴジュースも気に入ったようだ。


腹ごしらえも終わったところで、拠点内を見回る。

リーフの構成員たちは様々な仕事をしていた。

王都の協力者に流すと言う商品作り、外のコロニーと交換する品の準備が主な仕事。

魔物を解体して素材を使えるようにするだけでも重労働みたいだ。

特に王都の協力者に流す物は不手際は許されないので、丁寧な仕事をする選ばれた人たちがやるらしい。


戦闘員は襲撃に備えて訓練するのも仕事の内。

信頼度の関係で俺が入れない部屋ではポーションやもっと高級な物も作ってるんだとか。


「あっ、リオさん」


ニアノーと共に解体部屋のチェックをしていると、名前を呼ばれて振り返った。

この青髪は……イチノセ、滞在組の1人だ。


「リオさん、昨夜はどこに行ってたんですか?6人部屋だって聞いてたのに5人しかいなかったので心配してました」


「あぁ……あの部屋、6人で寝泊まりするのはキツイだろ?だから別の場所で寝たんだよ」


「そうだったんですね。何かあったわけじゃなくて良かったです」


そういえは俺は滞在組たちと同じ部屋を割り当てられたんだったな、1人いなくなってたら気にはなるか。

イチノセと少し話をして、彼らの現状を聞いておいた。


彼の仕事は解体部屋で解体作業。

昨日のうちに基本的なことを教わり、今日から失敗しても良いゴブリンの解体を実践していたらしい。

ゴブリンは人型だし、これを食べてるんだと思ったら朝食べた物が出てきたとはイチノセ談。


やはりというかなんというか、転生者たちはここの食事は受け付けないみたいだ。

昨夜の食事は5人全員がゴブリンの干し肉が食べられなくてスープしか口にすることができず、

イチノセは今朝の干し肉は食べたが結局吐き戻してしまっていた。


やはりあの干し肉は強烈だ、口に入れただけで嘔吐反射が出て噛みちぎることすら困難。

胃に入れてしまうとずっとむかむかして吐き気が収まらなくなる。

そんな物を日常的に食べているここの人間はどうなっているんだと思ったが、ニアノーが言うには慣れないうちはみんな吐くらしい。


 



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