第8節 配信少女、合体!

 走って戻ると、闇の奥に別の……ケダモノの黒が見えた。


 その手前に、亜紀さん。



「亜紀さん!」



 しゃがみこんでる亜紀さんに、クマの首が伸びている。


 四つ首クマの、混沌の獣。


 あの首が厄介だけど……同時に、弱点でもある。



(私は)



 自分の姿を。


 紫藤 ゆみかという、魔法少女プリスピアを。


 イメージする。



(かわいい!)



<――――技能スキル・セット、【◆◆◆◆】、承認ゴー!>



 承認された! 現実でもシステムメッセージ浮かび上がったし、音声付き! びっくりだよ!


 体から緑の光が、魔力があふれ出る。


 私は亜紀さんに迫る首を見据え。



 ぽんっ、と跳ねた。



 それだけで、私の体は矢のように真っ直ぐクマの首へ向かう。


 すごい速度だ。なんとか両足を、前の方に向けて。



「おりゃあああああああああ!!」



 私の足は、見事にクマの眉間に突き刺さった。


 矢や、魔術だけじゃない。


 私のスキルは。



 どんな攻撃だって、必ず急所に当ててくれる。



 反動に合わせて、後ろに宙がえり。


 ちょうど……亜紀さんの目の前に、立った。



 クマは首を戻し、悶えてる。


 四つの首が混乱したかのように、右往左往してて……Vダンと同じだ。


 弱点の眉間を攻撃されると、しばらく身動きがとれなくなる。確か180秒。



 私は後ろを振り返った。



 ……亜紀さん、この短時間でもうケガしてる。


 足は擦りむいてるみたいだし、左腕からも血が出てて、痛々しい。


 ここはVダンじゃないし……治療とかして上げられない、かな。もどかしい。



「どうして戻ってきたの!」



 苦しそうに、亜紀さんが声を上げた。


 私は。



「私の方が強いからです!」



 堂々と言い返した。


 亜紀さんはびっくりして固まってる。



「歩けるなら、離れてください。可能なら、亜紀さんが救援呼びに行ってくださいね」


「あなた一人に任せるわけには!?」


「勇気の使徒・プリスピアは!」



 私は高らかに、宣言する。


 くるりと、クマの方を振り返って。



「敵に背中を向けて、逃げたりはしない!」



 私の体が、またほのかに緑に輝く。


 まだ何回かは、攻撃できそうだ。


 ――――いける。



「守るべき人を背にして、負けたりはしない!!」



 心を、意識を。


 研ぎ澄ます。


 10年最前線やってた廃V冒険者、舐めるなよ!



「ゆみか、ちゃん……」



 亜紀さんは、まだ動けないみたいだ。


 彼女の声を背に、私は飛び出した。



(考えなしに飛び込んだら、こいつはカウンターをとってくる。まずは!)



 私が地面を蹴り上げようと、足を動かしたとき。


 ぽんっと音がして、眼前の空中に何かが現れた。



<その心意気、気に入ったフォ!>



 ……は?


 え、なにこれ。ボイス付きシステムメッセージで、何か語り掛けてくる。


 急展開に、思わず足が止まった。



<我々が!><君の!><力になろう!>



 なんか丸ちっこいのが4つ出てきた。


 ベージュのクッション、オフホワイトのボール、クリーム色のブランケット、シルバーの毛玉。


 ……みたいなのに、くりくりカワイイ目と、ほっそい手足?がついてる。



「えぇ〜……間に合ってま<行くぞ! 新たな魔法少女への、祝福フォス!>」


<<<サー、イエッサー!>>>



 話聞けよ毛玉。


 そいつの白銀の毛がぶわーっと伸びて広がって。


 クマからこちらを覆い隠し。



「神秘体が4匹も!? ゆみかちゃん!」



 亜紀さんの声を遮って。


 私を、包みこんだ。



 中は広々とした、白銀の世界。


 不思議な力の風が吹き荒れて、私の体を浮かび上がらせる。



<1号、クラウドレッグ。参りますわ!>



 ベージュのクッションみたいなやつが、私の両足にはまる。


 がきょーんがきょーんと音がして……メカメカしいブーツ?になった。


 スカートが消えて、下半身を腰まで覆っている。



「は?」



 メカだ。ロボだ。なんだこれは。



<2号、スノウガントレット! 行くッス!>



 ワタアメみたいなボールが、私の両手首にすぽっと入った。


 ばきーんどぎゃーんと派手な音を立てて、白地に太い黒いラインが入った……ロボ腕になる。


 ショールを残して、上半身もメカになった。



「え? ちょ、ま」


<問答無用! 3号、クリームウィング! セット!>



 話聞けよ破るぞ毛布。


 クリーム色のブランケットは、私の背中からとりついて……ショールの上から体を包んだ。


 ずばーんしゃきーんと謎の変形?をし、毛布が鋼鉄の翼に変わる。



<0号、シルバーヘルム! ゆくぞ魔法少女>



 白銀の空間が縮み。


 それは私の首から上をすっぽり覆って。


 がこーんしゃこーんゆうて……たぶん、ロボヘッドになった。



<<<<プリティィィブロォォォォォ!>>>>



 この、この……こいつら!



「リテェェェェイク!!!!」



 私の! カワイイを! 返せェェェ!



<<<<そんな〜>>>>



 ふざけんな出荷すんぞ毛玉ども!

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