第9節 配信少女の初決戦

「ゆみかちゃん、前!」



 亜紀さんの声に、私はロボフェイスの中から前を見る。


 せまい視界の向こうで、クマがこちらを見ていた。


 スタンから復帰されたか! リテイクの時間寄越よこせよ!



<レッグブーストオォォォン!>



 へ?


 足元からの叫びとともに、かかとからすごい力の噴出が。


 そして無防備なところに、そんな力のかけ方をされるとですね?



「ふんぎゅ」



 足がずるっと上がりまして。


 270度くらい回って、地面に叩きつけられた。



「ゆみかちゃん!?」


<んんー? 間違えたかしら?>



 間違えっぱなしじゃ綿わたえぐり抜くぞクッション。



<ならこうッス! アームマグナァァァム!>


「は?」



 私の両手首から魔力がロケット噴射し、すごい勢いで体が上昇!


 ……頭から天井にめり込んだ。



<飛ぶなら俺の出番だろぉん? ロケットウィンンンング!>



 翼が勝手に羽ばたき、私はきりもみしながら天井を削りつつ……地面に真っ逆さまに墜落した。


 痛くないけど、気持ちが痛い……。



<<<…………>>>


「ゆみかちゃん、危ない!」



 再び、亜紀さんの警告。


 これは、クマが首を飛ばしてきたか!?


 まだ残っているだろう、スキルの力を解禁!



「うぉぉぉぉぉ!!」



 私のロボボディが滅茶苦茶に動く。


 浮き上がって回転。広げた手足の間を、クマの首四つが抜けた。



 できるかわからないけど……こいつらがVダンの装備みたいなものなら!



<おぉ!?><なんと><これは>



 手首、かかと、翼から調整しながら魔力を噴射ふんしゃ


 姿勢を制御しつつ、首の一つに蹴り込む!



『がぁぁっぁぁ!』



 よっし眉間に刺さった!


 けど、二回目は弱点に刺さってクリティカルヒットもスタンしない。


 体勢を立て直して、次に備えないと……



<よしチャンス! いま必殺の>


「お前ら動かすな! 私にコントロールを寄越よこせ!!」


<<<<そんな~>>>>



 頭部の毛玉がなんかしようとしたので、私は釘を刺した。


 緑の光は、さっきので消えてしまった。


 こいつらに無駄行動とられたせいで、私のスキルは効力切れだ。



 ……こんな可愛くない姿じゃ、スキルはもう使えないだろう。

 

 今みたいな無茶は、もうできないんだから。慎重に行かないと。



(今度はスキルなし、か。


 牽制しつつ、近づいて……あれ?)



 なんかクマが両腕をかかげてる……しまった!


 私は振り返り、急いで亜紀さんに近づき、奴からかばうように立つ。



『『『『ガアアアアアアア!!』』』』



 背中の方からクマの咆哮と共に、膨大な熱量と光がせまるのを感じた。



「亜紀さん、ちぢこまって!」


「ゆみかちゃん!?」



 轟音が、洞窟に響き渡る。


 後ろから、とてつもない衝撃が来て……私の背中に直撃した。


 足をなんとか踏ん張る。



「あああああああああ!」



 力の奔流ほんりゅうし負けぬように、破れかぶれに気合いを入れる。


 って全身からみしみし音がするけど大丈夫か!?


 もう少しがんばれ! 毛玉どものロボ!



「くぉぉぉぉぉぉ!!」



 無駄かもしれないけど、意思を、力を手足に注ぎ込む。


 気力を振り絞るも、意識が遠くなって――――


 不意に背中からの圧力が、なくなった。



「――――っはぁ、くっ」



 つんのめって、膝をつく。


 音を立てて、地面が少し割れた。



「ゆみかちゃん、しっかり!」



 亜紀さんが私の顔を、ロボ越しに覗き込んで来る。



「大丈夫、です。それよりやつは、どこに……」


「…………いない、みたい」



 やっぱり、か。


 二回急所に当てられたとき、戦闘時間によっては大技を撃って撤退するんだあいつ。


 なんとか体を回して後ろを見ると、ほの暗い洞窟の中にあのでかいクマの姿は見えなかった。



<仮想に逃げられたフォス><あなたが止めをささないから悪いのよ><そうッス!><戦士の風上にもおけぬ>


「うるさいだまれむしるぞ」


<<<<そんな~>>>>



 騒がしいやつらめ。一気に気が抜けちゃったよ。


 ……なんか今、気になること言わなかった毛玉。


 あいつが仮想に? 逃げる??



「仮想ってVダンのこと? 確かに向こうにも、あのクマいたけど」


「……なんですって? ゆみかちゃん、それ本当?」



 亜紀さんが真剣な顔で私を見る。


 きりっとしてとてもかっこいい。


 ……ではなく。



「本当って……Vダンのあれ、ダンセクが実装したボスじゃ」


「違うわ」



 はい?????



「Vダンにパニッシャーズはいないはずよ。アレを模倣もほうできるわけがない」


「え、じゃあ」


「やつらはVダンとこっちを行き来してるのね……どうりで長年、捕まらないはずだわ」



 そんなんあり?


 ……いや、まって。



 リアルと仮想を行き来するモンスター。


 「仕留め損なった」という亜紀さんの発言。


 私がVダンであいつを倒したあと、今の姿で出逢った……亜紀さん。



 まさか。



 私は顎に手を当てて悩む亜紀さんを。


 ロボの中から、じっと見た。

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