第12話 話し合いの続き
つまりパッケージの見た目をどうにかできれば、中身をわざわざ転生者に見せなければバレることは無いだろう。
この世界に来てからの物資の保管方法を思い返す。
基本的に布の袋に入れて、木箱に入れて保管していたな。
布か木箱なら目立たないということになる。
[万能創造]を開いて色々と入力していく。
創造するのは中身はカロリーフレンドと同じ物。
しかし、ここで発揮するチート能力。
カロリーフレンドは本来ならば開封済みの物は劣化していくのでできるだけ1日以内に食べるのが望ましい。
しかし、チート能力で条件をつけることにより素のままで空気に触れても3ヶ月は劣化せず問題無く食べられるようにした。
それ以降は徐々に腐っていく。
そこへくすんだ色の無地の厚紙でできた箱に4本を入れ、それを薄い木の板の箱で包む。
これで外からは普通の木箱に見えるし、万が一中身が見えても厚紙の箱が出て来るだけ。
これだけ見れば日本で売ってる既存の商品とは思わないだろう。
これを基本の5フレーバー分創造し、味の区別がつくように木箱の一部に色をつけた。
それを机の上に置く。
「その黄色いパッケージは見栄えを良くするための物で、取引に使う分はこうやって木箱に入れてるんだ。これなら目立たないだろ?後は転生者の目に入らないように食べるとか配慮してくれ」
「中身は同じ物なのか?」
「開けて食ってみても良いぞ」
そう言うと、アメルダは遠慮とか躊躇とかは無く開けた。
中には厚紙で包まれたカロリーフレンド。
あれはチーズ味だな。
俺は木箱についてる色と味を伝える。
「なるほど。で、これはどのくらい保存できる?」
「100日ほどは劣化しない。それ以降は徐々に腐る」
「ちなみにこれはいつ作った物だ?」
と、問われてしまったと思った。
そりゃあそうだ、普通は賞味期限と言えば製造してからどれだけもつか、だ。
「言い方を変えよう、今日から100日はもつ」
「……そうか、それで納得しておこう」
よく考えれば女神に転生させられたって話してるのにこんな物いつ用意した?って話だよな。
転生前から保有していた物を持ち込めたってことにするか?
転生前は店を営んでいて、これらはそれの商品だってことにするか……。
「それで、いくつ出せる?」
個数か……。
店を経営していたという設定だったら、ケチケチせず大量に放出しても大丈夫だろう。
しかしこの世界での物の価値が分かってない奴相手に先に提示させるなんて性格悪いな。
「そっちは食べ物をあるだけ欲しているとは思うが、俺は魔物の素材は一通りあれば良い。この辺りで獲れる魔物の素材を一通り揃えて、それに吊り合うだけの数を渡す」
「ほう、それは気前の良い話だ。お前の手持ち全てで賄えなかった場合はどうするつもりなのだろうな」
「今後のことを考えたら、騙して搾取して反感を買うより誠実に対応して信頼を勝ち取った方が利口だと思うけどな。さっきも言ったと思うが俺はこれ以外にも取引できる物資を保有している。騙してきた相手とまた取引したいと思うとでも?」
「……」
「……」
本当なら俺はこういったやり取りは苦手なんだ。
パッとお互いの胸の内を明かしてサッと取引するのが望ましい。
しかしアメルダ相手にそれをしたら搾り取るだけ搾り取られるだろう。
隙あらば主導権を握ってこっちを従えようとしてくるからな。
沈黙と睨み合いが続く中、今まで壁際に立っていたニアノーがすたすたと歩いて来て俺の対面に座った。
「アメルダは立場上、下手に出れない。でもそれだとリオと衝突する。だから、俺と話そう」
「えっ?」
ニアノーは少し接した感じだと真っ直ぐな子だと感じたから俺としてはありがたい話だが、それは良いのか?
「ニアノー!お前にそんな権限は無いだろう」
まあ、そうだよな。
アメルダの後ろによくいるみたいだけど、年齢的に組織全体の取引を任されるような役職ではないだろう。
「リオはこれまでアメルダと接してきたみたいな、アメルダが助けてあげなくちゃ困るような立場の人じゃない。リオはアメルダが助けなくても何も困らないし、出て行くと言ったら出て行く。このままじゃ話が進まないし、拗れる」
「ゴブリン相手に追い払うしかできないような奴だぞ?買い被りすぎだ」
「自分が床に転がされたの、もう忘れた?」
と指摘されると、アメルダはピタッと口を閉ざした。
そういえばそんなこともあったな。
「アメルダじゃ衝突し合うだけ。だから俺が取引する。良い?」
「…………好きにしろ」
と、許可をもぎ取ったニアノーは改めて俺と向き合った。
「まずはリオが取引に出せる物資を確認したい。じゃないとレートが決められない」
それもそうか。
しかし俺は何でも創れるから、何があるかと聞かれたら困る。
「逆に聞きたいんだけど、なにかこれがあったら便利だとかこういうのが欲しいとかいうのは無いか?実は俺は転生前は店を経営していて、その商品を丸ごと持ち込んでるんだ。だから数が多すぎてどれがお前たちに需要があるのか分からない」
ニアノーは小さく頷いた。
「食べ物、美味しければなお良い。保存が効けばもっと良いけど、それより俺は美味しいものが食べたい」
「それはお前の趣味嗜好だろう、コロニーに必要な物を要求しろ!」
アメルダから横槍が入ったが、ニアノーは首を振った。
「美味しいもの、大事。みんな言ってる、もっと美味しいもの食べたいって。美味しいものを食べるのは幸福につながる。幸福じゃなかったらそのうち反乱が起きる」
「何だと?そんな話聞いたこと……」
「みんなアメルダには遠慮して言えない。リーフのためにがんばってるの知ってるから」
「そ……そうなのか……」
良くも悪くもリーダーというのは届く意見は取り繕われるよな。
俺からしてみればアメルダは高圧的な奴だし、新入りとかは特に意見を言いづらいんじゃないだろうか。
「さっき俺が食べさせてもらった食事は美味かったけど、あれで不満が出るのか?」
「お前たちに食わせた物は最大限豪勢にした物だ、あれで不味いなどとぬかしたら殴るところだった」
キノコの魔物や魔物肉の干し肉なんかは日本人の味覚からしても美味かったけど、なるほどあれが最大限豪勢な食事なのか。
「普段はみんなもっと質素なの食べてる。1番下っ端は豆スープとゴブリンの干し肉だけ」
「ゴブリン……」
ゴブリンの肉って……あいつら人型じゃねぇか、本当に食べるのか?
思わず顔をしかめる。
「ディアベアーって魔物の干し肉は美味かったぞ、あれは食べないのか?」
「……ディアベアーの肉は確かに美味い、だからあれは王都の協力者に卸す品物だ。我々は王都の協力者に色々と融通してもらっているが、それの返礼品が魔物の素材だ」
それについて話を聞いてみる。
王都にいる人間は、安全な結界内に閉じこもっており基本的に外に出ない。
ハンターと呼ばれる魔物狩りを専門としている者たちがいるが、そっちに頼むと費用がかさむ。
ハンターたちは防護マスクを装着して狩りに行く。
防護マスクには神聖力を用いた毒素を取り除くフィルターがあるのだが、それは聖女聖者に依頼しなければならないので金がかかる。
その神聖力を行使してもらう費用、ハンターたちの武器防具の手入れ代、依頼代、まあその他諸々……つまりハンターに魔物の素材を獲って来てもらうと金がかかるのだ。
コロニーに住んでいる者たちは一部の者を除き王都や町に来ないので、金は使わない。
コロニーの住民たちが求めているのは金ではない、物資だ。
王都ではコロニーでは手に入らない物資は割と簡単に手に入る。
なので、コロニーの住民に魔物の素材を獲って来てもらう代わりに物資を渡す。
そうすれば安上がりになるわけだ。
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