第13話 流石に腹が立った

 

そう考えるとちょっと不憫に思えてきた。


「でも、俺から美味い物を仕入れたとしてもそれが無くなったら不満が爆発しないか?俺だって持ってる資源は無限じゃないし、いつまでもここに滞在しているわけじゃないんだぞ」


「その不満の爆発が今起こってる、控え目だけど。だから今、みんなに美味しいものを食べさせる必要がある」


なるほどな、これまでもちょくちょく美味い物を食べる機会自体はあったわけだ。

でも普段の食事が質素だから不満を抱いている、と。


「それと……リオたちが殴られそうになった時に他のメンバーを連れて出て行ったでしょ?あの時、『上手く懐柔できれば美味しいものが食べられるかもしれない』って言って説得した」


ああ、だからあの後暴行されずに見逃されたのか。

うーん、どうしようか。

何も考えずに渡すだけなら簡単なんだけど……ま、良いか。

その辺はアメルダがなんとか管理するんだろう、俺がトップを張ってるわけでもない組織の管理にそこまで神経を使ってられない。


美味いのはもちろんのこと、腹に溜まってみんなに行き渡るのが良いよな。

となると主食……米だな。


「米って知ってるか?俺のいた国では主食だったんだけど」


「俺は知らない。アメルダは?」


アメルダは少し考え込むような仕草をする。


「そういえば……荒野のコロニーに他国から流れて来た奴がいるんだが、そいつからコメという名前の穀物があることを聞いたことがある」


「米自体はあるんだな」


なら別に流出させても問題無いか。

説明するより実物を見せた方が早いな。

[万能創造]を開いていつも買ってる品種を購入しようとして……思いとどまる。

米の袋ってこの世界には無い素材だよな、入れ替えないと。

一手間加えて3合分の米を麻袋に入れた物を創造して、収納から取り出す。

破って中身を見せてみる。


「これが米、お米と言う穀物だ。これをなんやかんやすると食べられるようになる」


「なんやかんや」


「美味いのか……?」


2人は疑心顔だ。

まあ、このままじゃ食べられるようには見えないよな。


「それについては好みが分かれると思うから、試食会をしようと思う。ここで煮炊きして良いか?」


「ここで?できるのか?」


「機材は持ってる」


「まあ、汚さないなら構わないが」


許可を得たので鍋や卓上コンロなど必要な物を創造して机の上に出していく。

まず米を洗う。水は俺の魔法で。

吸水させる。この間時間が空くのでご飯のお供にする物を吟味する。


火にかける。

最初は強火寄りの中火で、沸騰したら弱火にして10分、そして強火にして10秒ほど待ってから火を止める。

最後に強火にすることで鍋の底に残った水分を飛ばせる、らしい。

そしてここからがポイント、蓋を開けずに15分ほどそのまま蒸らす。

これで鍋で炊くご飯の完成だ。


しゃもじで混ぜてみる。

うんうん、ふっくら炊き上がったな。


「いいにおい」


炊き上がるまで時間がかかるからアメルダとニアノーには2人で雑談でもしててもらっていたのだが、いつの間にかニアノーがすぐ隣に来て鍋の中を覗き込んでいた。


「もう完成か?」


「いや、このままだと味がほとんど無いから一手間加える」


ポリ手袋を装着。

ちゃっちゃっと握って塩を振る。

手早く小さめに3つ握り終えた。

シンプルな塩おにぎりの完成だ。

1つ味見……うん、美味い。


「これはおにぎりと言って炊いた米を食べやすいように形成した物だ、塩を振ってシンプルに味付けしている。熱いうちに食ってくれ。次は中身に具を入れる」


皿に塩おにぎりを乗せた物を差し出し、続いて海苔の佃煮、鮭フレーク、おかかのおにぎりを握っていく。


「ほう、これは……」


「おいしい」


2人は塩おにぎりを吟味するように食べ、他の具入りも握っていくそばから平らげていた。

そういえば転生者以外は昼飯食ってないっぽいよな、腹が減ってただろう。


「炊く手間はあるけど、拠点で時間をかけて飯が作れるならボリュームのある食事が作れる。なんなら握らなくても器によそって塩気の多い物と一緒に食べればそれだけで美味い」


そう言って残しておいた俺の分の米を茶碗によそい、海苔の佃煮を乗っけて食べた。

うん、美味いぞ。


「確かにこれは腹に溜まる上に美味い。中の具?とやらはこれっぽっちしか入っていないのに充分に満足できる濃い味だ、しかも具によって一緒に食べる米の味が多様に変化する。素晴らしい」


「具は取引してくれないの?俺これ大好き」


と言ってニアノーが持っているのは鮭フレークの瓶だ。

ちなみにガラスのままだと不味いと思ったから容器は全て陶器の物にしてある。


「そっちが望むならこれらの具も取引に出せる」


「やった」


「私はそれよりその火が出る魔道具や手に装備している薄く透明な手袋の方が気になるのだが……」


「これは企業秘密だ。自分たちで握る場合は手をよく洗って清潔にしてから握るんだぞ」


さっさと収納して片付けてしまう。

アメルダは何か言いたげだったが、口を突っ込むと話が進まないと思ったのかそれ以上は何も言わなかった。


「カロリーフレンドできれば300箱は欲しい。コメはひとまず100人がおにぎりを1つずつ食べられる量がほしい。それ以上はみんなの反応を見てから交渉したい。具もあるだけ欲しいけど、無理のない量で良い」


100人がおにぎり1つずつ……何キロ必要なんだ?

分からん、計算は苦手だ。

多めに渡しておくか。


「とりあえず30キロ分渡そう。ちなみにこれは1ヶ月ほどしかもたないからそれ以上過ぎたら食べようとするなよ、痛むからな」


10キロ分の麻袋に米を詰めた物を創造して収納内にストックしておく。

米の炊き方が見ていて分からなかったと言われたので、紙に炊き方をメモした物を渡したのだが今度は何分とかが分からないと言われた。

もう面倒になったので砂時計を渡してしまえと思い用途毎の砂時計を渡したのだが、ニアノーがこれに反応した。


どうやらガラスは希少な物らしい。

しかもこんなに薄いガラスの中にカラフルな砂が閉じ込められ、更にひっくり返すことで均一に砂がこぼれていき毎回きっちり時間が計れる機能性を持ち合わせていながらいつまでも眺めていても飽きない芸術性を兼ね揃えた至高のお宝なんだとか。


アメルダは指摘しなかったことを見るにこいつは俺が物の価値を知らないことを利用してそのまま素知らぬ顔で受け取ろうとしていたようだが。

流石に腹が立ったので、砂時計を渡すのはやめにした。

時間は感覚で計ってくれ、何回か失敗すれば覚えるだろ。


俺の機嫌が悪くなったのを察したのか、ニアノーは手早く近隣で獲れる魔物の素材のリストを作成してくれた。

それを見ながらカロリーフレンドと米と米のお供とのレートを決め、取引の約束を交わす。

魔物の素材のほとんどは保有しているが、一部が無いため狩りに行かなければならない。

そのため3日ほど猶予が欲しいとのことだった。


アメルダの部屋を後にした俺とニアノー。

俺がやるべき仕事を教えてもらった。

今は土属性魔法を扱える者が出かけていていないので、拠点内を見回って綻びがある場所を修繕するのが仕事らしい。

魔法で固めてはいるが、どうしても壁が欠けたり天井が重みで崩落することだってある。

地下に住んでいる都合上、崩落は生き埋めの危険性があるため修繕の仕事は大切だ。

修繕箇所があるか点検をしながらニアノーと話す。


「そういえば、ここでは自分たちで魔物や水を浄化してるんだよな。リーフのメンバーに聖女がいるのか?」


「その通り。教会や王族が把握していない聖女聖者は割と多くいる。聖女たちは聖女であることが周囲に知られると教会に捕まって無理やり管理されて働かされるから、神聖力を扱えることを明かしていない人も多い」


その話の流れで聖女聖者について聞いてみた。

神聖力を扱える女性を聖女、男性を聖者と呼ぶ。

のだが、神聖力は無限に扱えるわけではない。

回復できる手段がある魔力とは違って、神聖力は完全に自分の内にあるだけの分の力しか使えない。

最大容量や自然回復速度、効果威力なんかも人によって全く異なる。


ゴブリン1匹分浄化しただけで神聖力が空っぽになる者もいれば、ゴブリン数十匹浄化しても余力のある者もいる。

神聖力をどれだけ多く、そしてどれだけ強い出力で扱えるかで聖女聖者としての格が決まる。

女神教のトップの大聖女はたった1人で王都をすっぽり囲んでいる大結界装置の神聖力を賄っているそうだ。

だからこそ女神教は王族よりも力を持っていて、王都で好き勝手している。


リーフのメンバーの中の誰が聖女かは秘密らしい。

コロニーに所属している聖女聖者はそのコロニーの生命線。

特定されれば他のコロニーから襲撃され、拉致或いは殺害されてしまう。

特にここのコロニーは聖女の恩恵でここまで大きくなり、そして維持できているので聖女が万が一殺されてしまえば100人を超えるメンバーが瘴気の中に放り出されることになってしまう。

コロニーの崩壊、それだけは避けなければならない。

だからリーフのメンバーであっても、限られた極一部の者しか聖女が誰であるかは知らないそうだ。


 






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