第5話 リーダーとの話し合い

 

「ようこそ、侵入者代表君。私はこのコロニーのリーダー、アメルダ。話はある程度聞いているよ」


キリッとした凛々しい女性だった。

あと胸が大きい。


「リオです。この度は申し訳ありませんでした」


「その謝罪は防護柵を壊したことに対してかな?それとも村の家を我が物顔で私物化したこと?それともうちのメンバーに攻撃して怪我をさせたことかな?」


なんだそれ、最後のは知らないぞ。

っていうかどれも俺は関与してないし。

確かに村に勝手に入ったのは入ったけど……。


「……全部です。申し訳ありません」


「ふむ。まあ、君に責任を問うつもりは無いよ。実は君たちが村の外にいる時には既にこちらは君たちのことを捕捉していてね、ずっと見ていたんだ」


なんだって?全然気付かなかった。

と、いうことはつまり……。


「だからね、君は実は土属性の魔法を使えることも知ってるんだ」


……だよなぁ。

だが俺は嘘は吐いていない。

スキルは?と聞かれたから【水属性魔法】を答えただけだ。

それを使うことができるのは本当だし、【土属性魔法】スキルは持っていません、とは言っていない。

相手からしてみれば屁理屈にしか聞こえないだろうけどな。


「安心してくれ、責めるつもりは無いんだ。自分に武器を向ける相手に手の内を全て明かすのは愚か者のすることだからな」


分かってるならわざわざ責めるような物言いをしないでほしい。


「なに、難しいことは言わない。少し土いじりを手伝ってほしくてね。上手くいけば君を含めお仲間も解放すると約束しよう」


「……つまり上手くできなければ解放しない、と?」


「どこの勢力かも分からない侵入者を何もせず解放すると言っているのだから、破格だろう?」


「ちなみに俺が逃げた場合ってどうなります?」


「そりゃ、まあ……お仲間は一生牢屋の中でうちのメンバーたちの慰み者になってもらうな。うちは数も多い分鬱憤を晴らすのも苦労しているようでな、かといって仲間同士で無理矢理なんてできない。その点どこの誰かも分からない性奴隷は遠慮もしなくて良いし壊れてもしばらく使えるから都合が良い」


あー、なるほど。

俺からしてみれば奴らがどうなったところで関係の無い話ではある。

今のところ奴らへの印象は最悪だしな。

だからと言ってわざわざ虐げる方向へ持って行くのもなぁ。


「分かりましたよ、やれるだけやってみます」


「そう言ってくれると思っていた。それじゃあ早速だが現場へ向かおうか」


アメルダに連れられ、俺は部屋を出て別の場所へ連れて行かれた。

ちなみに後ろには武装した男が2人常についていて、殺気というか威圧というか、そんなものをずっと受けている。

なのでいつ斬りかかられるかとひやひやしながら、いつでも[転移]を使えるように準備していた。


連れて来られたのは広い部屋だったが、大半が土砂で埋まってしまっていた。

ここまでの通路や部屋は乾いた土だったが、ここだけ地面がぬかるんでいた。


「これの除去を頼みたい」


と言われて改めて部屋を見渡す。

天井はかなり上まであるし、奥行きもどこまであるのか分からない上に足元はぬかるんでいるときたもんだ。


「これを、1人で?」


確認の意味も込めて振り返ると、アメルダはにっこり笑っていた。


「できないなら君も奴隷の仲間入りだ」


「………」


横暴にも程がある。

俺はこいつらは善良なこの世界の住民で、それを脅かしたのはこちら側だと思っていたから多少はと我慢していた。

だけど、もしかしたらこいつらってこの世界においての悪人集団なんじゃないのか?盗賊とか野盗とかマフィアとかそういうのだ。

そうじゃなかったら何も知らず敷地に入り込んだだけの人間を奴隷になんてしない。


なるほど、そういうことね。

俺は土砂を除去するフリをするためしゃがみこんで地面に手をついた。


「ここは貴重な水汲み場だったんだが、先日の地震で崩落してしまったんだ。ついでに天井や壁はもう崩れないように固めておいてくれ。ああ、地面は固めすぎると水が湧かないからやりすぎないように」


[創造魔法]で土を動かす魔法を……こうして……土砂を直接魔法で動かして退かしていく。

その間に[スキル付与]を行使し、手早くスキルを自分に付与した。


「ついでに部屋の拡張もしておいてもらおうか……それと水を汲みやすいように泉の形に整えてくれ。ああ、そうそう。君食べ物を隠し持ってるらしいな。それも含めて持っている物を全て提出するように」


俺が言うことを聞いているのが気持ち良いのかアメルダは鼻を鳴らしてそんなことを言ってきた。

それで俺の最後の良心も消え失せ、たった今付与したばかりのスキルを使った。


すると、背後でどさどさっと何かが地面に倒れる音がした。

振り向くと、アメルダとずっと威圧して来ていた男2人が地面に横たわっていた。


「な……なにを……した……」


おっと、喋れるのか。

あんまり効果が強すぎると息もできなくなると思って威力を絞ったのが良くなかったかな。


スキル【パラライズ】。

対象に状態異常『麻痺』を与える。

威力は自在に調整可能。


これを3人に使ったんだ。

他にも【魔法禁止】【スキル禁止】【身体能力低下】のスキルを使わせてもらった。


「何をしたか?しいて言うなら悪党の成敗かな」


「わ……我々が……あく、とう……だと……?」


「だってそうだろう?ちょっと不法侵入しただけの何も知らない善良な一般人を寄ってたかって暴行、拘束、奴隷化なんて悪虐非道な行いをする奴らが悪の集団じゃなかったら何だってんだ。それとも悪事を悪事と思わないタイプのイかれた奴らか?」


もう何もできないとは思うが、念のため【万能創造】で『対象を自動で縛り上げるロープ』を創造して3人を厳重に縛って転がす。


「そりゃ俺たちだって勝手に村に入ったことは悪かったと思ってる。その代償が一生虐げられて性奴隷?手持ちの物全部押収?実は魔王でしたって言われた方が納得できるわ」


3人を地面に転がしたまま歩いて部屋の出口へ向かう。


「悪の組織は滅ぼさないとな。全員まとめてゴブリンの餌にしてやる」


「ま、待て……!なにか、行き違いが……っ!」


何かほざいているが、聞く耳があるわけがない。

相手が悪党集団と分かったからには容赦はする気は無い。

とはいえ、本当にゴブリンの餌にする気は無い。

ここにいる奴ら全員拘束して一旦1つの部屋にまとめた後、転生者を救出して解放。

その後3日ぐらい出口の無い場所に閉じ込めてやる。

最終的には解放するし、俺も転生者たちから離れて自由にさせてもらう。


そんなことを考えながら部屋を出たところで、ちょうどこの部屋に来た男の子と鉢合わせた。

深い赤色の髪で癖っ毛の背が低い男の子だ。


「あ、お兄さん」


と、声を聞いて思い至った。

この子、防護マスクをしていないからパッと見分からなかったが、俺がカロリーフレンドをあげた子じゃないか?

まだ成人してなさそうな若い子で、どこかぼんやりしてそうな気の抜ける顔をしていた。

そして特筆すべきは、頭の上の獣耳だ。

よく見れば尻尾だってある。

獣人ってやつなのか?


ああ、この子経由で俺が物資を持ってるって伝わったのか。

やっぱりこの子も敵か。

そう思った瞬間、デバフコンボを叩き込もうととして……止まった。

手を握られて、虚を突かれた。


「拠点、案内する?リーダーにはもう会った?美味しいのまだある?」


にこにこと笑いかけられて毒気が抜かれてしまう。

これが作戦なら大したもんだが……。

もしかしてカロリーフレンドで餌付け成功したのか?

いや……信用するのは危険だな。


「お前は俺に危害を加える気はあるか?」


と問うてみれば、きょとんとした後困ったような顔をした。


「お兄さんは王都の人?」


「いや」


「じゃあ、兵士とか貴族の手下?」


「どっちも違う。ただの一般人だよ」


「なら敵じゃない」


少なくともこの子にとっての敵は帝都、兵士、貴族なのか。


「なら何で俺の仲間は牢屋で拘束されてるんだ?」


「聞き取りしようとしたらスキルとか魔法で暴れたんだって。だから落ち着くまでいったん閉じ込めてる」


「一生性奴隷として手酷く扱って壊れて死体になっても虐げ続けると言われたが、その件については?」


「うーん……?敵じゃないんだよね?だったらそうはならないよ」


つまりあのアメルダとか言う女の意見がここの奴らの総意というわけではないってことか。

それともアメルダは俺たちを帝都とか兵士とか貴族の手下とやらの勢力だと決め付けて敵対してきたとか?


土砂の除去が上手くいけば解放するとは言っていた。

しかしそれは俺のようなチート持ちじゃなければ1人でやり切るには無理な規模で、最初から達成させる気は無かった……俺たちを解放する気は無かったと思われる。

もしかしたら達成したとしても転生者たちを人質に取られて命令され続け奴隷にされていたかも。


……ダメだな、1人で考えても答えは出ない。

そもそも俺がアメルダを既に敵だと思っている状況では何を考えたところで相手が悪人であるに決まっていると考えてしまう。

 

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