第6話 話し合い

 

このままこいつらを放置して出て行っても構わない。

構わない、が……。

せっかく異世界で初めて出会った勢力だ、和解するに越したことはない、か。


「お前、名前は?」


「ニアノーだよ」


「そうか、俺はリオだ。ニアノー、頼みがある。お前のとこのリーダーは俺たちを敵認定して奴隷にしようとしている。なんとかして俺たちは敵対するつもりが無いことを伝えてくれないか?そうしたら昨日あげた食べ物をもっとやる」


「本当?やる!」


ニアノーのここでの立場は知らないが、あの女も仲間からの話なら聞くだろう。

彼を未だ拘束されて地面に転がっている3人と会わせると少し困惑していたが、『ずっと殺気を向けられていていつ殺されるか分からない状況だったから自衛のために拘束させてもらった』と説明すれば納得していた。

ニアノーは動けないアメルダの前に座り、話をした。

このままではアメルダもろくに話せないので、【パラライズ】だけ解除しておいた。


話を聞いていていくつか判明したことをまとめる。


本来ならば、『ただの一般人』相手に持ち物の押収や暴行、強制労働に奴隷化なんてやらない。

なのに何故俺たちに対しては最初から敵扱いしていたのか?それは俺以外の転生者たちの聞き取りの結果が関わっていた。


どうやら俺と別々に連行された転生者たちの聞き取りでは、『自分たちは異世界から転生してきた女神に選ばれし特別な神の使徒である。我々に危害を加えることは女神への冒涜であり決して許されざる大罪である』と話したそうだ。

アメルダは神の使徒という主張から俺たちを『女神教』とやらの人間だと判断。


女神教とは、この世界の創造主である女神アロナディアーナを崇める強大な力を持つ宗教の1つ。

女神の声を聞くことができると言う大聖女が教皇として君臨しており、神の名の下にここのようなコロニーから略奪をしたり労働力の確保と言って人を攫い奴隷にしているらしい。


俺たちは女神教の人間で、ここのコロニーのことを嗅ぎつけ略奪をしに来たのだ、と判断したそうだ。

だから最初から俺が話したことは信用されておらず、信用したフリをして働かせるだけ働かせて難癖付けて拘束、監禁、奴隷化しようとしていた、と。


そこで改めて俺たちはどこにも所属していない一般人だと主張した。

女神についても話した。

俺たちは他の世界で生きていた人間で、女神の手によってこの世界に再び生を与えられた。

しかし何の使命も与えられておらず、女神の使徒や部下というわけではない。

この世界にある女神教という宗教とも無関係だ、と。

『女神の使徒だ』と主張した奴については、虚勢を張らないと危害を加えられると思い咄嗟に嘘をついたのだろう、とも。


アメルダはあまり納得がいっていない様子だったが、拘束されたままの自分の状況を鑑みて渋々納得したように言っていた。


そして今度は俺の誤解を解く番だ。

ここはアメルダをリーダーとして活動している、ここらでは1番大きなコロニー。


最初に俺たちを手荒に拘束したのは、そもそも厳重に囲ってある拠点の壁を破壊してまで侵入してきたのだから敵だと思われて当たり前。

他の転生者に暴行を働いたのは、拘束時に転生者がスキルや魔法を使って容赦無く攻撃してきてこちらも怪我をし、手加減していると殺されると判断したから。

ずっと殺気をぶつけてきていたのは『下手な行動をしたらいつでもお前を殺せるぞ』という俺に何もさせないための脅し。


彼女たちは普段は一般人や他のコロニーの人間相手に積極的に危害を加えない。

それどころか他のコロニーとは友好的な関係にあり、だからこそ全員見知らぬ顔だった俺たちに最大限の警戒をした。

 

と、まあお互いにお互いを敵だと決めつけ誤解し合いこの結果を招いたようだ。

まだお互いに信用はしきれないものの、とりあえずは今すぐ殺し合う関係ではないと結論が出たことにより、地面に転がしたままだった3人の【スキル禁止】【魔法禁止】【ステータス低下】【パラライズ】を解除し、自動拘束ロープを収納することで拘束を解いた。


「あ、それはそうと……知っておいてほしいことがある。俺と今牢屋にいる連中との関係についてだ」


「関係?仲間ではないのか?」


「今回たまたま同じ場所に転生しただけの赤の他人だ。名前だって知らないしステータスやスキルもよくは知らない。仲間、もしくは同じ所属のチームメンバーなんてものでもない。だから俺はお前たちに対して友好的でありたいとは思ってはいるが、奴らが同じ思想なのかどうかは分からないから随時判断してくれ」


「なるほどな……分かった。もう1度個別で聴取を行っておこう」


それはそうとして、水汲み場だったこの場所が崩落して困っているのは本当だったようで……情報提供してもらうことを条件に土砂を退けて土を固めて整えてやった。

本来なら土を扱う仕事は他の土魔法使いがやるらしいが、今はそいつが遠出していて居ないそうだ。


その後別室に案内され、待機する。

情報提供の約束だが、俺と他の転生者と別々に説明するのが面倒だから事情を話して合流してから話をするらしい。

なお、俺が【水属性魔法】以外のスキルを扱えることは秘密とさせてもらった。

他の転生者に知られたら厄介なことになりそうだったからな。

となると話を作る必要があり、俺からの聞き取りでお互いに誤解が解けたことにしてもらった。


待機中、ニアノーに約束のカロリーフレンドを定番の5種類の味を渡したのだが、彼はその場では食べずに腰につけたポーチにしまった。

どうやらここでは食べ物が何よりも貴重らしい。

あの場では既に開封済みだったこともありその場で食べたが、未開封でしかも複数個あるのなら後々のためにとっておくそうだ。

箱に書かれている文字は読めないそうなので、それは1箱で1食分の栄養素が摂れる携帯食料で開封しなければかなりの期間腐らないと教えた。


暇潰しにニアノーと少し話した。

彼は小さい頃から母親と共にいくつかのコロニーを点々としており、母に捨てられた際にアメルダの父に拾われて以降ここでお世話になっているらしい。

そしてやはりというかなんというか、獣人だった。


少し経った後、アメルダと他のコロニー構成員に連れられて転生者たちがぞろぞろとやってきた。

転生者たちの俺への反応は二分化していた。

何人かは俺が誤解を解いたおかげで牢から出られたと感謝していたが、他の人たちはあからさまに俺へ不審な目を向け敵対心を露わにしていた。

俺へ好意的な人からこっそり聞いた話によると、どうにも最初に捕まった際に俺が1人いないと言ったことから仲間を売っただとか、1人だけ別にされたことからあいつだけあったかいベッドでぬくぬくと過ごした俺たちを裏切った差別だ贔屓だと思い込んでいるらしい。

それを言うなら俺は全然リーダーじゃなかったのに金髪に生け贄にされたことをまだ恨んでるんだけどな。


そんなギスギスした雰囲気の中、説明会が始まった。


ここでは世界中に瘴気と呼ばれる霧が蔓延している。

瘴気からは魔物が自然発生する他、普通の人間や動物がそれを吸うことにより害を及ぼす。

少し吸った程度では害は無いが、瘴気による害は徐々に体に蓄積していき蝕んでいく。

最初は体調不良から始まり、最終的には体内に魔石が生成され魔物化してしまう。

元々人間や普通の動物だった生き物が魔物化すると凶暴化し、ほとんどの場合理性を失いただ暴れるだけの存在と成り果てる。


故に人々は瘴気を阻む結界装置を設置した町の中に集まって住んでいる。

しかし、町に住めない人たちは町の外で各々独自にコロニーと呼ばれる集まりを形成して住んでいた。

各コロニーはとある伝手から町に設置するような大型の物よりは小さな結界装置を保有している。

それ以外にも、防護マスク自体に神聖魔法で簡易的な結界を纏わせることで結果外でも動けるようにするそうだ。


町に住むには高額な税金がかかる。

そして町では貴族や教会が絶対的な権力を持っており、逆らえば犯罪者として捕らえられて死ぬまで強制労働させられる。

故に貴族や教会へ敵対する者たちや、何らかの陰謀や横暴の犠牲になり逃げ出して来た者たちが現在様々な場所にあるコロニーを形成している者たちだ。

その歴史は長く、ニアノーのように生まれた時からコロニー暮らしな者も少なくない。


結界装置を作れる者、そして結界装置にエネルギーを充填できる者は聖女及び聖者に限られる。

瘴気を退けるエネルギー……神聖力を扱える物が聖女及び聖者と呼ばれる。

しかし聖女、聖者は数が少なく、そのほとんどを王族貴族や教会が保有している。

中でも最も神聖力の高い大聖女が女神教のトップなことから、女神教は王族よりも強い力を持っている。

 

しかし聖女聖者らの全てを教会たちが把握しているわけではない。

中には神聖力を扱えることを隠している者たちもいて、そういった者たちの協力もあってコロニーは存続できている。

このコロニーは地下にアジトが広がっており、アジト内は結界で覆われているため防護マスクが無くても生活できるそうだ。

 


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