第14話 不味い食事と箱庭の主

 

そうして拠点内を歩き回ったり普段行う軽作業の説明なんかを受けてしばらく時間を過ごしていると、何かを言って回っている人がいた。


「飯の時間だよー、食堂行ってよー」


その人は周囲の人にそう呼びかけながら歩いて行った。


「陽暮れ前になると夕飯の時間。地下にいると時間が分からないから、外の見張りが陽暮れを確認してみんなに伝える。食堂に行こう」


「分かった」


食堂はとても広い空間で、所々立っている柱で天井を支えているみたいだ。

長いテーブルと椅子がずらっと並んでいて、構成員全員が入れるようになっている。

食事はカウンターまで自分で取りに行って席につき、各々勝手に食べるそうだ。

夕飯はニアノーから聞いていた通り、干し肉と豆のスープだった。


「……これがゴブリンの干し肉ってやつか?」


「そう、みんな毎日食べてる。この辺りではゴブリンがいっぱいいるから、ゴブリンの肉だけは枯渇しない」


そう言ってニアノーは干し肉にかじりついた。

それを見て改めて自分の分の干し肉を見る。

見た目は……ちょっと色が変な干し肉って感じだ。

匂いは、なんていうかわざわざ嗅ぎにいかなくても悪臭がすることが分かる。

恐る恐るかじってみて……吐き気がした。

思わずおえってなって水を飲む……ぬるくて泥臭い。


え、一口すらまともに飲み込めないんだけど?

マジ?と思いニアノーを見ると、渋い顔をして頷いていた。


「言いたいことは分かる、確かに不味い。不味いけど、食べないと生きていけない」


「不味い……ってレベルか?噛み千切ることすらできそうにないんだが?」


「噛み千切って、スープを口に含んで頑張って噛んで飲み込む。そのうち慣れる、慣れないといけない」


とのことなので今度はスープを口に含んでみた。

……土臭い。豆は昼間食べた物と同じだが、肉やキノコは入っておらず具は豆だけだ。

塩が違うのか水が違うのか、土臭いというか砂臭いというか、とにかく臭くて不味い。

これらを食べて改めて、俺たちが昼間食べた物は相当豪勢に作られた物なのだと自覚できた。


この食料事情を知ってしまったからこそ、残すのはあり得ない。

何度か吐きそうになりながらも、めちゃくちゃ頑張って時間をかけて平らげた。

それをニアノーは文句も言わず待っていてくれた。


「リオのいた世界ではどんなもの食べてたの?」


「俺のいた世界には国がたくさんあって、それぞれ違った特色の料理を食べてた。中でも俺の住んでいた国ではその様々な特色の世界中の料理が食べられるグルメな国だったよ。食に関するこだわりは多分世界一だったんじゃないかな」


「米の試食の時も思ったけど……もしかしてリオたちって美味しいものばっかり食べてた?」


「まあ……そうだな。わざわざ不味い物なんて食わないよ。……うぷっ」


不味い物を無理やり食べて吐きそうになりつつも口を押さえてふらふらと食堂を出る。

臭いのが胃の中から上がってくる感じがしてめちゃくちゃ気持ち悪い。

何度も嘔吐反射が起こり、涙目になりながらふらふら歩く。


「ちょっと休もう、今日はもうお仕事ないから。リオたちの部屋に案内する」


ニアノーに気遣ってもらいながら歩いて行く。

辿り着いたのは狭い部屋だった。


「リオたち6人が今日から寝泊まりする部屋。……ちょっと狭いけど、寝るだけならスペースあるから」


ちょっと狭い……ちょっと?だいぶ狭いぞ。

家具も何も置いておらず、毛布が部屋の隅に置いてあるだけだ。

これじゃあ全く休まれる気がしない。

この気分の悪さでろくに横になれるスペースも無い場所に押し込まれる?拷問か?


吐き気と気持ち悪さでぐるぐるしてきた。

俺はなんとかその拷問から逃れる術を考える。

しかしその前に限界を迎えた。


「……ニアノー、少しの間だけこっちを見ないでくれるか?」


「なんで?」


「吐く、もうダメだ」


そう言うと、ぎょっとしたニアノーは慌てて空っぽの袋を渡してくれた。

ビニール袋でもない普通の布の袋で勿体ないという気持ちはあったが、吐けると思うともう限界だった。

俺は布の袋に顔を突っ込み、盛大に嘔吐した。




「……大丈夫?」


「あぁ……」


結局ニアノーに吐いてるところを見られてテンションだだ下がりの俺。

吐き終わった後の袋は手早く[亜空間収納]にしまって『ゴミ箱』機能で削除した。

これで俺の生成した汚物はこの世から消え去った。

魔法で水球を生成し、口をゆすいでついでに顔も洗った。

ちなみに米を洗った時もそうだったが、使用済みの水は[亜空間収納]にしまって『ゴミ箱』機能で削除している。


「袋、ダメにしちまって悪いな」


「あれは捨ててもいいやつだから」


吐いたことで体力を使ったが、それでも気分はすっきりした。

しかしこれは由々しき問題だ、ここの食事は俺たち転生者には合わない。

無理をしたら吐かずに済んだかもしれないが、もう二度とあの食事は口にしたくはない。

それにこの狭い部屋で6人が寝るのは無理だ。

友だちとか家族ならまだしも赤の他人だぞ?


「わがままを言って悪いとは思うが、もう少し広い部屋は無いのか?」


「今空いてる部屋はここと同じような部屋だけ」


「上の村の小屋を使わせてもらうことはできないのか?」


「上は結界内じゃないから、マスクをつけて寝なくちゃいけない。それに襲撃があった時に危険」


俺は結界スキルがあるから瘴気も魔物も平気なんだが、それを言うわけにはいかないしな。

他に手段は無いものか……と考えて、ふと思う。


「ニアノー、お前美味い食べ物が好きだよな?」


「だいすき」


「今まで食べたことのないようなものすごく美味い食べ物を食わせてやるって言ったら、俺の秘密をアメルダに報告せず黙ってられるか?」


そう言うと、流石にニアノーは黙って考え始めた。

アメルダがリーダーな組織に所属している限り、何かあればアメルダに報告するのは義務だ。

なのでこれは賭けになる。


「それは俺たちに都合の悪いもの?」


「俺が快適に過ごすための秘密だから、リーフのメンバーに危害を加えるようなものじゃない」


「それじゃあ、おいしいもの食べれば報告も忘れちゃうかもしれないね」


「そうだよな、うっかりしてしまうこともあると思う」


交渉成立だ。

俺は後で説明すると話し、人目につかない場所に連れて行ってもらった。

ここはいくつかある会議室の1つで、メンバーが自由に使える場所らしい。

その中の1番小さな会議室を借りて、使用中の札をかけて鍵をかけた。


「今から起こることは他言無用だ。良いな?俺は多分今から少しの間姿が消えるが、すぐにここに戻って来る」


こくりと頷くニアノー。

と言っても俺も初めて使う技能だから何が起こるかよく分かってはいない。

【特殊技能】を開く。



[箱庭の主]

亜空間にある貴方だけの箱庭を所有する。

この技能を使用すると箱庭に転移する。

空間は無限に広がっていて、箱庭内を自由に変更可能。




無限に広がる空間、と言うからには広いのだろう。

その空間を活用できれば広々と寝る場所が確保できるはずだ。

俺は[箱庭の主]を使用した。

すると、一瞬で景色が切り替わった。


俺が立っていたのは見渡す限りの芝生の地面の上だった。

ぐるりと辺りを見渡す。芝生の地面以外は何も無いな。

と思っていると、目の前にウインドウが現れた。

それを操作して、納得する。

なるほど、箱庭と言うだけあってこの空間を俺の自由に変更できるらしい。


天気や外との時間の連動、気温や湿度はもちろん、地形も自由に操作できる。

今は芝生の地面しか無いが、これで操作すると海や雪原を造ることもできるらしい。

少し考えて、ウインドウを操作して地形を造った。

今立っている場所を中心として、少し離れた場所に湖。

向こうの方に海、そっちに森を広げた。

地形が生まれたとは言っても魚や虫なんかの生き物はいない。

それらを生まれさせたいなら[ユニット操作]の出番なんだろうな。


おっと、感慨深く辺りを見回してる場合じゃないな、ニアノーを待たせている。

俺は[万能創造]を起動した。

日本のカタログからログハウスを創造、そこへ必要最低限の家具や日用品を創造して設置していく。

よし、これで準備完了だ。


[転移]で元の場所に戻ると、ニアノーは俺が消えた時と同じ場所でそこにいた。

確かにすぐ戻って来るとは言ったけど、探す素振りも無かったのだろうか。

 

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