第15話 ペットを飼う

 

「消えたのは分かった。何が秘密だったの?」


「秘密はこれからだ。一緒に来てもらうぞ」


俺はニアノーの手を取り、再度[箱庭の主]を使って箱庭内に転移した。

一瞬で景色が切り替わり、驚いたニアノーがぴゃっと飛び上がり俺に抱き着いてくる。


「落ち着け、危険は無い。魔物とかもいないから」


ニアノーは恐る恐る見回し、何もいないことを確認してようやく俺から離れた。

危険が無いことが分かると、きょろきょろと興味深く辺りを見回す。


「これは俺のスキルで生まれた空間だ、これが俺の秘密の1つ。あの狭い部屋に6人寝泊まりするのは窮屈すぎるから、俺はこっちで寝泊まりしたいんだ」


「うーん……あんまり長時間姿が見えないと、どこ行ってるのかって疑われるかも。寝る時だけなら、バレないかな?」


「できるだけ寝る時だけにするつもりだ、作業や仕事は普通に拠点で行う」


「分かった、黙っとくね」


「よし、夕飯を食べた後だがまだ腹に入るか?」


「うん」


「せっかくだから何か軽くご馳走様しよう。とりあえず中に入るぞ」


ログハウスの中に入る。

ここはワンルームと小さなキッチン、そしてトイレと風呂がついてる小屋だ。

[拠点万能化]も使っているから水も電気もガスも完備。



[拠点万能化]

拠点として登録した場所が快適に過ごせるようになる。

登録は複数個所可能。

・電気、水道、ガス完備。

・魔物や悪しき者、又は指定した物や者、攻撃やダメージを受けるようなものを阻む結界完備。

・許可を出した者しか中に入れない。中にいる者を任意で追い出し可能。

・汚れと認識した物は自動洗浄。破損した箇所は自動修復。



これすごい便利だよな。

使う水がどこから来ているのかとか、どこへ消えていくのかとか気になるけどチートスキルにそんなもの気にしても仕方が無い。


ニアノーはそわそわと小屋の中を歩き、テーブルやソファなんかの家具を見て感嘆の息を漏らしている。

これらは日本のカタログから選んだ物だから、拠点にあったみたいな素人の手作り感満載の歪なテーブルや椅子なんかと比べたら全然違う物だと分かるだろう。


「甘い物は好きか?」


「だいすき!」


ベッドでふかふか感を楽しんでいるニアノーは甘い物に強く反応した。


「スイートトレントの根っこみたいな甘いものって、貴重なもの。獲れても王都に流すから、基本的に俺たちの口には入らない」


スイートトレントの根っこ……あれか。

サラッとしたうっすいメイプルシロップみたいな味がじんわり滲んでくるやつだな。

あれで満足できるのなら日本の甘味は満足してもらえるだろう。


[万能創造]を開いてカタログから検索する。

そうだな……おっ、これなんて美味そうだな。

老舗レストランの誇る有名デザート、アップルパイ。

これを2つ、レストランのメニューなので更に盛り付けられた状態で出て来た。


ついでに紅茶でも淹れるか。

リッフルトンのティーバッグだな、これは美味い。

ささっと紅茶を淹れて、2人分を用意した。

もうニアノーは椅子に座ってスタンバイしていた。


「いいにおい……」


紅茶の匂いを嗅いで顔が綻んでいる。

俺のお気に入りはこのミックスベリーの紅茶だ。


「俺の国で有名なレストランのデザート、アップルパイだ。食べて良いぞ」


そう言うと、早速フォークを手に取り控え目に取り、まずは匂いを嗅ぐ。

そして慎重に口に入れた。


「……っ!んん……!」


目を見開き、ぱぁぁっと明るい表情になる。

俺も一口食べてみた。

外側はサクッと、中はしっとり。

上品な酒の風味とシナモンの香り、甘すぎない砂糖と仄かなリンゴの酸味。

豊かな香りとコクがたまらない。これは美味い、美味いぞ。


「ふわぁ……おいしい……すごい……」


ニアノーはうっとりとした表情でちまちまとアップルパイを食べている。

よしよし、お気に召したみたいだな。


「アップルパイっていうのは、なんなの?」


「アップルっていうのはリンゴのことなんだが、その果物を甘く煮た物をパイ生地に詰めたやつをオーブンで焼き上げたスイーツのことだな」


「パイは聞いたことある、王都の貴族が食べてるって。でもお肉のパイって聞いた、甘いパイは初めて聞く。すごくおいしい」


ぺろっと平らげて、紅茶を飲んでほうっと満足気に息を吐くニアノー。


「この飲み物も、おいしい。落ち着く」


「ミックスベリーフレーバーの紅茶だな」


「紅茶……それも貴族が飲んでるって。リオは、貴族なの?」


「いや、俺は前世では普通の平民の商人だった。貴族じゃないよ」


話を聞く感じだと王都の貴族は贅沢しているみたいだな。

ゴブリンの肉と豆しか食べられないコロニーの住民たちの暮らしっぷりと比べたら雲泥の差がある。


「これは、特別な時にしか食べられないご馳走?」


「いや……金を出して店に行けばいつでも食べられる。それにそこまで高級品ってわけでもない」


「そうなんだ……」


ニアノーは何やら考え込んでいたが、紅茶の最後の一口を飲み干してカップを置いた。


「うん、わかった。とっても美味しかったから、リオの秘密は忘れちゃったし、深くも聞かない。また、食べさせてくれる?」


「もちろん。なんなら明日から夕飯後にデザートを食べに来ると良い」


「ほんと?やった!」


一旦元の会議室に戻った俺たちは、個室の使用申請をしに向かった。

ここの人たちはみんな個人部屋というものを持っておらず、精神的な要因や何かの理由があって個室を使いたい時は申請する必要がある。

狭くてベッドすら置けない部屋だが、箱庭に転移する時と戻って来る瞬間を見られなければ良いのでこのサイズ感で充分だ。

木の札に『リオ 使用中』と書いて扉にかけた。


「それじゃあ、明日の陽の出頃に迎えに来るから」


「分かった」


ニアノーと別れた俺は部屋に入ってしっかり鍵をかけ、箱庭に転移。

そして風呂へ直行して湯を張り、服を脱ぎ散らかし風呂に入った。

ああ~~生き返る~~~。

やっぱ風呂だよ風呂、最高だぜ。


風呂上がりに創造した新品の寝間着を着て冷えたビールを流し込む。

くぅーっ!これこれ!

ソファに座ってまーったりとする。

ああ……ようやく落ち着いた。

あの拠点、広いんだけど地下にあるから息苦しいし常にどこかしらに人がいるから気が休まらないんだよな。


寝る前に【特殊技能】の使ったことがない技能を試してみようと思う。


まずは[ユニット操作]。



[ユニット操作]

貴方に従うユニットを創造し、思い通りに使役します。

人型、獣型、魔物型、機械人形、ゴーレム、姿形は何でもあり。

生命であれと念じれば生命となり、無機物であれと念じれば無機物となります。

全てのユニットと念話で会話することができ、既に生み出したユニットの改変も自由です。



これは俺以外の生命を創造して使役できるスキル。

生き物を創るってちょっと禁忌的な、ダメな感じがするんだけど……スキルが良いって言ってるんだから俺が忌避感を覚える必要は無いだろう。


[ユニット操作]を行使してみると、ウインドウが現れる。

ふむふむ、まずは外見を指定してから性格や能力なんかを指定するのか。

そうだな……ユニットを創るって言っても……そうだ、ペットだと思えば良い。

ペットと言えば犬、猫、ハムスター、鳥なんかが無難だよな。

俺は動物は好きだ、だけどペットを飼ったことは無い。


犬を指定して……ふむ、既存の中からも選べるのか。

おお……犬の種類っていっぱいあるんだな。

どうせなら大型犬が良いよな。

……よし、この犬種にしよう。


基本は普通の犬にして、死ぬと悲しいから俺と同じ不老不死、俺と違うのは怪我とかもしない完全無敵。もちろん病気もしないし毒とかも効かない。

そんで人間の言葉や意図を理解できるように知能を上げて……運動神経も上げるか。

人懐っこくて優しい穏やかな子が良いな。

それから……この箱庭で飼うなら1匹だと寂しいだろう、2匹目も設定しよう。


早速外に出て、設定した子たちを創造してみた。

地面に魔法陣が2つ現れ、そこから犬が2匹現れる。

1匹は白い毛並みのグレートピレニーズ、もう1匹は凛々しい顔付きのシベリアンハスキーだ。

どちらも大型犬で、グレートピレニーズの方が体長80cm、シベリアンハスキーの方が体長60cmほどだ。





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