第2話 魔法少女→ボクっ子☆可愛王!

第10節 配信少女は再戦を誓う

 毛玉どもと、亜紀さんと、私で、地上……倉庫の中まで戻ってきた。


 少し奥も探したけど。やっぱりクマは、いなくなっていた。


 ロボは解体。私は元の、魔法少女プリスピアのコスプレ姿だ。



 衣装、さすがに汚れや破れが出てる……もっと気を付けて戦えばよかった。



<アッキー、かちょーはおられるフォス?>


「課長なら来てるわよ、シルバー」



 おい銀の毛玉、亜紀さんとまさかのお知り合いかよ。


 というか課長さんとも??



(なんか謎が多いなぁ。この人らや毛玉たち)



 私が何となく毛玉らを見てる間に、亜紀さんは端末を操作して階段をしまってから、倉庫の扉を開いた。


 外に出ると、黒いセダンが近くに止まってて。


 草堂親子が車の外に出ていた。



<<<<かちょー!>>>>


「おやなんと、お歴々がお揃いだ。お久しぶり」


<<<<ひさしぶりー!>>>>



 スーツコートで決めた中年男性に、ふわふわ毛玉どもがまとわりついてる……何この絵面。


 亜紀さんも、深刻な顔で課長さんのとこまで歩いて行った。



「課長、パニッシャーズが……」


「出ただろうねぇ。君が仕留め損なったやつだろう?」


「知ってて!?」



 亜紀さんが大声を出し、課長さんに詰め寄る。



「だから僕は言ったんだよ? 『紫藤さんに好きに暴れてもらえ』って」


「はぁ!?」



 あー……確かに言われたわ。



「神秘体を四体も召喚するとは思わなかったけど。結果は?」


「逃げられましたけど……」


「そうか。紫藤さん、どうして?」



 おっと亜紀さんじゃなくて、私に聞かれるとは。


 私は怒り顔の亜紀さんをちらりと見てから。



「装備が足りませんでした」


「あー……この子らの力を借りても?」


「邪魔でした」


<<<<そんな~>>>>



 私が言うと毛玉が不満を訴え、課長さんがちょっと吹いた。



「ひょっとしてあれかい、ロボになったのかい?」


「はい、まぁ」


「最終形態が邪魔扱いとは。こりゃ傑作だ」



 課長さん、おなか抱えて肩震わせてる。



「伝え聞いたスキルの概要、過去の戦績からして、邪魔になるのは想定通りですね」


「こぶしは厳しいねぇ。さて、どうしようか紫藤さん」



 ん、再戦に当たっての対策を聞かれたのかな。



「それは――「待ってください」」



 私が答えようとしたら、亜紀さんに遮られた。



「なんだい? 亜紀くん」


「ゆみかちゃんはまだ高校生です! 関わらせるべきではありません」



 それはどういう理屈だね亜紀さん????



「おいおい。君たちは中学生だったろう?」


「それとこれとは話が違います!」



 いや合ってると思うよ私??????



「私たちでやるべきです!」



 ……まぁなんか事情があるみたいだし、そこは聞かないけどさぁ。


 私、ちょっと放り出しづらいんだよねぇ。


 私はすっと右手を挙げた。



「言ってごらん、紫藤さん」


「リアダンはモンスターが外に出ることがあるって聞きました。


 なら、私も使うべきです」


「ゆみかちゃん!?」



 私は……ちょっと大きめにため息ついて、亜紀さんに向き直った。



「私が最後に防いだ攻撃、Vダンのいろんな設定なんかから加味するとですね。


 地上で撃たれたら、この街吹き飛んじゃいますよ?」


「それは! そうしないために私たちが!」


「確実な手段をとるべきです。もっと言うなら」



 私はちょっと胸を張って上を向いて。


 亜紀さんの目を、覗き込んだ。



「亜紀さんがとっとと引き返して『装備』とやらをとってきていれば、もっと楽な話でした」



 彼女の顔色が、さっと変わる。



「私は大人で、あなたは子どもよ! 私が残るのが正解だった!」



 ほほー? そうかい。でも、私もそこは譲れんなあ!



「年齢ではなく、能力の問題です!」


「ッ! こっちには責任があるのよ!」


「責任とは、役割に応じてとるべきものです! 私にだって――――」


「子どものあなたに何が「はいそこまでね〜」」



 額を突き合わせるくらい詰め合ってた私達を、課長さんが引き剥がした。



「亜紀くん、紫藤さんの主張は正しい」


「ですが!」


「だがそれは、現場……ダンジョン内の理屈だ。地上ここでは通じない。


 わかるね? 紫藤さん」



 すっと、課長さんが私の目を見た。


 ……顔は真面目だけど、瞳が笑ってる?


 私はしぶしぶうなずいた。


 

「で、そこを何とかするのが僕ら大人の仕事だ。いつだってそうだったんだよ」


「課長、しかし……」


「紫藤さんがやりたくない、というなら亜紀くんの言う通りだ。無理強いはできない。


 そこはどうかな?」



 二人と、ついでにこぶしさんも私を見た。


 私は。



「やります」



 即答した。



「ゆみかちゃん!」



 亜紀さんが咎める。


 でもここは、私も引けない。


 責任が、ある。



「あれを最初に退治し損ねたのは、私です」



 課長さんの「ほう」という呟きが聞こえた。



「……どういうこと? ゆみかちゃん」


「Vダンのモンスターは、倒すとドロップ品を残して消える。


 でも先日私が戦ったあいつは、そのまま体が残った。


 たぶん、その後にリアダンに逃げたんじゃないですか?」



 HPバーは確かになくなったから、倒したと思って私はログアウトした。


 でも生きてて、逃げ延びたのだとすれば……いろいろと繋がる。



 亜紀さんたちはあいつのことを、倒し損ねたと言っていた。


 亜紀さんと私が最初にあった、あの時。あれがもし、現実に逃げてきたあいつと戦った後だったなら。


 あいつがリアダンから外に出て、暴れ回った後だったと、したら。



 その原因は――――下手を打った、私だ。



「パニッシャーズは勝手にVダンに入るみたいでね。


 記録には一切残っていない。


 でもいろいろ踏まえると、君の言う通りの可能性は……非常に高いね」



 課長さんは満足げに頷いて、私の方に手のひらを差し出した。


 続きを、うながされている。



「なら、Vダンとリアダン、両方で構えて今度こそ倒しきった方がいいです。


 だから私にも……やらせてください」



 課長さんが再び大きく頷く。


 亜紀さんは……あら。そっぽを向かれてしまった。


 かわいいか????



「みなさんはどうします」



 課長さんが毛玉たちに聞いてる。


 ふわふわ浮いてたやつらは横一列に並び、びしっと敬礼した。


 いや、何に敬意示してんだよ。



<我らブロー小隊はゆみか殿の旗下きかに入るフォス!>


「そういえばあとお二人は?」


<あいつらぶっちしたッス>



 あと二匹いんのかよ。


 ……いやまって。ちょっと嫌な予感がする。



「その、課長さん」


「なにかな? 紫藤さん」


「この毛玉ども、私が引き取る、んでしょうか……」



 課長さんはにんまりと笑った。



「彼らは魔法少女のそばじゃないと、活動しにくいらしくてねぇ」


<<<<お世話になります!>>>>



 やめろこっちに敬礼すんな。



「おうち帰って」


<<<<そんな~>>>>



 草堂親子が肩震わせてめっちゃわろてる。


 亜紀さんは……こっちを複雑そうな顔で見てた。

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