雨音の声

歌川ピロシキ

Rainy Night

 雨の日は苦手だ。

 特に、こんな夜は……


 冷たい雨は、衣服にしみこみ、あっという間に体温を奪う。

 だから、雨の日の夜明けには、隣で眠っていたはずの仲間がすっかり冷たくなっていた……なんてことは日常茶飯事だった。


 でも、雨の日が苦手なのは、そんな理由じゃない。


 ト タント ト タンタン タントタンタン

 トトト タンタンタン トトト

 トタント トトタン タント トタン トタンタン タント タントタンタン


 リズミカルに屋根を叩く雨の音が、あの音に聞こえてしまうから。

 そう、戦場でいつも耳にしていた、符号電信の音に……


――テキハッケン


――タスケテ


――ニゲロ


 それらは、今はもういない仲間たちが、最期に発した「音」。


――敵だ、殺される!


――助けて、怖い!


――逃げなきゃ、死にたくない!!


 だから、こんな雨の夜は嫌いだ。

 たくさんの声なき声に取り囲まれて、今夜も息ができなくなる。


――どうして、助けてくれなかったの?


――どうして、君だけ、生き残っているの??


――どうして、君はまだ生きているの……??


 居汚くこの世にしがみついた生者を死者の群れがなじる。


 ああ、今日も夜明けが遠い。

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雨音の声 歌川ピロシキ @PiroshikiUtagawa

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