第15節 配信少女は可愛王()

 あれから、数日。



 私は、前に来たあの倉庫を訪れていた。


 以前とは違いスタッフの人たちが、たくさん出入りしている。


 モノも増えてて……ここ、前線司令部にする、らしい。カッコいいな、司令部。



 で、何の用で来てるかと言いますとね。


 私は倉庫の隅で、計測機器らしきものを繋がれて。



「なれないねぇ、可愛王」


「なれませんねぇ、可愛王」


「なぜだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 四つん這いになって、床を手でだんだんしていた。



「先日のエネルギー反応からしても、魔法少女を超える存在なのは明らかなのですが」


「まさかもう一度なることができないとは。シルバー、何かわかるかい?」


<さっぱりでフォス><しかも魔法の種は無くなっちゃってるのよねぇ><ゆみか殿は魔法少女でもないっス><何者だ貴様>



 うるさい毛布。私が聞きたいわ。


 床にぺたりと座り込み、顔を上げた。


 課長さんとこぶしさん、それから毛玉たちがあれこれ話し合っている。



 ショッピングモールでの私の……変身?は、ちょっとした騒ぎになった。


 私自身のことは直接見られてないけど、光の柱が立ったからね。


 私と亜紀さんは逃げるようにその場を後にして、課長さんたちに合流。



 それから何度かこうして、調べてもらってるんだけど。


 何もわからないし、私自身もあの「可愛王」とやらにさっぱりなれない。



「可愛王とやらがあれば、紫藤さんにリアダン行ってもらえるんだけどねぇ」


「くぉぉぉぉぉぉ……」



 なんたる不覚。課長さんの追撃に、私は床に頭を打ち付けたくなってきた。



 なお、騒ぎ自体は課長さんがうまくごまかしてくれたらしい。


 ヒーローショーの小道具の誤作動とかなんとか。



「こっちの解析処理もダメだったし、少しブレークしましょう。ゆみかちゃん」



 背後から声とともに、私の肩に手が置かれた。


 そして目の前に、ペットボトルが差し出される。


 私が上を向くと、思ったより近いところに……亜紀さんの顔があった。



「っ、はい! いいい、いただきます」



 私は反射的にボトルを奪うようにとって、そのまましゃかしゃかと部屋の隅に移動した。


 急に来るから、不整脈がっ。顔もめっちゃ熱いし、これは見られてはアカンやつ。


 あー……ボトルが冷えてて、首筋に当てるときもちぃ。



「あんたたちが邪魔してるわけじゃないのね?」


 <そんなことしないフォス!><我らと親和性が高い力だ><むしろ助けになるわね!><そうッス!>



 不満げに否定されて、亜紀さんは肩をすくめている。


 私もちょっとそうかも?って思ってたけど、違うのか。


 彼らのせいじゃなければ……あとはやっぱり、私に原因があるという話になる。



(せっかく現状を打開できそうだったのに……)



 ボトルを開け、口をつける。微炭酸おいちい。



 クマ……パニッシャーズは、Vダンにそれらしきものの出現が確認できた、らしい。


 あとは決め手があれば、挑めるのだけど。



 私があっちに行けば、確実にトドメが刺せると思う。


 『月神の矢』はまだまだたっぷりあるし。


 でもそうした場合、万が一逃げられたらこっちで相手するのは亜紀さんだ。



 私としては、できれば逆の配置に、したい。


 ……ただのわがまま、なんだけどさ。


 リアダン用の装備は、Vダンのよりかなり弱いらしいんだよ。



 それで戦うとなると、亜紀さんにだいぶ負担をかける。


 せめてもっと、いい装備があればなぁ。



<第一アッキーが弱いのが悪いフォス!><そうだ精進しょうじんが足らぬ><20年も経ったのにねぇ><そうっスそうっス!>


「なんだとコラ」



 お? この毛玉ども。それは宣戦布告かおぉん? 亜紀さんに喧嘩売ってるだろう? 売ってるな? よし私が買った。


 私は亜紀さんに加勢しようと立ち上がって。


 ふと、気が付いた。



 装備、あるじゃん。



「ちょっとシルバー」


<フォス!?>



 亜紀さんにみょーんって伸ばされてるシルバーに尋ねる。


 他はあっという間に沈められて、目を回してるので。



「今の私でも、あのロボは使えるのよね?」


<ゆみか殿なら問題ありませぬ!>


「そ。ということは」



 魔法が使えない私でも、魔力が扱えれば大丈夫。


 つまり。



「亜紀さんでも、いけるのよね?」



 私が亜紀さんの方を見ると。


 シルバーも彼女を見て。



<余裕でフォス>



 肯定した。



「あほか最初から言え毛玉ぁ!! 地獄に堕ちろォ!!」


<フォフォ~~~~!!??>



 毛玉は遠心力によって伸びきる勢いで、亜紀さんにぶん回された。




 ◇ ◇ ◇




『紫藤さん、そろそろ会敵かいてきします』


「ありがとうございます、こぶしさん。


 こちらはいつでもいけます」



 こぶしさんの静かな声が聞こえる。



 体を司令部に残してVダンに入り、クマのうろうろしているあたりまで来た。


 もちろん私は白銀のアバター、『アチャ子』の姿だ。


 チート級の装備『月神の矢』は、あるだけ持ってきた。



 作戦は単純。



 まず私のスキルを起動。亜紀さんもリアダンに入る。


 私は接敵し、クマを破壊。もし逃げられたら……亜紀さんがリアダンで、迎え撃つ。


 今は司令部にいるブロー小隊も、亜紀さんと一緒にリアダンに入って合体する。



 毛玉たちに追加で情報を吐かせたところ。


 パニッシャーズが現実に戻るときは、同じ地点に出るらしいんだよ。


 そういう仕様なら、待ち伏せするのは簡単だ。前に戦ってたところで、迎え撃てばいい。



「亜紀さん……気を付けてくださいね」


『任せて、ゆみかちゃん』



 ……声を聴くと、ほっとする。


 リアダンは相変わらず通信がダメらしいので、亜紀さんの方はモニタリングできない。


 ちょっと、心配だ。



『紫藤さん、始めよう』



 課長さんから号令がかかる。



「わかりました――――お願いします!」



 私のスキルは、かわいいって認識されると起動する。


 自分自身でイメージしても、いけるとは思う。けど。



『ゆみかちゃん』


「亜紀さん……」



 司令部から、Vダンはモニタリングされている。


 亜紀さんからは、私が見えている。



『とっても、素敵よ』



 ささやくような音声が、届く。


 私の心臓が、跳ねた。



 ――――感じる。


 アバターの『アチャ子』じゃ、ない。


 私を見ている、亜紀さんの視線を、感じる。



 万のコメントを、浴びるよりも。


 魂が、熱くなった。



「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」



 緑の光の奔流ほんりゅうが、私の周囲を吹き荒れる。



<――――技能スキル・セッ……、ガガガガ……>



 ん? なんだろう、システムメッセージが、止まった?



<――――魔法マジック・オン、【可憐なプリティ・ビースト】 受諾カモン!>



 宣言のやり直しリコールと共に。


 緑の光が、白く染まった。



 ちょ、魔法少女に!?



「どういうことだシルバーごらぁ!」


<ちょ、我が輩悪くないフォスしらないフォ!?>



 司令部にいる毛玉から声が届く。



『ゆみかちゃん、落ち着いて』


「けど!」



 自分でも何に拘っているのか、よくわからないけど。


 私は胸がとてももやもやした。


 亜紀さんは。



『その姿なんだから、それで合ってるのよ。きっと』



 優しく私の心を、ほぐしてくれた。



(そう、か。『アチャ子』は私の理想。お母さんに近い姿)



 それはつまり。


 魔法少女プリスピアを模倣もほうしている、ということ。


 なら、今だけは。



(お母さん、力を貸して!)



 私の心の声に、答えるかのように。


 魔力が、あふれる。


 力と――――勇気が湧いてくる。



<行くフォス! 魔法少女>



 不思議と。


 シルバーたちの声も、また。



<<<<プリティブロー!!!>>>>



 私に力を、与えた。



 …………まってその名前どこから来てんの?????


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